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キスで結ぶ冬の恋

冬の訪れはサプライズへの序章

上条聖子(かみじょうせいこ)


11月の出雲への旅行から戻り、いよいよ私と菱沼忠隆(ひしぬまただおき)さんとの、結婚式への準備が本格的に始まりました。式の進行のことや招待する方のこと。引き出物やお料理のことなどに、衣装合わせも入ってきます。決めなければいけないことが多くて目が回りそうだけど、忠隆さんに嫁ぐ(本当は婿入りだけど)日が一歩一歩近づくのかと思うと、嬉しさがこみあげてきます。


12月になる少し前、珍しく萱間萌音(かやまもね)さんから会いたいという連絡がきました。それも、和花菜さん達は抜きで。その言葉に私は首を捻りながらも了承しました。


約束の12月の最初の金曜日。私は忠隆さんと指定されたお店に来ていたの。そこは座敷がある料亭で、通された部屋にいる人達に私は驚きの声をあげてしまったわ。


「桃先輩。どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」

「海翔じゃないか。なんでお前がここにいるんだ」


隣で忠隆さんも驚きの声をあげていたわ。声をあげた後、忠隆さんと私は顔を見合わせたのよ。


「とにかく、まずは座ってくれ。菱沼さん、上条さん」


桐谷尋登(きりたにひろと)さんが私達に声を掛けてきたので、私達は部屋の中に入り空いていた席に座りました。


部屋の中には初めて見る顔の男性が4人と、桃先輩の姉妹と思われる女性があと2人いました。私達も含めて、総勢11名がこの部屋にいることになったのよ。


「なんかさ、顔見知りみたいだね、海兄」

「ああ、驚いたよ。まさか和花菜がお世話になる予定の会社に、忠隆がいるとはな」


ニヤリと笑った精悍な顔に、ある人の姿が重なりました。それに桃先輩もあの人と似ている気がします。まさか、ですよね?



「じゃあ、まずは自己紹介からいこうか。俺は結城海翔(ゆうきかいと)です。君達が夏から親しくしていただいている、結城和花菜の長兄です」


そう言って海翔さんが頭を下げた。


「「ええっ~!」」


つい、はしたなくも大声を上げてしまいました。萌音さんも声をあげたので見事にハモってしまいましたの。


「俺は結城陸斗(ゆうきりくと)。次兄です」

「俺は結城風貴(ゆうきふうき)。3番目の兄です」

「そして、俺が結城泰河(ゆうきたいが)4番目の兄だ」


男の人達が順番に自己紹介をしてくれました。皆さん和花菜さんのお兄さんなのですね。私は一人っ子なので、うらやましいです。


「そして私は旧姓相馬紅(そうまべに)。碧生の長姉になるわ」

「私は相馬紫(そうまゆかり)。碧生の2番目の姉よ」

「それで、私、相馬桃(そうまもも)が3番目の姉ってわけ」


桃先輩は私に向かってウインクをしてきた。相変わらず綺麗に決まっています。それにしても、美人三姉妹が相馬君のお姉さんだというのは納得です。相馬君も整った顔立ちですもの。少し線が細くて中性的な感じがする子だと、思っていたの。


「それで、先にいた桐谷尋登は俺のライバルだったんだ。学校は違ったけど、弓道の大会で顔を合わせていたからさ。後から来た菱沼忠隆は大学で一緒だった」


海翔さんの説明で桐谷さんと忠隆さんとの関係がわかり、驚きに満ちた目を3人に向けました。桐谷さんと忠興さんもお互いを驚きの目で見ていました。


「それで、俺と萱間は高校が一緒の同級生なんだ。この間プチ同窓会を開いてさ、そこで萱間が出雲に旅行に行った話をしたんだよ。それで和花菜も出雲に行ったって聞いていたから、もしやと思って聞いてみたら、ドンピシャだったんだ」


