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メロンさんに会うために  作者: かろりんぺ
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シーバレント釣り

「こん」

 そんなメロンさんの声を聞くと明るくなる。一瞬で顔が浮かぶ。

「こんにちは」

 僕たちは今日、町長さんに頼まれた『シーバレント』を釣りに行く。


 昨日の夜、メロンさんとお互いの状況について話した。なんとなくエミリアさんの喫茶店では話しづらかったので、おしゃれなドリンクショップで、もちろんアイスコーヒーを飲みながら話した。

「あれ? ミルク入れないの?」

「いや、やっぱりアイスコーヒーはブラックの苦みですよ」

 苦かった。

 そして、僕は海賊船の出来事と釣りざおを手に入れた経緯を簡単に話した。ミズキさんについては言わなかった。

 メロンさんのほうはというと、海賊船のことは分からなかったから自力で5000ゴールドを貯めたということだった。

「教えてくれればいいじゃない」

 ムッとした顔で、僕のアイスコーヒーにミルクを入れてきた。僕にとってはそっちのほうが飲みやすかったけど

「なにやってんですか」

 と慌てて困った素振りを出してみた。

「じゃあ『シーバレント』釣りに行きますか?」

「あ、ごめん。今日はもう寝ないといけないの。明日朝早いからさ。明日にしよっか?」

 メロンさんとの30分ほどのおしゃべりで昨日はログアウトした。ログアウトの際フレンドリストを開くと、ミズキさんはマシンさんたちとプレイしているようだった。ミズキさんのアイコンは長い黒髪の女性だったけど、実際の黒髪ショートボブの水希さんが思い浮かんだ。


 早めのログアウトは功を奏した。僕は家の庭にある小さな物置に向かった。夜なので大きな音を出さないように物置を開け、父が付けた電球のスイッチをひねった。

 いつぶりに物置開けたんだろう。

 そんなことを思いつつ、僕はお目当ての物を探した。電球の光が頼りなかった。

 玄関に戻ると居間ではテレビの音が聞こえた。父と母の聞き取れない話し声が聞こえた。なんにも言われなくてよかった。

 部屋の床にお目当ての物を置く。父の釣り竿とツールボックス。まだ20:00を過ぎたばかりだったけど、それから小学校以来となる釣り糸の結び方を2時間みっちり復習した。

 床に散らばった釣り糸のくずが裸足にチクチクと当たった。


 天気は釣り日和とは言い難くどしゃ降りだった。

「こんな雨の中じゃ、なんか釣りしたくない。かろりは雨男ね」

 大きな葉っぱ型の傘を差すメロンさんの格好は完全に釣りのスタイルだった。魚のマークのキャップに緑色のチョッキ、緑色の長ぐつ。カエルに見える。

「まあ、こんな日が逆に釣れるかもしれませんよ」

「うるさい」

 僕はメロンさんからクーラーボックスを渡された。ちょっとでかすぎなんじゃないかと思った。

 バレットの港で小船を借りる。船を操縦したことはなかったけど、赤いボタンが付いていて押すと進んで、左右のキーで方向を変えるというシンプルなパネルがある。

「レッツゴー」

 メロンさんが強く赤いボタンを押し、僕はのけ反った。

「で、どこ行くの」

「どこですかね。あそこの岩が突き出している所はどうですかね?」 

 どしゃ降りの雨に傘を差していても顔は濡れ、波しぶきが体に当たる。僕たちは船を停めた。

「ちょっと貸してください」

 僕はメロンさんの釣りざおを手に取って釣り針を結んだ。メロンさんはじっと見ている。

「あとはエサですね」

 港で買ったエサの小箱を開ける。

「うわっ、気持ち悪い」

 黒いミミズのような生き物が小箱の中でうねうねしている。

「これはかろりの仕事ね」

 メロンさんは自分でうなずきながら勝手に納得している。僕も気持ち悪かったけど、顔には出さず釣り糸に黒いエサをつけ、竿を渡した。

「さっさと釣っちゃおう」

 メロンさんが勢いよく岩場に向かって竿を振った。


 1時間ほどしても僕たちは一匹も釣れなかった。雨はあいかわらずどしゃ降りのまま。

「いったんどっかで休憩しませんか?」

「そうね。ちょっとお腹が空いたしね」

 僕たちは切り立った断崖に空いているほら穴に小船を進めた。

 中は広い空洞になっていて、あちこちに空いた穴から光と雨が流れ込んでいる。初めて見る光景だった。海水の色が黄緑色に変化していた。

「もう。ひどい雨ね。この雨男」

 そう言ってメロンさんはびしょ濡れのキャップを脱いだ。とはいっても、いくつもの小さな空洞からのわずかな雨に濡れる。

「ほんとすみません」

 メロンさんと会った時もこんなどしゃ降りじゃなかったけど、小雨が降っていた日。

「すぐ本気にするのね。まったく。冗談だって。釣り、いろいろありがとね」

 メロンさんはでかいクーラーボックスを開け、中から二回りも小さい銀のボックスを取り出した。そして

「はい。これ」

 と僕に包みを渡した。

「え?」

「え?じゃないの。どうぞ」

 包みを開けるとそれは『おにぎり』だった。

「バレットの民家のおばさんに台所借りて握ったの。具はなんにもないけどね」

 顔を見たけど、メロンさんは僕と目を合わさずに一口かじった。僕もかじった。海苔に巻かれたメロンさんの手で握られた大きめの『おにぎり』。

 小穴から降る雨に濡れたおにぎりは、塩が多めでしょっぱかったけどおいしかった。てか、うれしかった。うん。ほんとに。


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