バレット祭り
空洞のはしごを登り、さあバレットに戻ろうと思ったけど、生い茂った樹々の中を迷わずに帰れるかは自信がなかった。
「感で行ってみる?」
メロンさんが言ったけど、僕はある考えがあった。
「僕今までトラあなシリーズやってきましたけど、こうゆう場合だいたい近くに『鳥の羽』があると思うんですよ」
「何? 『鳥の羽』って」
「あれですよ。使うと今までに行ったことのある村や町に一瞬で移動できるアイテムです」
「どこにあるの?」
「それはわかりませんけど、きっとこの近くを探せば……」
二人で草むらや岩の陰を探す。トラあなの知識はやはり僕に分がある。
「うそつき。『鳥の羽』なんかどこにもないじゃない」
結局30分ほど探したけど見つからず、近くを通った漁船に声をかけ、破壊された空洞から乗り込んでバレットに戻った。
朝のバレットはいつものように活気があった。乗せてくれた漁船のかたにお礼を言う。町長のことも気になったけど、それよりも気になることがあった。僕たちは『民宿トピー』へ向かった。
「あれ? おかしいね。この辺にあったよね?」
「そうですね。雨が降ってたし夜でしたが、そんな見つけづらい場所じゃなかったはずです」
民宿トピーは見つからなかった。町の人にたずねても
「この町にはそんな民宿なんてないよ」
と返ってくるだけだった。
ポゴフさんとトピーさんは人間の姿に化けたシーバレントだった。香り筍ご飯を思い出す。
「今ごろ二人は仲間たちと一緒に広い海を泳いでいるのね、きっと」
メロンさんはキラキラと光る青い海を見つめていた。
またいつかポゴフさんとトピーさんに会えるだろうか? 僕は忘れない。どしゃ降りの夜のことを。それと、メロンさんの寝相も。
高台にある町長の家の前では、『バレット祭り』のやぐらの解体作業が行われていた。男たちが威勢のいい声で木材を運搬し、女性はシートを折りたたんだりしている。
町長の家のドアをノックする。
「はい」
長身の女性、町長の奥さんが出迎えてくれた。そして町長の部屋に通された。
頭に包帯を巻いた町長は僕たちを見るなり
「さ、こちらへ」
とソファを勧めた。僕とメロンさんはお辞儀をしてソファに腰かけた。
「この度は本当に申し訳ございませんでした。そして、命を助けていただきあるりがとうございました」
憔悴しきった様子だった。奥さんが紅茶を入れてくれた。
「ごらんのとおり今年の『バレット祭り』は中止となりました。何百年と永続してきた祭りでした……。町の者に申し訳ない。それと、シーバレントにも……」
僕たちは何も言えなかった。
「感謝を忘れ、ただただ町の繁栄を追い求めたばっかりに。わたしは町の長としての器はない。町長失格です。今日の夜にでも町の者に伝えようと思います……」
「それこそ町の者やシーバレントに失礼ですわ」
ずっと黙っていた町長の奥さんが言った。
「あなたは責任を取る必要があります。シーバレントがまたこのバレットの海に戻って来れるような町に。そして……。外の声をお聞きなさい。町の者がこんなにも……」
家の外からあいかわらず元気な町の者の声が聞こえる。
バタンとドアが開いた。
「町長! やぐらの解体は終わりました。ちょっとこんなもんでいいか見てくれませんか?」
現場主任だろうか。ひときわ体格の良い日焼けした男が、ひときわ大きな声で言った。
「いや~バレット祭り残念でしたね。まあ、そんな年もありますよ」
しゃべりながら階段を降りていく男のあとを追う。
「どうですか?」
男が玄関のドアを開けた。
「おおお。これは……」
町長は膝から崩れ落ちた。
高台にはやぐらはなかったものの、町の者が簡単な出店の用意をしていた。魚や果物、さまざまな料理や装飾を高台に運んでいる。
「いや~町のみんなで話し合ったんすよ。どうも今年はシーバレントが獲れないらしいけど、お祭りぐらいやろうじゃねえかって」
「あなた」
奥さんは静かにつぶやいて、泣き崩れる町長の肩に手を置いた。よく見ると奥さんの手は傷だらけだった。
「いや~奥さんも手伝ってくれましてね。あっしは断ったんですがどうしてもって言うんで、漁の網を一緒に引っぱってもらいました。すみません」
「ありがとう……」
町長は言った。
「なあに。バレットの活気はどこにも負けませんよ」
日焼けした男の笑った歯がとても白かった。
僕たちは町長から『船のパスポート』をもらった。町長からは
「ぜひ、今夜のバレット祭り参加していってください。町の者に紹介します」
と言われた。
港から高台を見ると赤い炎で明るかった。町の者の活気のある宴の賑わいがここまで聞こえる。僕は隣に立つメロンさんにたずねた。
「参加しなくてよかったんですか?」
メロンさんは月が映る夜の海を見つめながら
「シーバレントが戻ってきたらね」
とほほ笑んだ。




