土曜日
好きになっちゃった。僕はメロンさんを好きになっちゃった。
布団を抱くようにして寝ながら考えていた。ゲームの中で出会った友達。さっきログアウトしたばっかりなのに、もうメロンさんと一緒に冒険したいと思っている。ゲームの中で出会ったとはいえ、メロンさんもこの日本のどこかで生活をしている人だ。
実際のメロンさんはどんな人なんだろう。何をしている人なんだろう。今ごろもう寝ているかな。お風呂に入っているかな。
僕は風呂に入っていない。
もし、もしだけど。実際に会うことができたとしても、きっと幻滅するだろうな。僕は高校生なんだから。
もしメロンさんが高校生だったら? いや、トラあなを一緒に冒険してみて、メロンさんは年上のような気がする。それはメロンさんも分かっているだろう。設定上25歳にしてある僕の年齢が、実際はもっと下だと。だって僕はため口で話せていないんだから。
エアコンはさっきから乱れず一定の音と風を出している。
アルバイト先の水希さんを思い出す。髪をショートボブにしていた。メロンさんは水希さんなのでは?という考えも一時はあったが、メロンさんと水希さんは性格が違う。まあ、ゲームではキャラを作っているかもしれないし、それが素の状態だとも考えられる。ゲームの髪型が気に入って、現実の世界でも同じショートボブにした、う~ん。
落ち着いた感じの水希さん。お茶目なメロンさん。
メロンさんが好き。でも、きっと実際に会えることはないだろう。会う勇気もない。
今日は考えるのをやめてもう寝よう。結局眠ることができたのは、それから3時間たってからのことだった。
夢だと自分で分かっていた。これは夢なんだと。
僕とメロンさんは遠くまで続くササラ海岸の白い砂浜(ササラの塩)を走っていた。夢の中でも僕はメロンさんの後ろから追いつこうと走っていた。夢だから画面がアップになって
先を走るメロンさんのこめかみを流れる汗がアニメのようにスローモーションで輝きながら垂れる。
走っても走っても僕はメロンさんに追いつくことができない。暑苦しい海の香りの混じった空気を吸っては吐く。
「待ってくださいよ。もう走れませんよ」
そう言ってもメロンさんは止まらなかった。何も言わずどんどん先へ先へと走っていく。そしてついに見えなくなった。僕は海岸に取り残された。
そこで目が覚める。でもびっくりはしていなかった。夢だと分かっていたから。それでもなんだか嫌な気分だった。
一階に降り、顔を洗い歯を磨くとよりいっそう目が覚めた感じがする。父は居間で新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。お互い朝のあいさつもしない。べつに仲が悪いわけではない。そして母はどこかに行ったのだろう、気配が感じられなかった。
ご飯を茶碗によそってテーブルに置かれたハムエッグを食べる。醤油と黄身とご飯を口に運び、二三噛んでわかめの味噌汁で流し込む。そして冷たい麦茶を食道に通す。
僕の家では冬でも麦茶。
台所に食べ終えた食器を置いて二階の部屋に戻る。時計を見ると11時を過ぎていた。
メロンさん、インしてるかな?
今日はこれまでと違った。ワクワクしていない。むしろ緊張している。
心臓の鼓動をはっきり感じながらインする。
トラあなが発売されてからの初めての土曜日。いつもより村にはたくさんのプレイヤーがいる。
空中にフレンドリストを開く。でも、メロンさんの顔は薄く表示され、ログインしていないことを僕に知らせた。
今日は隣の港町『バレット』に行く予定だ。でも、僕一人で先に進めてもいいものなのだろうか。個人個人のゲームなんだからべつに縛られる必要もない。でも。
少し待ってみよう。
そう思いながらブルーニャ山のふもとでレベル上げをし、お昼は一人でラーンドーナツを食べた。
少し待っていようと思っていたけど、結局5時間待ってもメロンさんはログインしなかった。
ゲーム内ではすっかり夜になり、空にはチラチラと大小の星が浮かび、のんびりとした一日の終わりのようなBGMを聴きながら、村の民家の窓の明かりを眺める。
先進めようかな。バレットまで行ってみよう。
そう思って村の入口までやってくると声をかけられた。
「あの……」
長い茶髪の色白な女性だった。そして僕はドキッとした。
その女性の頭の上に『ミズキ』とあった。
いや、まさかね。
「ムーンフラワーを取りに行きたいのですが、手伝っていただけませんか?」
一瞬どうしようか迷ったけど、まあもう一度プレイしてみるのもいいか。
「いいですよ。僕もう取っちゃったんですが、それでもよければ」
「え。いいんですか? ありがとうございます」
僕はミズキさんと『友達』になった。でもなんだかメロンさんに悪い気もした。そのほかに戦士の『マシン』さんと武闘家の『まさ』さんとも友達になった。ミズキさんは魔法使いだった。




