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メロンさんに会うために  作者: かろりんぺ
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フラフラ

 アルバイト先に到着したのは朝9時前だった。休憩室では男の先輩が備え付けのテレビを見ていた。

「おはようございます」

 と言って僕は、壁一つ隔てた男子更衣室に入って着替え始めた。

 テレビからは朝のニュース番組が、充分に僕まで聞こえてくる。スキーの大会でだれだれが銀メダルに終わったとか、雪の中駅伝が行われたとか言っていた。

 着替えを終え休憩室の椅子に腰かける。今日のバイトは水希さんと少しだけかぶっている。今ごろカウンターで仕事をしているはずだ。

 テレビがCMに切り替わった。男と女の二人が走っていて、険しい岩山、広大な草原、海の広がる海岸と、場面が切り替わっていく。緑色のスライムもいた。トラあなのメインテーマとともにナレーションが入る。

『あなたの冒険を、想いを、感動を日記に』

「さ、行くか」

 男の先輩が独り言のように言いながらテレビを消した。トラあな、知らないのかな?

 そして今ごろメロンさんはどうしているだろうと思った。それともう一つ。

 厨房に入るとどうしてもカウンターを見てしまう。「おはようございます」と言いながらステンレス台や棚の間から姿を探す。

 いた。

 水希さんがカウンターで接客をしていた。メモっておいた時間では、今日は9時から13時まで水希さんとかぶっているはずだ。4時間。

「ポテトもう2やって」

 忙しそうにハンバーガーを包んでいる店長にいきなり言われた。


 11時を過ぎたころ、少しだけお客の足が減ってきた。お昼のピーク前のまったりタイム。僕はトマトをスライスしたり、減ったチーズ、ケチャップを補充しながらカウンターの話声を盗み聞きすることに全力で集中した。水希さんと、同僚の女性がおしゃべりをしている。よりによってBGMがリラックス系からジャズに変わった。

「みずっち、あ……ラーどこ……買っ……?」

 脳内で補完する。

『みずっち、あのマフラーどこで買ったの?』

『モテナス。あそこの3回にさ新しくできたお店があるの』

 おそらく会話の補完は正しくされているだろう。僕は一度だけモテナスに靴を買いに行ったことがある。隣のそば屋は何度も行っている。

 冷凍庫を開ける。冷凍されたいくつもパティがビニールに入っている。ガサガサとビニールを開ける。

「わたし……、最……トラあ……始……」

 ん?

 僕は作業の手を止めたけどもう遅かった。補完できなかった。

「店内でお召し上がりですか?」

 透き通る水希さんの声が聞こえる。

今『トラあな』って言わなかったか? 僕にはそう聞こえたぞ。うわー何やってんだよ。なんでこのタイミングでパティの用意してんだよ。

 自分を恨んだ。


 運がいいことに、13時に僕は休憩に入った。ちょうど水希さんが帰り支度を更衣室でしていた時だった。

 運が悪いことは、同僚の女性も一緒に着替えをしていることだ。そして女性更衣室から聞こえてくる話し声はヒソヒソしていて聞き取れなかった。それでもなんとか情報をつかみたいと、僕はポテトをゆっくり噛んで音が鳴らないようにした。塩の味しかしなかった。

 そして二人は「おつかれさま」と言って帰って行った。全然話せない。

 ポテトとテリヤキバーガーの匂いに二人のいい匂いが混じった。


 15時にバイトをあがる。今日は晴れているけどやっぱり寒い。自転車にまたがってこぐと耳が冷たかった。帰り道僕は考える。

 水希さんがトラあなをしているかもしれないという曖昧で不確定な情報。そして今から帰ってプレイするトラあなで、僕はどうすればいいかわからないこと。今ごろメロンさんは他のプレイヤーと冒険しているかもしれない。

 会話をまともにしたことのない水希さんと、たくさん話したけど僕はいちフレンドでしかないであろうメロンさん。その二人の間をフラフラする僕。

 僕の中で軍配は上がらなかった。自分が不誠実に思えた。


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