泰河さんの言葉に萌音さんが神妙な顔で頷いていました。


「私と上条聖子ちゃんとは大学のサークルの勧誘で知りあったのね。聖子ちゃんにきっぱりと断られて、それで興味が沸いたんだ~」


桃先輩が明るく話し、あの時のことを思いだした私は、小さくなりながら頷きました。大勢の人にもみくちゃにされていた私を助けてくださったのですが、そのままテニスサークルに勧誘されましたので、丁重にお断りしたのです。でも、その後も私を見かける度に声を掛けてくれるようになったのです。



◇菱沼忠隆


まさかこんなところで、海翔に会うとは思わなかった。それに桐谷さんが海翔と知り合いなのにも驚いたし、弓道をやっていたことにも驚きを隠せなかった。


俺達はまずはビールで乾杯をして、食事を始めた。


「それで、君達に来てもらったのは頼みたいことがあるからなんだ」


海翔がまず切り出した。海翔は9月末からシドニーに赴任しているそうだ。今回は本社に用が出来て奥さんである紅さんと一時帰国していると先に話してくれた。


海翔だけでなく、他の兄弟たちも箸を置いて背筋を正した。俺達も箸を置いて背筋を正す。


「こんなことを君達に頼むのは筋違いだとは思うけど、どうか力を貸してくれないか」


揃って7人に頭を下げられた。俺達は驚いて動きを止めた。


「桃先輩、それに皆さんも。どうか顔をあげてください」


聖子が慌てたように皆に声を掛けている。顔をあげた海翔は俺の目をヒタッと見つめてきた。


「和花菜と碧生に結婚式を上げさせたいんだ。2人はいろいろあって達観し過ぎて、結婚は紙切れ一枚で済まそうとしている。最初はそれでもいいかとも思ったけど、最近の両親の様子を考えたら何とかしたいんだ」


このあと、相馬家と結城家の関係と、碧生君と和花菜さんの生い立ちについて聞かされた。あの2人が大人びて見えた理由がわかった気がする。あと、和花菜さんの男前っぷりも。


「私も反省はしているのよ。ほとんど勢いで婚姻届けの保証人欄に名前を書いたものを用意して渡しちゃったから。でも、どうにか式を挙げさせたいのよ。それが駄目なら写真だけでも残したくて。聖子ちゃんは式が決まっているんでしょう。その時に何とか和花菜ちゃんを連れ出せないかしら」


桃さんが聖子に懇願するように話している。聖子が視線を俺に向けてきた。


「協力できないかしら、忠隆さん」


俺はフウ~と息を吐き出した。俺は聖子に弱い。自分でも認めるとも。聖子に願われたら力を貸すしかないだろう。


「そうだな。とりあえず、俺達の結婚の準備に2人を巻き込むことにしようか」


そう言ったら聖子の顔が輝いた。聖子は夏祭りの時に和花菜さんに助けられてから、和花菜さんにお返しをしたいとずっと思っている。出雲への旅行はお金を出したのが上条家だから、自分でお返しを出来ていないと思っていたのだ。このことで聖子の気持ちが少しでも軽くなるのなら、お安い御用だ。


この後、相馬、結城の兄弟全員と連絡先の交換をした。海翔とはパソコンのメールアドレスまで教えあった。日本にいない海翔ではなくて、他の兄弟、特に泰河君と連絡を取ることに決まった。


これが俺達からの、碧生君と和花菜さんへの、サプライズウエディングの始まりだった。



◇上条聖子


あの日から1週間後。今日は和花菜さんと相馬君を誘って、6人で結婚式場にきました。目的は私のドレス選び・・・という名の、和花菜さん&碧生君のドレス&タキシード写真を撮っちゃおう大作戦です。


まずは女性3人でワイワイとドレスを見ていきます。男性の方もタキシードを見ているはずです。


「どうかな?」

「う~ん。私にはこういうドレスは似合わないのね」


萌音さんが落ち込んでいます。私達より背が低い萌音さんは、スラリと見えるドレスが着たかったみたいだけど、似合わないことが判明しました。その代わり私や和花菜さんには似合わない、ショート丈のウエディングドレスがとてもよく似合いました。


