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よみがえりの一族  作者: 真白 悟
悪魔との出会い
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目的

 最後が訪れた時、僕にはまだ光が残っているということを僕は忘れていた。いや、忘れていたという言葉は厳密には違う。今ここにある中で、最上級の光に対して僕は期待していなかったというべきだろう。その時間を待つことが出来なかった。なぜなら、悪魔によって、僕の最後が訪れたからだ。――その2つは同時に訪れることはまずない、もしそんなことがあるとするなら、人はそれをこう呼ぶのだろう……奇跡と。


「奇跡などおこることはまずない。それがお前の今の状況といえるだろう……まさに死ってやつだ」


 悪魔はきっとそんなことを呟くのだろう。だが、それこそ当たり前なことなのだ。悪魔が人に希望を与えること事態が奇跡みたいなものだ。じゃあ、仮に、今爪を僕の頭の上に振りかざしている悪魔に対して僕がこういったしよう。


「待て、最後にお前がどうして僕を殺すのかを教えてくれ!」


 すると悪魔はきっとこう答えるだろう。


「そんなのなんとなくに決まってるだろう? お前はアリを殺すときに理由を考えるか?」


 それが気の狂った悪者の常套句というやつだから、容易に予想を立てることが出来ただろう。

 では、そもそも、どうして絶望の淵で、このような考察ができるのか、それを最初に話しておこう。それはもちろん思い出の一部だからだ。僕が思い出している過去にほかならないからである。だからこそ、そこに目的など無いし、うまくストーリーになっているはずもない。思い出だからこそ思い出せない部分もあるし、矛盾が生まれることもある。――だが、思い出とは時として、その後の人生にとって有意義な物となる。

 つまるところ、僕が思い出したかったのは、悪魔との出会いであり、悪魔に対して大敗を着したことではない。ならどうして、悪魔との出会いを思い出さなければならなかったのかということであるが、それこそ目的があったからにきまっている。

 それではもう少し思い出すとしよう。


「僕が聞きたいのはそういう話ではない。悪魔にとって召喚されるという事は嬉しいことのはずだ……!」

 僕が必死で問いかけているのに対し、悪魔はどこかどうでもいいというふうに投げやりに答える。

「そりゃそうだが、俺の場合は召喚されたわけじゃないし、封印を解いたやつも死んだ。ならあとは自由にしてもいいだろう? 俺は悪魔なんだから」

「違う、明らかにお前は目的を持っている。それも悪魔的な物ではないように感じるんだ」

「おいおい、俺は悪魔だぜ……もし、俺が嘘をついていたとしてもそれは普通のことだろう?」

「それなら、お前たちはもともと神だろう?」

「……何度も言うが俺は悪魔だ」

「なら、それでもいい。だが、お前が封印された理由ぐらいは教えてくれよ」

 悪魔は首をかしげる。

「いまから殺す人間に対して、なぜそんなことを教えにゃならん?」

「意味はない、話したくないなら殺せ……やり残したことはいっぱいあるが、それが運命だと受け入れよう」

 悪魔は笑う。

「はっはっは、本心では神など信じていないやつが、言うに事欠いて運命とは! お前面白いやつだな。まあ面白かろうがつまらなかろうが殺すのは殺す……いいだろう、少しだけ時間をやろう」

 そうして、だがと続けた。

「話すのは俺じゃなくてお前だけどな」

 そう言って悪魔は首をかしげる僕に説明をした。


 つまりは、この悪魔は自分のことを話すつもりは一切ないということだ。その代わり、僕のことを話せと、どうして僕がこの火山を訪れることになったのか、はたまた、自分自身が封印を解かれた理由を所望するということだった。それを代償として、悪魔は僕の命を話した時間と同じだけ猶予をくれるという、ただそれだけの話しだ。――つまり、僕が話している時間の間だけ小細工する時間があるということになる。

 だが、その時間すら僕にとってはあまり意味があるとは思えない。僕にはもはや戦うすべというやつが一つたりとも無いからだ。

 しかし、それでも僕は自分のことを話した。僕の国で二体の悪魔が暴れていること、それを対処するために火の騎士から意思を受け継ぐことが必要なこと、その意思を受け継ぐために火山を訪れたこと、そこで部下や信頼していた師匠に裏切られたということ、そんな風に王道が下の下までいくその瞬間を一語一句省略せずに話した。

 もちろん、自分の寿命を少し伸ばすという醜い意思を持ってそのようなことをしたわけではないし、それを聞いた悪魔を笑わせるために話したわけでもない。それこそ、小細工のために時間を稼いだなんて的はずれな想像をしているのだったら、笑いものだ。――ただ、人生の最後に少しだけ昔を振り返るのも悪くはないと、それを誰かに聞いてもらうのも悪くないとそう感じた。それだけの話だった。


