ある漁師の想い
浴衣は思った色に変更できた。オーソドックスな白地に青い模様はやめて、ド派手な赤に変更してみたけどやっぱりやめて、結局白地に青にした。きっとメロンさんは緑色だろう。
サイズもぴったりだった。各プレイヤーぴったりに設定されているんだろう。ただ、帯の結び方が分からなかったからなんとなくそれらしく結んだ。結び目がなかなか真ん中にこなかった。
玄関へ続く回廊を戻る。雨の音もさっきよりは弱まっていた。風呂上がりだからか、雨の湿気のせいか、体は蒸し暑かった。二階の部屋へ戻る。
部屋の真ん中にお膳が二つ並べられていてトピーさんが座布団を運んでいるところだった。
「お風呂いかがでしたか? ゆっくり温まれましたか?」
「あ、はい。ありがとうございます」
部屋はほどよくクーラーが効いていてうなじのすき間から入り込む空気が背中を冷やし、気持ち良かった。僕はお膳を前に、座布団に座った。
「お~かろり。お。すごいご馳走じゃん」
メロンさんがやってきて僕を見た後すぐに視線はお膳に移ったようだ。予想的中。メロンさんは緑色の浴衣姿だった。
「ありがとうございます」
トピーさんに言いながらメロンさんが隣に座った。首からタオルを掛け、メロン頭の髪の毛が完全に乾ききってなく、そしてなぜか、きっと同じ備え付けのシャンプーを使ったのにもかかわらず、メロンさんの髪からはいい匂いがした。
「バレットの名物、バーモンの煮付けに、香り筍ご飯、三色魚の刺身などなどです」
トピーさんがメニューを紹介した。
「かろり。いただこう。トピーさんいただきます」
メロンさんは緑色の刺身に黄色いタレを付け、香り筍ご飯を一緒に口に運んだ。大きく開けた口だった。
「うわ~おいしい。なにこれ。こんなの初めて」
僕もいただこう。まず、黄色い刺身を食べてみる。口の中で溶けると言うけど、本当に溶けるようになくなった。アイスのような感覚。味は、まさに初めての味だった。香り筍ご飯の匂いがまた不思議で、さわやかな山の朝の匂いというか、そして疲労回復効果があるようだった。今僕のHPは満タンだけど、ステータスを開いたらHPメーターの横に上印のマークがあって、どうやら回復実際に回復しているようだった。
バーモンの煮付けもまた美味しかったし、ご飯に合う。僕は香り筍ご飯をおかわりした。
「あたしもお願いします」
と言ってメロンさんもトピーさんに茶碗を渡した。
「このバーモンって魚美味しいですね」
「バレットの名物の魚なんですよ。干物にしてもおいしいですよ」
僕は、干物はちょっと嫌だなと思った。
「あ、トピーさん『シーバレント』って魚ご存じないですか?」
メロンさんが箸を止め言った。
「あーもう今ではすっかり獲れなくなりましたね。昔はバレットと言えば『シーバレント』だったのですがね。お刺身にしてもおいしいし、炊き込みご飯にし……」
「あたしたちシーバレントを釣ろうとしているんですが、まったく情報がなくて。トピーさん何かしりませんか?」
「釣りですか。う~ん、それならうちの旦那がなにか知っているかもしれません。少々お待ちを」
トピーさんが部屋を出ていった。
「もう一杯おかわりしちゃおう」
メロンさんは自分で木の筒から香り筍ご飯をよそった。山盛りだった。
「どうも。ポゴフです」
がっしりとした体格の日焼けした男性が、僕たちの前であぐらをかいて座った。メロンさんが手渡す座布団をポゴフさんは手で制し、話し出した。
「なんでも『シーバレント』を探しているとか」
「はい。そうなんです。でもどこにいるのかわからなくて……」
ポゴフさんは黙って畳みを見つめたままだった。外の雨の音も止み、クーラーの音が静かに部屋に鳴っている。
「……バレット祭りか」
「はい。そうなんです。それで町長に頼まれまして。シーバレントを獲ってきてくれと」
「秘密は守れるか?」
ポゴフさんは僕たち二人を交互に、険しい目つきで見ながら言った。
「私もバレットの漁師として20年に一度のバレット祭りを開催したい。だが、旅の者。海と我々は共に生きていかねばならないのだ」
ポゴフさんの声が部屋に響く。
「今から20年前のバレット祭りは盛大に行われた。その年は豊漁だった。私たちはバレットの海に、そしてシーバレントに感謝した。だが、だが……。
先代の町長、そう今の町長の父がシーバレントの乱獲を行ったのだ。シーバレントを町の名物として訪れる観光客や旅人に大々的にアピールし、この町をもっと活性化させようと考えたのだ。漁師たちの間でも意見は分かれた。私は反対派だった。我々の勝手な考えで、海の神の化身と言われるシーバレントをそんな目に合わせられないと。
だが反対派の我々の意見も聞かず、先代の町長はシーバレントの乱獲を実行した。その結果すぐにシーバレントは激減した。このままでは絶滅してしまう。そう考えた反対派の私や他の者で、数少ないシーバレントをある場所へ移した。稚魚もうまく育ってくれた。その場所は口外しないと誓った。もう二度とあのような過ちは犯してはならない。
だが、あの頃のバレットの活気を、そして海への感謝を私たちは忘れてはいけない。その場所まで私が同行する。明日の朝5時に船を出す」
ポゴフさんが部屋をあとにし、僕たちは敷かれた布団に寝ころんだ。
そんなことがあったのか……
糊のきいたシーツにうつ伏せになる。
「かろり、海には感謝しないといけないね。フィレオフィッシュバーガーにも」
「フライドポテトにもですね」
「そうね」
「それと」
「ん?」
「シーバレントってどんな魚なんでしょうね。見てみたい」
そう言ったら、う~ん気のせいかな、メロンさんが笑ったような気がする。
「じゃあ電気消すね。あ、5分ね。寝る時間。おやすみ」
「わかりました。おやすみです」
枕元にある小さな電気スタンドからカチッと音がした。うつ伏せの中で考える。きっと今この部屋は真っ暗なんだろう。でも少しは見えるかもしれない。メロンさんの寝顔を。
そう思ったけどやめた。なんか悪い気がした。
5分後だけど、早くメロンさんに会いたい。睡眠時間を5分に設定し、『OK』をタップする。




