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よみがえりの一族  作者: 真白 悟
悪魔との出会い
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悪魔教

 そもそも、悪魔教とは今国中でかなり人気を博している宗教だが、その実態は信者以外知らない。その活動内容さえ、外から見ているうちは何もわからず、とりあえず、外から見ている分には面白そうな宗教というのが国民の意見だろう。ただ、信者の数までは把握していないが、人口40万人ほどいる我が国の下級市民の中ではかなりもものが信仰しているという噂すら流ている。

 悪魔教とは、悪魔教信者がつけた呼び名ではない。だが、信者も含め、本当の宗教名を口にする者はいない。――それは、ある者にとっては神聖な名を口にするのがおこがましいとか、そんな感じであり、またあるものは穢らわしい名を口にするのを嫌がったからだ。

 だからこそ、上級市民や一部の下級市民が崇拝している宗教にとっては、かなり目のかたきにされてきた宗教と言ってもいいだろう。

 つまりは、上級市民の宗教で人間の敵を表す『悪魔』という名を使って宗教を表した。

 もちろん、悪魔教などと言う凶悪な名のように、その宗教信者たちが何かをしでかすということは少ないが、それでも、忌み嫌われている悪魔教を貶める輩は信者の中にもいる。それを行き過ぎた信仰と取るのか、貶めと取るのかは、市民に委ねられた。

 もともと、表立ってことを荒立てることのない悪魔教信者に対して国は、さばくことなど出来ない。もし、そんなことをしたら、悪魔教の多くである下級市民が憤慨するのは目に見えているし、そこまでのリスクを負うことはないとの判断だ。

 当たり前だが、そのように決断を下したのが王を含める数十名の重鎮。つまりは僕達が決めたルールでもあった。


「どうして、悪魔教を貶めるのですか?」


 師匠は僕の二度目の質問にも笑みを浮かべるだけで、何も答えようとはしない。きっと何か理由があるのだろうとは思うが、こうなってしまっては許すことは出来ない。だが、それは僕が王であるからという公的な理由ではなく、僕の私怨からなのかもしれない。


「どうして……?」


 僕の心に呼応するかのように、声はかすれる。いくら、情を捨て昔の戦友たちを切り刻んだとしても、師匠は少しだけ違う。僕が師匠を切り捨てるのは容易だが、悪魔が付くとなると話は変わるし、何より、僕にだって若干の情は残っている。

 先程切り捨てた仲間たちを兄弟だとするなら、師匠は父のような存在で、理由も聞かずに切り捨てるのは憚られた。そんな僕の様子をあざ笑うかのように、笑みを解こうとしない師匠は、僕に対してこういった。


「お前にとって悪魔とはなんじゃ? 弾弓するべき存在か? はたまた、人間にとって悪事をはたらく存在か? だが、それこそお前たちの勝手な想像じゃろう? お前たちはただ漫然として経典をよみあさり、そこから得るのはただの教訓だ。その経典からきちんとした神の教えを承った人間がどれほどいるじゃろうか……儂はくやしいんじゃよ。お前たちのような信者が増えたことがな……神も嘆いていられるじゃろう……」


 彼は歯を食いしばり、今にも血が出そうなぐらいに歯ぎしりをした。その見た目は、まるで悪魔を表しているようで、僕は少しだけ気圧された。それと同時に、彼の気持ちを少しだけわかったような気がする。彼は、今の若者における信仰の浅はかさを嘆いて、今回のような行動を起こしたということだ。

 つまり、この事態を招いた事自体、僕達の責任であると、そう思うしか無い。それにきっとそれは間違いではなく、この国の本質なのだろう。人はただ単に神を都合の良いように使い。まるでそれが当然であるかのごとく経典を自分の都合の良いように解釈する。神との約束すら守ることが出来ていない僕達に対して、皮肉めいたような感情を持っているということだ。

