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メロンさんに会うために  作者: かろりんぺ
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バレットの港町

「おっ、にいちゃんごめんよ」

 色とりどりの魚を入れた木の箱を運ぶ日焼けした男性が、僕をよけていく。帆をたたんだ漁船からは何人もの威勢のいい声が飛び交い、カモメに似た鳥が「グギーっグギーっ」とうるさかった。

 バレットはすごいにぎわいだった。さすが港町。

 街の中心にある商店街では魚もそうだけど、どこかの町から運ばれてくる果物や服、武器までもがラーンの村とは比べ物にならないほどに取り揃えられ、お客が行きかっていた。

「とりあえずどっかで休もう」

 メロンさんと僕はおしゃれできれいなドリンクショップではなく、潮で風化した古めかしい木造の喫茶店に入った。僕の服が泥だらけだったからかもしれない。

「せっかくだから味わいのあるお店にしよう」

 とメロンさんが言って選んだお店だった。

 薄暗い店内の窓際のテーブルに僕たちはついた。蜘蛛の巣が張りめぐらせた窓は、どっかの映画のセットにでも出てきそうなほどで、入り込む光にほこりがチラチラと反射している。

 歳のいったおばあさんが無言で水の入ったグラスを二つテーブルに置いた。

「えと、あたしはアイスコーヒー。あ、アイスコーヒーってありますか?」

 おばあさんは伝票に文字を書いたのできっとあるのだろう。そもそもメニューはないのだろうか。ま、いいや。

「じゃ、僕も」

 おばあさんはカウンターに戻っていった。店の奥には鼻を赤くした年配の男性が酒らしき瓶を持ったままテーブルにうつぶせになり、白髪の女性の前にあるサンドイッチには手がつけられている様子もなかった。

「他の店の方がよかったですかね?」

「何言ってるのよ。いいじゃない。冒険らしさがあって」

 運ばれてきたアイスコーヒーをメロンさんはブラックで飲んだ。僕は普段アイスコーヒーは飲まない。ましてやブラックでは苦くて飲めない。ガムシロップを入れると子ども扱いされそうだったから、せめてミルクを少量入れた。ミルクの入った小さな銀の瓶は使いまわされたのだろう、ミルクの白いすじが垂れたまま少し固まりつつあった。

「助けてくれてありがとうございます。メロンさんはこの街もう来たんですもんね?」

「うん。このあと町長のところに行けばいいんだよ。あたしはそこまで進めてる」

 もっと進めてると思ったけど。

 メロンさんは「暑いね」と言いながらアイスコーヒーをすすり、僕はコーヒーに入れたミルクをかき混ぜた。黒に白い模様が漂い、そして混ざり合った。


 コーヒー代はメロンさんが出してくれた。僕はレジでお会計しているメロンさんの後ろでなにもしないまま立っていた。自分がかっこ悪いなと思った。

 店のおばあさんは何も言わず、無表情のままメロンさんにしわくちゃな手でお釣りを渡した。そのおばあさんの後ろの棚にはほこりをかぶった白黒の写真が飾ってあった。若くたくましい男性が笑顔で笑っている写真だった。


 町長の家は街の高台にあった。振り返ると街全体が見渡せ、きれいな海が島を取り囲みどこまでも広がっていた。

 町長の大きな家から漁師らしき男たちが二人出てきた。手には立派で大きな青い魚を持っていた。すれ違いざまに二人の話し声が聞こえる。

「なんだよ。これでもねえのかよ。これでも高級魚だぜ」

「まったくだよ。だいたいそんな魚ほんとにいるのかよ」

 そう愚痴をこぼしながら二人の男は去っていった。

「あたしは内容知ってるから」

 メロンさんに促され、僕は町長の家の門をたたいた。

「はい」

 ドアが開き、きれいですらりとした長身の女性が立っていた。

「あ、あの。旅をしている者なんですが。えと、お話を」

「あ、はいはい。旅のお方ですね。こちらへどうぞ」

 長身の女性に連れられて、僕たちはカーペットが敷かれた階段をのぼっていった。シャンデリアを初めて見た。

「あなた、旅のお方よ」

 長身の女性が、ある部屋の前で言った。

「入ってもらえ」

 どうぞと促され、僕たちは部屋の中へ入った。

 中央のソファで頭を抱えながら一人の男性が座っていた。広い部屋には本棚、机、高価な壺。僕は自分の四畳半の部屋を想像した。

「どうぞ。こちらにおかけになって下さい」

 僕たちは町長の対面のソファへ腰かけた。

「ようこそバレットの港町へ。この街はたくさんの貿易で栄えています。なにか旅のお役に立てることがあったらなんでもおっしゃってください」

 実際僕は、自分の旅の目的が分からなかった。今の段階では、目的を知るための冒険とも言える。

 ラーンの村での出来事と、それからこの街に来ることになった経緯を町長に言った。

「そうですか。では一つ頼みを聞いてはくれませんか? 成功の暁には、この世界で使える『船のパスポート』をお渡しします。きっと冒険のお役に立てると思います」

 僕はうなずいて、そのお願いを聞いてみた。

「この街では20年に一度、漁の安全と繁栄を祈る『バレット祭り』を行っているのです。そのお祭りにはバレットの海で獲れる『シーバレント』と呼ばれる珍しい魚を奉納しているのですが……。その20年に一度の今年、祭りがもうすぐだというのにめっきり獲れないのですよ。なのでその魚を捕まえた者に『船のパスポート』をお渡ししようと」

 若い町長は天井を見上げた。

「先ほども二人の男が青い魚を持ってわたしのところにやってきました。でも違う。たしかにすばらしい魚でした。でも違うんです……。わたしも子供のころ、20年前にその魚を見たきりです。とても美しい青い魚でした。今でも目に浮かぶ……。どうか旅の者、お願いです。シーバレントを獲ってきてくれませんか?」


 僕とメロンさんは町長の家をあとにした。高台の道を降りながらメロンさんが言った。

「あたし釣りしたことないんだよね。かろりはある?」

「ありますよ」

「お、頼もしい。じゃあ釣り方教えてね。いっぱい釣るんだから」

 僕が釣りをしたのは小学生の時だ。しかも近所の川でフナを。


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