本当
僕は悪魔に対するやり場のない苛立ちを抱えていた。だけど、それをニヒルに当てるわけにもいかず、冷静さを取り戻してから、電話にもどる。
「とにかく、今はその悪魔のことが知りたいんだけど、ってニヒルに聞くことでもないか……」
ニヒルも一応僕達の世界から来た人物であるが、悪魔については何も知らないはずだ。だから、もっと具体的な質問をしたほうがいい。
「そう、悪魔というより、魔法のことが知りたい」
《魔法……? どんな魔法?》
「記憶を消す魔法」
僕の言葉に驚いたのか、電話の向こう側ではなにかものが倒れるような音がした。だが、すぐにニヒルが話してくれたから何も心配することなどなかったが、それでも、何事かと思うのは仕方のないことだろう。
《ごめん、ちょっと驚いちゃって……。うん、記憶を消す魔法ならかんただよ。記憶を消す魔法は一つしか無いからね……でも、それが使える生物がこの世に存在しているとは思えない。多分それを使う悪魔がいるとするなら、それはこっちの世界における悪魔とは違う種類だとおもう》
「は? でも、俺の中の悪魔は、その悪魔のことをサルガタナスと呼んだぞ?」
《イグニスは知らないの? ……悪魔って嘘つきなんだよ》
僕は知っていたはずだ。悪魔がいかに本心を隠すかということを……確かに、それは嘘を口に出さないということは嘘をついていないということとなるが、それは嘘つきな大人が作り出した言い逃れ、自分が嘘つきでは無いと、思い込むために作り出した虚構にほかならないのだ。――真実を隠すということも嘘になる。それは言葉を自在に操る全ての人間が嘘つきだということを表していた。だからこそ、悪魔は人間よりも信頼できるわけだ。もちろん、悪魔は人間よりも遥かに嘘をつくわけだから、一見、人よりも悪魔のほうが嘘つきじないか、なんて勘違いするやつがいても仕方がないだろう。それこそ、人が嘘つきである真実、自分が嘘をついていないと思い込むために作り上げた幻想。ごまかしなのだから……
だが、今回は人間についてどうこういうつもりはない。あくまで、悪魔の話をしていこうじゃないか。
前置きが長くなってしまったが、今回は悪魔の、それも先程話題に上がった、サルガタナスなんていう悪魔の話ではない。決して嘘をつかない、悪魔の話をしていくべきだと思う。
それをすべて話しきったところで、今僕の身に起きている自体が解決するなんてことはありえないだろうが、自分のことを思い出すきっかけくらいにはなるだろう。もし、思い出すことができなかったとしても、それはそれでいいのだが、なんだか気持ち悪い気分のまま、次の目標へと向かうこともなんだか変だろう?




