座礁船1
あれからメロンさんとは、レベル上げをしながらお金を貯めようとした。この『お金貯め』が大変だった。釣りをするための『旅の釣りざお』がなんと5000ゴールドもしたからだ。
毎日メロンさんがログインするわけではなかった。一緒に冒険しつつも、やっぱりお互いに現実の話はしなかったし、メロンさんはもしかしたら社会人として働いているのかもしれない。メロンさんとは「シーバレント釣り」は一緒に行こうと約束してある。
僕のほうはあいかわらず学校に行って、たまにアルバイトをして、家に帰ってはゲーム。だいたいこの3パターンしかない。
ある日僕はマシンさんから冒険に誘われた。「一緒にお金貯めないか?」と。そこにはまささんもいたし、ミズキさんも誘おうということでまた4人で集まった。みんな釣りざおを買うところでストップしているらしかった。
「まいったよな。敵倒してもそんなお金落ちてないし。どっかいい金策場所ないの? マシンちゃん」
まささんが草むらに寝そべっている。
「そうだよな。これじゃあ時間がかかっちゃうよな。実際だったら競馬で儲けちゃうよ、俺なら」
「いつもはずれてばっかじゃん」
「まあな」
マシンさんとまささんは本当に仲がいい。僕は聞いてみた。
「マシンさんとまささんって、いつから知り合ったんですか?」
「あ、俺たち? 言ってなかったっけ? まあリアルで一緒の職場で働いてるんだよ」
「そうなんですか」
そういうパターンもあるんだな、と思った。
「かろりはリアルで何してる人?」
まささんに言われてドキッとした。学生って答えるのもなあ。
「僕はアルバイトをしています」
「そうなんだ。で、ミズっちは?」
それ以上深く聞かれなかったけど、ミズキさんをミズっちってマシンさんは呼んだ。やっぱり『みずき』って名前は『みずっち』になるんだな。
「え? わたしですか? わたしは……わたしもアルバイトです」
ミズキさんは額の髪をかき上げた。長い黒髪が時間差で揺れる。
「そうなんだ。ほんと不思議だよな。ゲームの世界で俺らこうやって一緒にプレイしてるんだもんな」
いつもおチャラけていてそれでいて男らしいマシンさんだけど、意外と冷静な人なのかなぁと思ったし、ミズキさんは水希さんなのかなともちょっぴり思った。
情報が入ったのは、僕ら4人でバレットのおしゃれなドリンクショップで休憩していた時だった。トイレに行ったミズキさんが戻ってきて、声をひそめた。
「聞いてください。今トイレで他の人が話しているのを聞いちゃって。この街から北に行ったところの別の海岸にたくさんの座礁船があるらしいんです。そこにたくさんの『鉄くず』とかいろいろ落ちているんですって。それを売ればお金になるらしいです」
背もたれに深く体をあずけていたマシンさんが立ち上がり
「やるじゃんミズっち。よし行こうぜ」
みんなですぐにレジに向かう。マシンさんはリーダーに向いているなぁ。
バレットから北に進む。北に進むといっても、切り立った岩山を反時計回りに避けるように進んだ。平らな道がやがてでこぼこになり、落石した石がいくつも落ちていて歩きにくかった。
バレットから20分ほど歩いただろうか、だんだんと岩山が視界から遠ざかり始めた。潮の匂いが濃く感じられた。
「あっ。あった」
ミズキさんの高い声に激しい波の音が重なる。
これまた映画でしか見たことのない、朽ちた大きな木造の船が浜辺に打ち付けられていた。穏やかなバレット側の海岸とは違い、北側の海岸は風も強く、荒い波が座礁船に押し寄せる。
「なんか不気味なところだな」
まささんがツメを構えながら浜辺を進んでいく。
横倒しになった座礁船の船底に穴が開いていて、僕たちはそこから侵入することにした。船内はかび臭く、湿った木の床はギシギシと音をたて、船壁を無数の虫がちょろちょろと動いている。そして横倒しになっている船内は歩きづらかった。
マシンさんが原型の分からない木の板をどかすと、そこは二段ベッドがいくつも置かれていた。船員たちの就寝場所だろうか。
「キャーっ」
ミズキさんの折れてとんがった魔法使いのぼうしの先が僕に当たった。
「うわっ」
マシンさんも声をあげた。朽ちた壁から外の光が流れ込む。
そこにはやぶけた服とガイコツがあった。頭骨は歯を結んだまま僕たちのほうを向いていた。
「なんだよ、これ……」
まささんが言ったけど、誰もそのあとに何も言わなかった。
その時ガイコツから声がした。脳内に聞こえる。
「そこにいるのは……おお……やっと助けがきてくれたか。船長を…船長を……」
声は途絶えカチンと音がして、見ると頭骨のすぐそばに錆びた鍵が落ちていた。
「これは? 船長室の鍵か?」
マシンさんが鍵を拾い、僕たちは船長室を探した。
船員たちの就寝場所から廊下に出て少し歩くとすぐに船長室は見つかった。ためしにマシンさんがドアを開けようとしたけど開かなかった。
「やっぱこれか?」
そう言ってマシンさんは拾った鍵を鍵穴に差し込んだ。
「開けるぞ」
みんな黙ってうなずいたので、僕もそうした。
横倒しのせいで、マシンさんは開けたドアを両手で持ち上げたまま
「先に入れ」
と僕たちにうながした。まささんが入り、ミズキさんが入り、僕が入った。そのあとマシンさんが部屋に滑り込み、支えがなくなったドアがバタンと閉まった。
机や棚が斜めに倒れ、たくさんの書物が散らばっていた。
「ここが船長室か……」
みんなでおそるおそる室内を探索する。僕は机のほうを探した。
机の陰に埋もれて、細長い背もたれの椅子があった。そこには海賊の船長がかぶっているような帽子の下に古びた本のようなものがあった。
「本がありました」
みんなが僕のほうに集まり「どれどれ」とまささんが僕の持っている紙を取って読んだ。
「『〇月〇日。嵐が去って10日目。まだ島は見つからない。食料ももうすぐ尽きてしまう。
船員たちには申し訳ない』……これ、航海日誌だな」
まささんが続ける。
「『一人二人と倒れていく。海賊として生きてきたこんな私たちに、せめて船員だけでも。神よ、お助け下さい』『おお、神よ。なんという。近くを通った旅の船が私たちを救出してくれた。感謝します。だが、わたしはこの船に残る。この船もまた私の同志。すまないみんな。亡くなった者と一緒にわたしはこの船とともに生きる。死んでもなお』」
「海賊船なんですね。かっこいいような、怖いような」
「まだあるな。『わたしはもうすぐ死ぬだろう。書き残すのは最後になるだろう。わたしとともに戦ってくれた船員たちよ。またいつかあの世で一緒に航海できることを望む。そして、愛するエミリア。お前にはなにもしてあげられなかったが、この海からいつもお前を想っている。~キャプテン・ロウズ~』」
「悲しいお話ですね」
ぽつりとミズキさんが言った。