 だけど、それであっても、僕は彼のしでかしたことを許すわけにはいかない。それこそ、神の約束を破ることになるのだから……

「だったら、どうして……どうしてこんな手段をとったんですか!? 他にもやり方はあったでしょう?」

 僕が同情にも似た感情を持っていたことは、彼にとってどういう意味をあらわしていたのだろう。もしそれが嬉しさや優しさという意味を持っていたのなら、彼はあんな表情をするはずがない。その形相はまるで悪魔を体現するかのごとく、恐ろしく、畏ろしく、虞ろしかった。


「愚か者め!! なぜそれが神への冒涜だと気が付かない!! 神は私に対する同情など望んで居られない……! 神が望むものなど一つしか無いではないか、お前は一体経典のどこを読んできたというのだ! 神が望んでおられるのは、偽神の排除以外ないじゃろう!? 偽物の神すなわち、悪魔を崇拝するものなど全て滅するべしじゃ! 悪魔とやらはいるだけで悪魔なのじゃ。何か悪事を働いたから殺すのではない。神を騙っただけですでに悪魔なんじゃ! じゃから、それを崇拝するものなど死んで当然。こいつらだって、これでようやく救われるじゃろう……お前だって本当はそう思っとるんじゃないのか?」


 彼は地面に転がった仲間を踏んづけながら、罪悪感などまるでないというようにそう言い切った。


「ふざけるな……俺は裏切り者を処断しただけだ。そこに宗教的思想は一切ない!!」

 もしそんな思惑があったとするなら、みな人思いに殺している。

「……まあいい、お前がどう思おうがこいつらがここで死ぬことには変わりない。もれなく全員儂のため、いや自らが崇拝した悪魔のために死ねるのだから本望だろう……じゃが残念なのは、お前たちをここで始末するしかなくなったことじゃな。お前たち二人はこちら側に来られる存在じゃったのにのう……その身に堕天使を憑依させ、天使へと昇華出来る数少ない人間じゃったのに、そうかそうか、お主らは儂達の崇高な思想を理解出来なんだか」

 そう言って、彼は儀式の仕上げに入った。それを見ている他無い僕たちはとても歯がゆい思いをしたが、今更儀式を取りやめる事はできない。そんなことをしてしまえば、それ相応のリスクを伴うこととなる。僕たちは辺境の神が目覚めるのを待っているしか無い。忘れられてしまった火の神が封印から解かれ、新たな器に憑依するさまを指を抱えてみているしかなかった。


「懐かしいな、昔のお前たちなら、冷静さを欠いてすぐに儂を殺しにかかっていただろうに、弟子たちの成長を喜ぶべきか、儂の思い通りにならんことを悲しむべきか……」

 もはや人が出せる薄汚れた声を超過し、今となっては神々しくも瑛理的なその声に魅了されつつあるが、それでも抵抗と言わんばかりに僕は反論の意を示す。

「言ったでしょう? あなたごときが悪魔を宿そうがなんの意味も持たないと、貪欲なものは常に欠乏する。あなたはその権化といっても相違ないでしょう。年による衰えから、力が欠乏しているあなたが、力を求めるのもわからなくはありませんが、神の名のもとに自身を正当化するなんて、知能すら欠乏してしまっているようですね……そんな力と知能で僕に勝つつもりなんですか?」

「馬鹿にしたものよ……儂はお主の力、戦略の全てを知り尽くしておる。力や知識の無いものは無いものなりに何かを持っているもんじゃ。儂にとってそれは知恵と経験じゃな。それに悪魔、いや堕天の力が加わればお主程度一瞬で葬れるはずじゃ!」

 狂気に満ちたその思想からは、かつて聡明の騎士と呼ばれた男の影は消え失せていた。今となっては、その聡明さこそが彼を狂わせたのかもしれない。問答も終わらぬうちに、彼は瀕死の仲間の魂を集め、悪魔復活の贄とした。

 魂を取られた兵士たちは、痛みによってうめいていたその声を静め、何事もなかったかのように沈黙が訪れた。だが、そんな沈黙も一瞬で掻き消えるほどのうめき声がこだまする。兵士たちは魂になってなお、苦しみと狂気に満ちた苦痛を吐き続け、やがて、突如として現れた闇の霧に飲まれて消えていった。

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