なんか理不尽な気がします。私達の中で萌音さんが一番年上なのに、一番可愛らしいのですよ。


ああ、いけない。そうでした。和花菜さんのドレスです。


「和花菜さんはどのドレスが着てみたいですか?」

「私? 私はいいわよ。今日は聖子さんのドレスを見にきたのでしょう」

「そうなのですけど・・・」


困りました。これでは和花菜さんに試着してもらえません。そこに萌音さんが助け舟を出してくれました。


「とりあえず聖子ちゃん、着てみたいドレスを絞ることにしない? 白いドレスを5点くらいにね」

「それ! 私もいいと思う。まずはこのドレスの山から選ぶことにしましょう」


それから、『これはどう? こっちはどう?』と、私の身体にあてがっては『これはいいね。これは違うかな』と、仕分けていきました。


結局、白いドレスは3点に絞った所で決められなくて、忠隆さん達に見て貰うことになりました。ドレスを見た3人は困ったように顔を見合わせました。


「どのドレスもいいけど、これとこれが聖子に似合うと思うかな」

「そうだな。上条さんにはその2着のどちらかの方がいいと思うよ」

「だけどさ、実際に着てみないとわからなくない?」


相馬君がいいことを言いました。すかさず萌音さんがこう提案をしたのです。


「それならね、和花菜ちゃんに片方のドレスを着てもらったらどうかな?」

「私が? 私が着ても意味ないでしょう」

「あのね、和花菜ちゃん。まだこのあとにも色のドレスを選ぶのよ。ここで2着をとっかえひっかえするより、並んで見れたほうがいいでしょう。着た感じを見たいわけなんだし」


萌音さんの多少強引なこじつけに、和花菜さんは首を少し捻りながらも、ドレスの試着を了承してくれたのでした。



◇菱沼忠隆


女性達がドレス選びを始めたところで、俺達男は追い出されてしまった。


結城さん曰く、『女性の買い物って時間がかかるでしょう。特に服を買う時は。それにつき合わされて辟易している男の姿をよく見るのよね。でも、今日は晴れの日のためのドレス選びなんだからさ。そんな情けない顔はみたくないし、聖子さんに幻滅されたくなかったら自分の衣装選びをしたり、引き出物選びでもしていてくださいな』と、凄みのある笑顔で言われたら従うしかないだろう。


だけど、出来れば一緒に選びたいと思ったらいけないのだろうか。


そんな考えが顔に出ていたのか、相馬君に肩を叩かれた。


「菱沼さん、気持ちはわかるけど、ここは和花菜に任せてよ。きっと3点くらいに絞ったら呼んでくれるはずだからさ。その間に男性用の衣装を見てみない」


・・・一回り年下の奴に慰められているようじゃ駄目だよな。


気を取りなおした俺達は男性用衣装を見にいった。男性用ははるかに数が少なかった。色は基本白と黒。他の色もあるけど、そちらはどこかのお笑い芸人たちが着用するような原色ギラギラの物だった。スパンコールやラメ入りって、本当に結婚式で着る奴がいるのかと、疑ってしまった。


「こちらは男性用のお色直し用として、ご用意しています。一生に一度ということで、普段は出来ないことをなさりたい方が多くいらっしゃいます」


この言葉に俺達3人は顔を見合わせた。


「まあ、そういう考えもあるか」

「結婚式って一種の娯楽だもんね~」

「羽目を外すには丁度いいわけだろ。去年、俺も友人が結婚して式に呼ばれたんだが、そいつは元ラグビー部でお色直しでラガーシャツで出てきたんだよ。それも騎馬戦よろしく、人馬に乗ってな。馬鹿に式場に空いたスペースがあると思ったら、余興でスクラム組んだ奴らから、新婦に渡す『愛の(たま)』を守ってゴールするなんていうのをやってな。会場は盛り上がる人と、引いている人が半々だった。だけど、新婦が喜んでいたからよかったんだろうな」


