第四怪、逢魔ヶ刻にあいまして候
ハロー、絶体絶命。京都のお母さん、おじいちゃん、兄弟達、お元気でしょうか。私は今一升瓶を抱えた状態で大きなハサミを持った怪人に追い回されています。
事の発端は今から一時間ほど前に溯る。
「お鈴、ちょーっといいかな?」
「なに?まっちゃん」
「これを届けて欲しいところがあって、ね。見たところ暇そうだし、届けてくれない、かな?」
「まっちゃんそれ拒否権ないやつだよね?」
そんなこんなで風呂敷に包まれた一升瓶を持って、地図通りに来てみればこの現状である。
ハローなんて言ってはみたもののそんな気安くハローするほど絶体絶命とは出会ってない。むしろこのご時世にそんな気安くハローした方が問題である。おかしいと思ったんだ!あのまっちゃんが!あのまっちゃんがいきなり頼み事してくるなんて!
彼ならきっとこんな事案ひとひねりなんだろうけれど私は修行中の身とはいえひ弱な現代っ子だ。逃げるので精一杯である。
多分一杯食わされたぞという気持ちともしかしたらマジの通り魔かもしれないという気持ち、そしてこれ普通に死ぬのでは?という気持ちが綯い交ぜになっている。ちなみに一升瓶を抱えたままなのは手放すタイミングを逃しただけだ。
「一升瓶どっかに置いてきたかったよぉー!!!」
そう叫んだ時、地面から出ていた木の根に足が引っかかり盛大に前に倒れる。何故かその時、私の脳内で一升瓶=守るものみたいな謎の変換がなされ、一升瓶を抱き抱えて受け身をとった。一升瓶は無事である。そうじゃない。目の前に迫る大きな鋏の刃、もうダメだ。死んだわ。と目を閉じる。せめて痛いのは一瞬であって欲しい。いやあの鋏錆びてたから痛いだろうなぁ。一周して冷静になった脳裏にそんな事が浮かぶ。
「身のこなしは大五郎には劣るな。中の下」
そんな言葉に目を開くと鋏は私を真ん中に両隣の地面にぶっ刺さっていた。鋏の上には器用に座り、ノートに何か書き記す怪人―包帯だらけの旧日本兵の様な姿の男が居る。
「まぁ、酒を投げつけてこなかった辺りがあのクソガキとの大きな違いだな」
何が起こってるのか全くわからない私を他所にそいつは後方を振り返る。
「おい、斑丸。本当にこいつなんだろうな?」
「どう見たってそいつだろ、霧崎さん。大五郎の身内のにおいじゃねぇかよ」
そう言いながら現れたのは紛れもない赤いセーラーに黒い髪。
「……かなた……?」
「ご名答。俺だよ」
へらりと笑う彼女の髪に括りつけられた大きな鈴が大きさに似合わぬ高い音で鳴った。