一怪、始まり。−5
「もしもし?おかあさん?」
「あら、すず。きちんと着いたん?管理人さんに挨拶はした?」
聞き慣れた身内の声に内心ほっとする自分がいるのがわかる。
「それは問題ないよ。あ、せや、じいちゃんに代わってくれん?聞き忘れとったことがあってな」
そう言うとお母さんは
「じいちゃんのお師さんの事やろ?」
と言い、更に「あんたはほんと昔っから変なとこ抜けとるんやから。きちんと聞いていかなあかんやろ~」と電話越しに笑っているのが聞こえる。
「じいちゃんな、ちょっと待っとき。部屋におると思うさかいな」
「ん、ありがとう」
電話の向こうから「おとうさーん、すずから電話よー」「なんや、すずからかいな」という会話が聞こえてくる。
「もしもし?すずか?」
「おじいちゃん?すずだよ。ちゃんと河井荘についたよ」
「そうけえ、じゃあもう会ったか?」
「その事なんだけど、私、その人の名前も特徴も聞いてないよ」
そういえば「なんじゃ、今頃か」という返答が返ってくる。
「すずがいつ聞いてくるやろなぁ思うて待っとったんじゃが、ほんにお前は話を聞かんなぁ」
「それについては反省してるよ……で、その人ってどんな名前なの?」
「あの人の名前か、うむ、ヒトではないんだが、あの方の名前はな」
名前を聞いた私は電話を切るなり走って部屋へ戻った。
「彼方ぁ!!!!」
障子がスパァン!という小気味良い音を立てて盛大に開く。きっとリプレイがあるとしたら三カメくらい使った事だろう。いや、今はそうじゃない。
「なんだよ、そんな慌ててよ」
「なんだも何も!あんたじゃん!!!」
「何が」
「おじいちゃんのお師匠さん!!」
そういえば目の前の黒髪の少女は「あー」と頭を掻く。鈴がチリチリと音を立てる。
「大五郎ちゃんの孫っつうからどんなもんかと思ってたんだけど、話はきちんと聞いてきた方がいいぜ」
「それはさっき散々言われたんでお腹いっぱいです」
「改めて、自己紹介といこうか。俺は化け猫一派、積の五代目組頭。積斑丸。人の世では木積彼方、なんて名乗ってる怪異よ」
彼女は「そして、ここにいる間、お鈴の修行の手伝いをするわけだが、まあ頑張んな」と言うと、にぃ、と笑ったのだった。
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