桐谷さんの言葉にそんな披露宴もあったんだと、驚きが隠せなかった。


「でもさ、それって極端な例でしょ。普通はそこまでしないよね」

「そんなことはないよ、相馬君。俺の地元じゃ神輿に乗って登場なんて普通にやるからな」


そう言ったら相馬君の口が大きく開いた。桐谷さんも驚いた顔をしている。そうか、これは普通じゃないのか。地元ではないことだし、これはなしにしようと、俺は思ったのだった。


結局、白いタキシードに決めて、花嫁のお色直しのドレス次第で、こちらの色(黒か白)を決めることにした。


この後は引き出物などをみながら、ゆったりとコーヒーを飲んで2人と話しをしていたら、聖子についた係の人が俺達を呼びに来た。


呼ばれて行ったら、絞ったドレスの中から選んでほしいと言われたのだ。ドレスを見た俺は困ってしまった。これからどうやって結城さんにドレスを着せるというのだろうか?


「どのドレスもいいけど、これとこれが聖子に似合うと思うかな」


とりあえず無難な返事をしておく。


「そうだな。上条さんにはその2着のどちらかの方がいいと思うよ」


桐谷さんも同じような返答をした。


「だけどさ、実際に着てみないとわからなくない?」


だけど相馬君がこう言った。すかさず萱間さんが待っていましたとばかりに提案を口にした。


「それならね、和花菜ちゃんに片方のドレスを着てもらったらどうかな?」

「私が? 私が着ても意味ないでしょう」

「あのね、和花菜ちゃん。まだこのあとにも色のドレスを選ぶのよ。ここで2着をとっかえひっかえするより、並んで見れたほうがいいでしょう。着た感じを見たいわけなんだし」


萱間さんの言葉に、結城さんは首を捻ったあと、何かを思いついたのか、ニヤリと笑った。


「それならさ、萌音さんも一緒に着替えましょう」

「ええっ! 私じゃあ、身長が違うから参考にならないよ」

「まあまあ、いいから。さあ、いきましょう」


結城さんに背中を押されて萱間さんも試着室の方へと消えていった。


しばらく待たされて、出てきた3人の姿に、俺達は固まったように動けなくなった。


可憐な萱間さんに、凛々しく綺麗な結城さん。そして、私の清楚で美しい聖子。三者三葉の美しさにすぐには声がでなかった。


「どうかな?」


あの結城さんも少し恥ずかしそうに相馬君に聞いていた。その言葉に相馬君が弾かれたように動いた。


「綺麗だよ、和花菜。そうだ、結婚しよう。すぐしよう。今しよう!」


その言葉に苦笑を浮かべた結城さんがポカリと相馬君の頭を叩いた。


「落ち着け、碧生。式のことは別としても、写真だけでも取ることにしようか」


・・・写真も撮らないつもりだったのかと、俺達は顔を見合わせた。皆、同意見だったみたいで頷きあうと、俺は口を開こうとした。


「そ・・・」

「お客様! そういうことでしたら、ご相談したいことがございます」


この言葉と友に、式場のスタッフらしき女性が近寄ってきた。


「もし、お受けいただけるのでしたら、お写真をプレゼントさせていただきます」

「なんでしょうか」


相馬君がキリッとした顔で女性に応対をしている。いや、違うな。軽く眉根を寄せているから、警戒をしているのか。スタッフからの提案を聞いた2人は顔を見合わせた。


「着替えてからもう一度お話を伺っていいですか」


結城さんの言葉に女性たちは試着室へと消えたのだった。



◇上条聖子


12月の3週目の日曜日。私達はまた結婚式場に来ています。今日は結婚式の相談にきたのではありません。写真撮影のためなのです。


あの日、和花菜さんと相馬君に声を掛けてきた方は、この式場の広報を担当している方でした。来年度から、パンフレットを一新するために準備を進めていたそうです。今まではモデルを使っていたそうですが、今回はどうしようかと思った時に私達の試着したドレス姿を見て、私達にお願いできないかと思われたそうです。


