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メロンさんに会うために  作者: かろりんぺ
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ムーンフラワー

 家に着いたのが21:22。明日は学校もバイトもない。今日は夜更かしができる。窓には街灯に照らされた葉のない枝が白く見え、根元のほうは輪郭がぼんやりとしていた。

さて、メロンさんに会いに行くぞ。

 僕は右手をスマホに当てログインした。


 ラーンの村の入口は今日もプレイヤーでいっぱい。毎日毎日人であふれてにぎやかだ。

「こん」

 メロンさんの声がした。待っててくれたんだ。

「こんにちは。すみません、遅くなっちゃって」

「そんなのいいから。じゃあ今日はブルーニャ山に行くよ」

 チリリンと音がして僕はメロンさんに誘われた。

『パーティーを組みますか?』

 という文字が空中に浮かぶ。僕は目で『はい』を選び頭の中でタップした。

「入口ね。今行く」

 すぐに変な走り方でメロンさんがやってきた。メロン色のショートボブ。水希さんなのかな? まさかね。

 村を出て一本道を進む。

「一回敵と戦ってみようか。あたしモンスターに攻撃くらうからさ、回復してみて」

 そうか。

僕は昨日僧侶になった。無職状態でレベル11。そのまま僧侶にレベルを引き継いだから呪文をおぼえている。回復呪文『フーワ』と防御力を高める『マモロ』。たしかに試してみたい。

 僕たちは『キャットルー』に戦いを挑んだ。BGMが変化する。

 メロンさんはじっと動かなかった。僕はメロンさんの後ろで様子をうかがう。

 キャットルーの目が黄色く光り、肉球をメロンさんに向けた。肉球が炎をまとった。

「ジュジュマ!」 

 キャットルーが叫び、バレーボールほどの火の玉がメロンさんを襲う。

「きゃっ」

 メロンさんの腰巻が焦げ、メロンさんが前かがみになりながら呼吸が荒くなった。

 急がなきゃ。メロンさん大丈夫ですか?

 そんなことを考えながら僕は右手のキュートステッキを空に掲げた。すると右手が緑色に包まれ「フーワ」と唱え、メロンさんめがけて振った。

「あら。すごい。もとにもどってる」

 メロンさんは背筋をのばし、自分の両腕を眺めた。その時僕はなんだかうれしくなった。僕の力がメロンさんに役立てられたこと。

「やったわね。お返しよ」

 メロンさんは両手の鉄のツメをかまえ、「ミキサークロー」と言ってキャットルーを引っ掻いた。キャットルーは尻もちをついてポワッと消えた。

 キャットルーを倒してもまだメロンさんはその場で技を出したままの姿でポーズを決めていた。口がニヤっとしていた。

「決まりましたね、メロンさん。すごいですよ」

 その後もくるっと回転して締めのポーズをとった。メロンさんって意外とお茶目なんだな。

「さ、僧侶さん頼むわよ。いざブルーニャ山へ」

 二手に分かれた道を右に進む。以前は倒せなかった『群れカラス』もメロンさんのミキサークローで倒すことができた。山を左回りに進んでいくと岩肌に小さな子供一人ほどが通れそうな穴があった。

「なんですかね、これ?」

「なんだろね。モグラの敵とかでるんじゃない?」

 でもなにも出てこなかった。山の中腹までやってくると僕たちは一度切り株に座って休んだ。遠くに、白いササラ海岸が見える。道具屋で買ったおにぎりを食べた。メロンさんはタラコが好きだと言っていた。そして「卵焼きも欲しいね」とつぶやいた。


 山頂には木が一本も見当たらなかった。きれいな芝に点々と白い花が咲いていた。

「これがムーンフラワーかしら?」

「でも村長さんが言ってましたよね。月が出ている時しか咲かないって」

「おかしいわね」

 僕たちは山頂を歩いてまわった。

「あれ何だろ?」

 メロンさんは崖のほうにある丸い石柱を指差した。その先にはラーンの村が見渡せる。石柱まで行ってみることにした。

 石柱は朽ちていてひびが入っていた。よく見ると

『ランラン』

 と直線的に彫られていた。これって村長の書斎に飾ってあった写真の、ブロンド女性の名前じゃないか?

「あら。ここにも穴がある」

 メロンさんは石柱の裏で、さきほど見た同じくらいの穴を発見した。

 その時ムービーイベントが始まった。


 昼間の青空がたちまち夜に包まれ、きれいな月が現れた。そして石柱の前に淡く黄色い花が3つ光っていた。お供えされたお花のように、そっと静かに置かれていた。

「これかしら? ムーンフラワーって」

「そうですね。これですよね。このお花でルアが助かるんですね」

 僕はムーンフラワーを手に取った。


「ゆるせん。わたしの愛するランランをけがす者はだれだ。見捨てた者はだれだ」


 濃い紫色の影が現れ、次第にその姿が鮮明になっていく。

「うわっ」

 僕らは声を出していた。

 赤く鋭い目でこちらをにらむ人型をしたコウモリが石柱の上に立っている。

「ゆるさん。絶対にゆるさん」

 おどろおどろしいBGMになった。『山の主ジェイド』と表示されたコウモリ人間が空中を飛び交い、メロンさんに鋭い爪で切りかかった。メロンさんは武闘家の服を切られ、肩から血が滲みだした。

