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よみがえりの一族  作者: 真白 悟
正体不明
77/100

食事

「そんなのちっとも嬉しくありませんっ!」

 突然大声を出すものだから、僕は思わずすくんでし待った。それに対して堺は物落ちもせずに、彼女をからかう。

「嬉しいくせに。そういやあん時は逆やったな?」

 あの時? 逆?

 記憶のない僕はそのセリフがどのようなことを意味しているのか、想像の中でしか理解することが出来なかった。

 もしかして、僕と初めて再開したときは彼女が嬉し泣きしたのかな? それなら嬉しいが、それなら逆に心が痛い気がしなくもない。

 そんな僕の妄想は的中したようだ。彼女のアセりようといったらこの上なく美しい、まさにその名は体を表しているようで、ある意味儚さすら感じるようで、なんだか僕のほうが恥ずかしく感じてしまった。

「ちょっと! あの時のことは言わないって約束じゃないですか!?」

 真っ赤な顔をふせぎみに彼女は堺を睨んでいるのか微妙な顔つきをしている。僕はなんとなく懐かしみを感じた。

 だが、それよりもはっきりさせておかないといけないことがある。

「その話は後できこう。それよりも僕は僕の心の中を話したつもりだ……だからあえて教えてくれ、サルガタナスとは霧の悪魔なのか?」

 こんなこと本人に聞くべきではないということも、その危険性についてもよくわかっているつもりだが、自分の中の悪魔に対して聞く事の出来ない言葉を彼女に向けるのは当然だろう。これは僕の予感でしか無いがきっと悪魔は答えてくれない。

 しかし、こんな突拍子もない質問をした事によって、先程堺が温めてくれた空気は簡単に消え去った。今あるのはまるで極寒の中にあるかのような無音。それがいつまでも続くようで僕は少しだけ不安を感じる。――やはり失敗だったか? なんてことを考え次に何を話したものかと、思考を巡らせていると、サルガタナスを憑依させた彼女が唇を動かした。それも非常にゆっくりと、なにかを警戒しているようにゆっくりだ。


「……いいえ、きりの悪魔とサルガタナスは別物よ。火の悪魔とイグニスが別物であるのと同じようにね……」


 彼女の声はあまりにも小さく震えていたため、特に最後の方の言葉はよく聞き取ることが出来なかった。その様子はまるで何かにおびえているようだ。

 だが、これから世界の大悪魔を暗殺しようというのに一体何を恐れているのだろうか……

「何に怯えているんだ?」

 僕はその言葉を口にして、すぐに後悔した。思ったことをすぐに口にするのは僕の悪い癖だろう、本当ならもっと気を使って1から100までゆっくりと聞き出すべきで、最初から革新でありそうな部分を聞くのは得策ではない。

 それに、彼女も無言でいるからこそ僕は訂正も追加の問も口にすることを憚られた。

 そんな時にいつも助けてくれるのがこの男だ。

「まあまあ、ふたりとも決断を急ぐのは良くない。幸い時間は無いとはいえ、そこまで切迫しているというわけでもないやろ? やから、まずは腹を膨らませようや、腹が減っては戦は出来ぬって格言があるわけやし」

確かに堺の言うとおりだ……探るにはまだ僕と彼女にきちんとした信頼関係が築かれていておらず、幼馴染であるとはいえ、僕からしても彼女からしても長い間離れていたということもある。


「そうだな。とりあえず僕は何も手伝っていないから僕がいうのもなんだけど、うまいご飯を食べてからでもいいよな」

「そうですね……」

 3人しかいないわけだし、そのうちの2人が喧嘩している状態でないという事は誰がどう考えてもその結論に至るというほど必然的で、堺が言うまでもないほどに当たり前なことだ。いくら疑問がたくさんあったとしてもそれを一から全まで聞いている余裕はない。

 だからといって、落ち着いてご飯を食べているような場合だとも思えなかったからか、食べている食事の味はしなかった。


「……ふう、やっぱり非常食だ。文句ばっか言ってられんけどあんまうまくないな……」

 何かの木材を組み合わせて作った簡易のテーブルを挟んだ向かい側で、唯一食事を完食した堺は不満げにつぶやいた。もちろん僕もその意見には同意だが、作ってもらっておいて文句を言えるような立場ではく、言葉を濁す。

「いや、状況が状況だから沿う感じただけだよ……たぶん」

「イグニスさんもその割にはあまりお口に召さなかったようじゃないですか?」

 同じく完食することが出来ていないルナが僕の残した食事を見て不敵に笑った。

「言葉を返すようでなんだが、お前だって残しているじゃないか」

「それはこの状況では喉を通らないだけです」

 彼女は僕の仕返しに、僕の言葉を使って返答する。その言葉は料理がまずいことを誤魔化すために吐いた言葉だったため、くしくも僕は言葉の喧嘩で敗北したということを認めなければならなかった。


 今回は喧嘩が発展して面倒なことにならないと踏んでか、堺は仲裁に入ってこずに、口直しと言わんばかりに水を口に含んだ。


「さてご飯も食べたことですし、さっそく本題に入りたいと思います。が、残念ながら問題がありすぎます」

「じゃあどうするんや?」

 水をようやく飲み込んだ堺が、彼女の言葉を遮った。

「……幸い時間がないとは言え、まだ世界の崩壊までにはまだ時間があるわけですから、計画を先延ばしにするしか無いでしょう」

……こいつら、時間があるとか無いとか言っているが一体どっちなんだ? 

 そんなことを考えていると、堺が立ち上がり言った。

「まあそれがいいやろな。お互いのことを信頼出来ていない状況で協力なんて出来るわけもないし、なにより、一人作戦を忘れとるやつがおる。そんな状況でベルゼブブの暗殺は不可能やろな……だからこそ、サルガタナス、お前に聞いておきたいんやが、結局のところ、なんで作戦通り動かんかった?」

 堺のまくし立てるような言葉は、いつにもなく真剣だった。だが、サルガタナスことルナは、当たり前であるかのように座ったまま、堺とは正反対に冷静に答える。

「何度も言ってますが、それは必要なことだったからです。もし、私が彼の記憶を消していなければ、彼はベルゼブブに殺されていました」

「どういうことや?」

「…………」

 堺の問に彼女は黙り込み、気のせいかもしれないが僕の方を見ている気がする。だが、もし間違っていたら自意識過剰に思われるかもしれないなんてことを思って、目をそらした。


――数十秒ははたっただろうか、沈黙を破ったのは意外も意外、僕の中の悪魔だ。

「もういい。どうせここまで来たらもう脅威は去ったわけだし、俺が全てを話してやるよ」

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