そうなのです、あの後私達もモデルをお願いされてしまいました。何故かというと、和花菜さんがごねたからなのです。自分たちだけでなく、私達もモデルになるのならやるといいだしました。それを聞いた式場の方が私達にもお願いをしてきたという訳です。


いろいろ迷いましたが、和花菜さんと相馬君の写真が残せるのならと、了承しました。


私達はそれぞれ別々の恰好をすることになりました。


私と忠隆さんは着物姿です。白無垢で神式で式を挙げている雰囲気の写真と、色打掛で披露宴会場に入ってくる感じの写真を撮りました。


萌音さんと桐谷さんは淡いイエローのドレスとシルバーグレーのタキシードです。この男性衣装の事は笑い話があります。原色に近い色のタキシードにばかり目がいって、もう少しおとなしい色のタキシードに目がいかなったそうです。なので、今日の衣装として用意されたこれをみて、男性3人は目を丸くしていました。


萌音さん達の撮影は階段や、ひな壇の上などで行われました。


さあ、メインの和花菜さんと相馬君です。髪型も結婚式に相応しく華やかに巻かれて、和花菜さんがとても綺麗です。いつもの凛々しい感じがなりをひそめて、年相応に可愛らしく見えます。


相馬君にもはにかんだ笑みを浮かべて彼のことを見るから、相馬君まで緊張をしているようです。


2人はチャペルでの式の写真です。式場に入ってくるところから、祭壇前で並んで立った姿。それから指輪の交換。誓いの口づけ(ただし頬にでしたけど)と、式の一通りのことを写真におさめました。



◇菱沼忠隆


相馬君と和花菜さんの写真を撮り終わって、2人が着替えている間に俺は結城家と相馬家の兄弟たちと会っていた。海翔と紅さん以外の家族がここにいた。相馬姉妹はさっきから目にハンカチをあてている、母親たちを宥めるのに忙しかった。


「ううっ。和花菜ちゃんが・・・綺麗だった~」

「ううっ。・・・お母さんが悪かったから、ちゃんと花嫁衣裳を着せてあげたいよ~」

「はいはい。それは私達も同じだってば」

「そうですよ。だから、作戦を練りましょう。もう、いっそ、サプライズでウエディングをプレゼントしちゃいましょう」


娘たちの言葉に母親たちは泣き顔のまま、顔をあげた。


「そんなことをして、怒られない?」

「もっと嫌われたら・・・お母さん生きていけない」


グズグズと泣く2人をそれぞれの夫が肩を抱いて慰める。


「大丈夫だよ」

「そうだよ。というより、これ以上は嫌われないと思うよ」


・・・これか。周りの目を気にせずに、イチャつきそうな様子に、話に聞いていたとはいえ、若干引きながら俺は、年配の4人を見つめていた。


「おい。それを今するなよ! そんなことばかりしているから、子供達に見限られかけたんだろうが」


風貴君の言葉にパッと離れて神妙な顔をする4人。反省はしているようだけど、長年の習慣のようになっているから、気を抜くと甘い雰囲気になるようだ。


「とにかく、菱沼さんたちという強力な味方もいることだし、2人の希望は聞き出してもらうから、それ以外の手配は親である4人でやってもらうんだからな。そこを忘れんなよ」