「つまり、お前の人生はほとんど意味がなかったということだな?」

 嘲笑うだけ嘲笑い、悪魔は皮肉を吐いた。しかし、それは半分くらいは間違っていない。

「ほとんどと言うよりは、半分ぐらいだな……故郷の奴らは良い奴らだし、そこで寝転がったまま起き上がらないそいつだって良いやつだ。だからそいつらのために生きたと思えば、全て無駄だったというわけでもない」

 僕はムキになって反論する。

「お前がそう思おうんだったらそうなんだろうな、お前の中ではな!」

「悪魔のくせに知ったようなことをいうんだな」

「俺は悪魔だが、それでも神だった頃の記憶もあるし、人間だった頃の記憶もある」

 そう悪魔は気になる言葉をこぼした。だから、僕も思わず聞き返す。

「人間だった頃?」

「俺がお前に俺のことを話すことはあったとしても、お前からの問に答えることはない……それだけは今のところ俺の言葉で信じていい言葉だ。それ以外は信じてくれるなよ」

 もともと、意味が分からないことをいう悪魔ではあったが、時々話が通じていないような、そんな風にも取れる突拍子もないセリフを吐く時がある。まるで、僕が聞きたい事を予め知っているいるかのような、そんな不気味な言葉だ。そのせいか、いささか違和感が生じていたが、それも気にしないようにすればなんとも感じなかった。だが、会話をする気は一気に失われる。

「……」

「黙り込んでどうしたんだ? 命が惜しくはないのか、それとも……」

 悪魔がそう言いかけた時、そんな時、僕は自分の最後をゆっくりと噛み締めた上で、もう死んでもいいなんてしょうもないことを考えていた。だがしかし、本当に死にたいなんてそんなやつはいないだろう。僕だってそうだ。――最後に死ぬ以外の選択肢がないというそれだけの話だ。結果としての死、それを諦めと取るのか、自殺と取るのは僕じゃない。

「命なんて、惜しいに決まってるだろ!」

「じゃあ、やっぱりお前の言う卑怯な手と言うやつか?」

「そうだ、この上なく卑怯な手。そして神に背く背徳行為……だがしかし、お前を倒すには十分な方法だ」

 悪魔は、ほう……とこぼすと火山にある火口を覗き込んだ。その行動にいかほどの意味がるのかと言われても僕には分からない。ただ呆然としているようで、今にも飛び込んでしまいそうにも見えた。たとえ悪魔とは言えマグマの中で生きられるようには出来てはいないはずだ。そこに入っただけで全てのものに平等に死が訪れるということだ。だが、悪魔にとってこの状況は死以外選択肢のない状況とはとてもいい難い。つまり、今回に限っては僕がどれほど卑怯な手段を講じたところで何も変わらないというのが現状であり、もしもこの状況を僕の方に傾ける事が出来たとしてもそれはどのみち僕のほうが分が悪いだろう。そんなことは悪魔だってわかっているはずだ。わかっていてその行動を取る事が出来る者を悪魔と呼ぶのはいささかふさわしいような気もするが、それでは今回の話は意味が分からないまま終わってしまう。

 しかし、悪魔は火口へと足を進め、落ちてしまう寸前で足を止め、こちらを振り返った。


「一度言ってみたかった事がある……それを今言ってみることにするよ…………お前が神の子なら、ここから下へ飛び降りてみろ。神はお前のために御使たちに命じてお前が下に落ちる前にその体を支えるだろう」

 それはおそらく僕に向けられた言葉ではない。なぜなら僕は神の子ではないのだから……。きっと彼は自分が最も信頼する悪魔の言葉を使ってみたかったというただそれだけなのだろう。もちろん――

「その言葉を当てられた相手は神を試みてはならないと。だけど僕は神の子じゃないし、その言葉を全面否定出来るほど優れた信者でもない。一体お前は何が言いたんだ……最初から目的が見えない」

 

「言ったはずだ。目的などない、と。最初から俺は言いたい言葉を言いたいときに言ってるだけだ。お前は俺の意味のない言葉の羅列を聞いて奇妙な気分を味わい。俺はそれを酒の肴にすると言うだけのこと、それに、悪魔に対して意味を求める事自体おかしな話だ。俺には大した目的もないし、世界がどうなろうとも知ったことではない。ただムカついたら殺すし、眠りを妨げられても殺す。こうしてお前の話に付き合ってるのだって暇だからだ。俺にやるべきことがあったとするなら、お前はもう死んでいる。だが、暇だからこそお前を殺すし、国も滅ぼす。まあ若干の暇つぶしにはなるだろう?」

「……暇つぶしで国潰しか……まるで悪魔だな?」

「だから何度も言ってるだろう? 俺は悪魔だ。さて、お前から聞き出せることもなくなったわけだし、悪魔にしては十分すぎるほど時間はやった。悪いが暇つぶしもそろそろ終わりと行こうか? お前の最後の手段とやらを早く見せてもらおうか……まあ、どうせお前が死んで終わるだけだ。なんだ? その退屈そうな目は……暇つぶしなんだから結末が退屈なものでもしかたがないだろう? せいぜい楽しませてくれよ」

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