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よみがえりの一族  作者: 真白 悟
正体不明
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転送魔法

 地面に倒れ伏す僕を引き起こそうと、ルナが僕に手を差し伸べた。だが、僕はなんとなく女性の手を借りることが恥ずかしく感じ、自分の力だけで立ち上がった。

「ありがとう。でも大丈夫だから」

 彼女は少しだけ残念そうに「そうですか」とだけ答えると、「では行きましょうか」と続けざまに言った。

 堺は彼女の言葉にうなずきだけで答えて、僕もそれに続いて「うん」とだけ答える。

 その瞬間、彼女はなにか僕が聞いたこともないような言語を口にするや否や、少しだけ宙に浮いているような感覚に襲われた。

 僕は自分の感覚を確かめる為に自身の足元を見つめるが、そこにはなんの変哲もないボロい木の床と、それに接着剤でもつけられたがごとく張り付いている自分の足が有るだけで他には何もない。つまり宙に浮いているという感覚はあくまで錯覚だと言うことだろう。

 自分の中でそう結論づけた僕は、魔法の発動する瞬間を見逃さないように再びルナの方に視線をやった。――そこで、自分の感覚がおかしくないということを思い知らされた。


「浮いてる……?」


 人は思いもよらないことが起きると、自分の五感を疑うように出来ているのか、僕は強く目をこすりつけてもう一度彼女の方に視線を向ける。

 残念ながら、僕の見間違いではなく彼女は空中に浮いている。たった数センチほどではあるが、今までに見たこともない魔法である空中浮遊が今目の前で発動していることに僕の胸が踊った。その魔法は幾度も魔法を修めんとする英雄たちが血の滲むような努力を何度となく重ねてなお、歴史上誰も習得し得なかった魔法なのだ。

 もちろん、人間を生き返らせるような魔法に比べると幾分か研究価値は下がるだろうが、それでいて誰もが求めた魔法の一つであることには違いない。

 そんな恐れ多い魔法の発動に立ち会うことが出来た僕は、その魔法を求めたどのような英雄よりも幸運なのだろう。ただ、機械というものが魔法と組み合わさることによって、ここまで発展を遂げることなど誰が想像しただろう。

「驚くのはこれからやで」

 冷や汗をかきながら吐き出された堺の言葉は、その魔法が単なる前座であるということを思い出させてくれた。


「転送魔法……」

 それは誰も研究しなかった呪文、理論すら生まれなかった魔法であり、机上の空論とも言われた禁断の思想の一つ。とは言え、誰も使えなかったというわけではない。僕が読んだ魔法の書物の中にはその魔法のことが記されていたからだ。『破滅の呪文』、それが転移魔法につけられた蔑称だった。

「壁の中への転移、地中への転移、空中への転移、水中への転移……例を上げればいくらでも出てくる。やけど一番の問題はその魔法を発動するために必要な人数と時間、それに釣り合わんから半即死の魔法としても誰も使われへんかった魔法やけど、今なら機械が魔法を作ってくれるから、それを扱える……って御託はええな」

 堺の説明も頭に入らないほど、僕はその魔法に見とれていた。浮遊魔法はそれほどまでに神秘的に魔力反応を放ち続けており、青い光と白い光が交互に彼女の周りを待っている。まるで空を賑やかせる星のごとくそれらの光は輝きをたもち、官女からは神々しさすら感じた。

 しかし、そんな神秘的な光景が見えるのは魔力の感受性が高い人間だからこそで、堺にはきっとそれが見えていないのだろう。まるでその魔力反応に見向きもしないのがその証拠だろう。


「きれいだ……」


 思わず零してしまった言葉は、誰からもここにいる二人からも同意を得られないだろうが、変に思われようともその言葉を訂正することは絶対にない。

 むしろ、この光景は僕だけでなく全ての人に見えないのは残念だ。出来れば感受性の高いニヒルにはいつか見せてやりたいと感じた僕の心に僕はなんとなく恥ずかしくなった。

「ようやく準備が整いました」

 僕がぼおっとしている間に、彼女は空中から地面へと足をおろし、何もなかったはずの空中には黒い渦のようななにかが怪しくゆらゆらと揺れながら不安定ながらも存在している。

「これが転送魔法だって……? 僕が見た資料に載っていたのとはぜんぜん違う気がするけど」

 確か僕が見たものは白い小さな穴だった。

「そうなんか? 俺はこいつの以外見たこと無いからようわからんわ」

「ああ、ぜんぜん違う。それより、これはどうやって使うんだ?」

 魔法が発動していても使い方がわからなければ意味がない。確か、僕が見た資料では触れるだけで良かったはずだが、見た目もまるで違うわけだ……そんなものに知識もなく触れることは出来るだけしたくない。

 一番魔法を知っているのはルナだろう。僕は彼女からの返答を待つ。


「触れるだけで体を転送してくれます。ですが、本当にすぐに到着しますので、出来れば覚悟が決まり次第声を掛けていただければありがたいです。誰しも一人で死にたくは無いでしょうしね」

 確かに、合図もなしに飛び込んで一人で最強の悪魔に殺されるなんて最悪のシナリオだけは避けたいところであるが、覚悟しようがするまいが、結局やるいがいに選択肢はない。僕は決意を固めるでもなく、少しだけ強く息を吐いて緊張を解した。

「じゃあ行こうか」

 僕の言葉を合図に三人全員が一斉にその黒い渦に触れた。――触れる感覚も無いままに、先程より数段豪華な部屋にいることに気がついた。そして、そこに見えたとてつもなく禍々しくも巨大な魔力の痕跡も、僕の知らない人間が焼き払われたかのような焼け跡とともに、何者にも形容できないような恐ろしくも巨大な背中。

 僕は一切の躊躇いもなく、その背中に剣を突き立てた。


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