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よみがえりの一族  作者: 真白 悟
悪魔との出会い
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師匠

 あれは、僕が魔法帝からの命令、もとい僕の独断で火山へと向かった時の話。つまり、僕とイグニスが出会うべきして出会った話。だが、そもそも、僕はイグニスに会うために国一番の火山に向かったというわけではない。

 では、どうして、火山などという危険な場所、場合によって死地と言っても相違ない場所、何よりもそこが活火山ともなれば、人が近づいていい場所で無いことなど誰にでも分かるだろう。しかも、この火山は以前の噴火、100年ほど前の噴火で麓の街だけでなく、少し離れた都市を丸呑みにし、全てが灰へと化した。今となってはその痕跡すら残っていない。文字通り全ては灰の中だ。――だが、それは厳密に言えば間違いであり、そこに残っているものがたった2つだけある。それが、火の騎士の墓と火の悪魔の封印の2つ。

 僕が用があったのは火の騎士の墓。なもない騎士の墓に向かうべく、小隊を率いて足を進めてきた。


「閣下、あと少しで火山につきます」

 そう僕に対して声をかけたのは、僕の一番の部下だった。

「おいおい、閣下はやめてくれって言ってるだろう? 僕はお前よりも年下の小僧なんだから……」

「そうは、いきません。閣下」

 なんて、いつもどおりの決まったやり取りをする。それだけのやり取りをし終えると、部下は馬車の扉を閉めて、外へと出ていった。

「はあ、騎士になんてならなければよかったな……」

 僕は少しだけ憂鬱な気分を隠せずに、再び揺れ始めた馬車の中で大きくため息を付いた。もともと、騎士になろうとしたのは自分なのに、そんな言葉を吐く自分が許せなかった。なにより、騎士なった後のことを想像すらしていなかった僕に腹が立つ。たとえ、旧友たちからの見方が変わってしまったとしても、

 それでも、僕は騎士として役目を果たさなくてはならなかった。火の騎士の称号を継ぐことだ。

 どれだけ危険な地に、仲間を連れて行かなくてはならないとしても、それが騎士の中の騎士、騎士王に対して設けられた試練なのだから、乗り越えなければならない。

 だけど、一つだけ絶えられなかったことがあったとするなら、それは、仲間との距離感だろうか? 自分自身でもよくわからなかったが、なんだか虚無感にかられている自分がいた。ただ、それだけで気分は最悪で、最低で、どうしようもなく憂鬱だった。そんな僕の気分を癒やしてくれるのは、馬車の窓から見えてるなつかしい風景だった。とはいっても、僕の故郷はここではない。ただ、なんというか懐かしいという気持ちにかられ、なんとなく、故郷であるあの丘のことが思い出された。

 もちろん、馬車のなかであるから、あの丘のような気持ち良い風が流れ込んでくるわけではないし、生い茂る草の匂いがするというわけでもない。だが、その風景だけはあの丘に似ていた。


「やっぱり、自然はいいものだな……」


 しかし、少したりとも不満が無いというわけではない。馬車を揺らす原因、地面のあちらこちらに転がっている石ころが、快適なはずの馬車をほんのちょっとだけ不快にしていた。それも、外の仲間に配慮してもらおうと思えば出来るかもしれないが、自分だけ馬車に乗ってるというのに、これ以上わがままを通すわけにはいかないだろう。――もちろん、僕が仲間を顎で使うというのが気に食わないということもあった。

 なにより、今回は僕の訓練兵時代の友人を集めて作った小隊ではあるが、中には少なからず、若干18歳で騎士王の称号を得た僕を快く思っていない者もいる。そんな中で、信頼を失うようなことはしたくない。

「僕も馬で良かったのに……」

 そんな、僕の心のつぶやきを聞いたものがいた。それは騎士団の中でも老齢な男、訓練兵としての僕を鍛え上げてくれた教官であり師とも呼べる人物だった。

「そうはいかんぞ! これだって最大の譲歩なのじゃ。歴代の騎士王の中には馬に乗っているところを暗殺された者もおると聞きく、先代の騎士王マルクスは残念ながら守れなんだ。だからこそ、自分の教え子ぐらいは守りたいという儂の気持ちもわかってくれ」

「わかってますよ、僕だって死にたくはないですし……だけど、それは外の仲間たちだって、師匠だって同じはず……」

「あいつらの気持ちまでは儂にもわからん、だけど、儂はお前のために死んでもいいと思っている。此度の試練だってお前が悪魔を倒す力を得るため……すなわち、国の未来のためなのじゃ。だが、未来とはなんじゃ? 人に頼って生き延びることだけでは無いだろう? だから、儂は国の未来のために老い先短いこの生命をかけることにしたのじゃよ。だから、お前は俺等のことなど気にせずともよい……といってもそれも無理な話か、だけど、そんなお前だからこそ、儂は未来を託すことが出来るということじゃ。外のやつらも儂と同じ気持ちだとおもうがな」

 彼の言葉は、おおよそ本心からの言葉で、きっとそれは長年生きてきて出した結論なのだろう。昔彼の訓練で聞いたその言葉と同じだったからこそ、そう思えたが――

「――だけど、僕だって、自分が王になるなんて思ってもみませんでした。だから」

「おっと、その続きは口にだすんじゃないぞ。……しかし、おかしいな。お前は王になる男だと、儂は最初からわかって折ったんじゃがな……お前もそのつもりじゃったのじゃろ?」

「いや、確かに王になりたかったのはなりたかったんですけど、僕がなりたかったのは魔法帝なんですけどね……」

「馬鹿も休み休み言え、大した魔力も持たないお前が魔法帝になれるはずないだろう?」

「知ってますよ……」

 魔法帝になるのは彼女なのだから……


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