「いたい……」

 僕はフーワを唱え、メロンさんを回復する。僕も攻撃に加わりたかったけど回復が優先だった。

 なおもジェイドはメロンさんを攻撃する。『吸血』をくらい、メロンさんの服が徐々に赤く染まっていく。回復が大変だ。そうだ。

「メロンさん、一度自分でやくそうを飲んでください」

「えっ? 今からあたしのミキサーク……」

「いいから早く!」

 僕の大声に、メロンさんは無言でやくそうを飲みだした。よし。

 僕は『マモロ』を唱えた。青い光の壁がメロンさんを包む。ジェイドが夜空を旋回し再びメロンさんに切りかかる。

「あら」

 ジェイドの攻撃はメロンさんの武道着をふわりと揺らしただけだった。

「ナイスかろり」

 メロンさんが構える。

「ミキサークロー!」

 ジェイドの黒い翼に3本の切れた線が見える。バランスを失ったジェイドは飛べずに地面に降り立った。

「ゆるさん。ゆるさん。わたしのランラン」

 ジェイドが紫の煙を吐きながら叫び、僕に向かって突進してくる。

 やばい。どうしよう。

 僕は足がすくんだ。

「やっとこの場面が来たわね。とっておきの」

 メロンさんは胸の前でツメを交差させてうなった。

「うああああああ」

 そして僕に突進してくるジェイドに細かく足をステップさせ大きくジャンプした。

『サンダークロー!』

 メロンさんは頭上から両手を振りかざした。そのツメの軌道が雷のように白く閃光した。

 ジェイドの体に電流が走ったような音がしてジェイドは僕の数歩手前で前のめりに倒れた。

「なんですか。技、隠し持ってたんですか?」

 メロンさんはニャっと笑い、また変なポーズを決めた。その姿が月に照らされている。

 倒れたジェイドの体から濃い紫の煙が抜けていく。そこには人間の姿をしたジェイドの姿があった。

「大丈夫ですか?」

 僕たちはジェイドに駆け寄った。

「ありがとう。どうやらわたしは山の主に心を乗っ取られてしまっていたらしい」

 ムービーが始まった。どうやらジェイドの回想シーンらしい。僕の頭の中に映像とジェイドの声が響く。きっとメロンさんも同じはずだ。



 わたしとランランは恋人同士だった。そして結婚をする予定だった。

 わたしは結婚資金を貯めようと一年間隣町で働いた。そして資金も貯まりラーンの村へ戻った。だが、そこにはランランの姿がなかった。

 わたしは村長にランランはどうしたのか尋ねた。すると村長はこう言った。


 死んだと。


 結婚式のブーケをムーンフラワーで作ろうとブルーニャ山へ花を摘みに行ったらしい。帰りが遅いランランを心配した村長が山頂にやってくると、そこには山の主に襲われていき絶え絶えのランランが倒れていたそうだ。そして

「これをジェイドへ」

 と言って息を引きとった。持っていたのはムーンフラワーだった。


 それを聞いたわたしは山の主を討伐しに行くと決めた。だが村の者は誰一人わたしに賛同しなかった。自分も殺されてしまうのではないかと。

 村長も同じだった。村を守らねばならぬと言って。自分の娘を見捨てたのだ。

 そう、村長はランランの父親だ。

 わたしはランランの亡きがらをこんな村に眠らせておきたくないと、この山頂に墓を建てた。そして何日も泣いた。

 そんな時山の主が現れ、わたしにこう言った。

「憎いか。村の者が憎いか。人間が憎いか」

 わたしは山の主に魂を売った。ランランの眠るこの山頂を汚す者は滅ぼすと。



 ムービーが終了した。物悲しいBGMとともに山頂を風が吹き抜けた。

「ジェイド……ジェイド……」

 墓石から女性の声が聞こえる。

「ジェイド。憎まないで。みんなを憎まないで。わたしは幸せよ」

「どうしてこんなことが幸せなんだ? これのどこがお前の幸せなんだ?」

 墓石を見つめ、ジェイドが言った。

「だって、今もこうやってわたしのお墓の前にムーンフラワーがお供えされてるじゃない?」

「え?」

 ジェイドは墓石にお供えされた黄色く光るムーンフラワーを見て言った。

「それはわたしがお供えしたものじゃない」

「知ってるわ。これはルアよ。わたしとあなたの子供。あの子がしてくれてるのよ」

「わたしたちの子? お腹に身ごもっていたのか?」

「そう。あなたが隣町に行ってる間、順調にお腹が大きくなっていったわ。そして生まれたの。あなたが来る前に」

 ジェイドは口を開けたままだった。

「ねえ。なぜここにムーンフラワーが置かれているか分かる? わたしがお願いしたの。おじいちゃんの誕生日には毎年ムーンフラワーを届けてって。だから一個はわたしがルアのために用意したもの。あとの二つはルアがわたしと、そう……パパへって」

 ジェイドは墓石と3つのムーンフラワーを眺め、その目からスーッと涙が流れた。

「ルア。ううう。わたしはなんてことを……自分の娘に。ルアに……」

「まだ間に合うわ。そこの旅人さんに1つ届けてもらって。優しい子に育ったでしょ?」

 墓石は動かなかった。ジェイドは苦しみながら立ち上がり、墓石に供えられたムーンフラワーを一つ手に取りメロンさんに渡した。そして墓石の前に倒れ込んだ。

「もう一度だけ、一目でもルアをこの目で見たかった……」

「大丈夫。ここにいればまたルアがやってくるわ。そしてここからはラーンの村が見渡せるわ。ここで一緒に見守っていましょう二人でルアを」

「ランラン……」

 ジェイドの体が黄色い粒となって消えていく。そして月も消えた。


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