「「「「はい」」」」

「じゃあ、見つからないうちに行くぞ」


陸斗君に言われて悠木家相馬家の皆は立ち上がった。


「それじゃあ、菱沼さん。よろしくお願いします。自分の式のこともあるのにごめんなさい」

「気にしなくていいよ。2人には本当に世話になったから、こういう手伝いが出来るのはうれしいよ」


泰河君が挨拶をして帰っていった。俺にサプライズウエディングのためのメモを託して。



◇上条聖子


今日はクリスマスです。仕事終わりに2人でディナーを食べに行き、そのまま忠隆さんのお部屋にお邪魔しています。


ええ、そうです。今夜は忠隆さんの部屋にお泊りです。明日も仕事なので、夜更かしをするわけにはいきません。


それに先程から、全然色っぽい会話になっていません。


「とりあえず、泰河君に渡されたこれの回答は、全部埋まったかな」

「ええ。本当に大変でしたわね。和花菜さんも碧生君も勘が鋭いのですもの。いつ気付かれるかとヒヤヒヤしましたわ」


忠隆さんと書いたものを確認して、ファックスを泰河さんのところに送り、受け取ったとメールが帰ってきて一安心しました。


ソファーに背中を預けたところで、忠隆さんが立ち上がりました。すぐに戻ってきましたけど、その手にはシャンパングラスとシャンパンの瓶を持っていました。


「もう少し飲まないか」


そう言って、グラスにシャンパンを注いでくれました。グラスを触れ合わそうとして、忠隆さんが止まりました。どうしたのだろうと見ると、真剣な目をした忠隆さんと目が合いました。


「何に乾杯をしようか」

「そうですね、和花菜ちゃんと碧生君のこれからに」

「それなら、桐谷君と萱間さんのこれからにも」


そう言って、フッと口元を緩めた忠隆さんは、もう一言付け加えました。


「違うな、俺達皆のこれからにだな」

「ええ、そうですね」


私もニッコリと笑いました。


「じゃあ、乾杯!」

「乾杯!」


勢いのまま、グラスに入っていたシャンパンをゴクゴクと飲み干してしまいました。


「いい飲みっぷりだね、聖子」

「だって、皆様とこれからも(えにし)が続くようにという、願掛けも兼ねていましたから」


そう言ったら、忠隆さんが笑い出しました。笑いが収まると忠隆さんの手が、私の腰に回り引き寄せられました。


「萱間さんと結城さんとの出会いを大切にしたいと思っている、その気持ちは素晴らしいと思うよ。だけど、2人との『縁』だけじゃなくて、俺との『縁』のほうも大切にしてほしいな」

「もちろんです。私の中で一番大切なのは忠隆さんですもの」

「本当に?」


疑うように言われたけど、目が笑っていたの。


「本当です」


そう言ったら、そっと唇に唇が重なった。


「聖子、愛しているよ」


唇が離れて、耳元できこえた甘い囁きに、クラクラと眩暈がしてくる。


「私も。愛しています」


だから、みんなで幸せになりましょう。


その気持ちを込めて、私は自分から唇を合わせたのでした。


思いつきで始めた、四季の続きものの物話。

春に出会って、夏に燃え上がり、秋にはしっとりとして、冬にはゆったりと。

そういう恋の話になるはずでした。


それが蓋を開けてみたら、夏企画に書いた作品で登場人物をクロスさせ、秋企画では、語り手を変えて続くような感じに書いてしまっていました。


おかげで関係性に四苦八苦しましたけど。


でも、あと冬企画のこれ以外の2作品でこの話は終わります。

書き始めにはこんな結末になるとは思いませんでした。


だってね、「君を見つけた」の最後に、2人は1年後に結婚したと書いてあるんですよ。

ある意味結末がわかっているお話なんです。

それがここまで話が広がったのは、萱間萌音、桐谷尋登と結城和花菜、相馬碧生の、2カップルのおかげです。


ここまでお読みいただきありがとうございました。


よろしければもう2作品まで、おつき合いください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 拝読しました! やはり舞花さんの紡ぐこのシリーズの物語は登場人物が皆、幸せに向かっていっている感じがして素敵です! それに、私はつい少ない登場人物で物語を書いてしまうのですが、今回のお話…
[良い点] 紙だけで式を挙げなくいこうとしていた所に……(笑) 私もそうしようとしていた口なので、笑ってしまいました。 結局、それを聞きつけた友人たちがサポートしてくれて無事式を挙げる事が出来ましたが…
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