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よみがえりの一族  作者: 真白 悟
始まりは終わりとともに
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電話

 それよりも電話だ。せっかくニヒルに繋がったのに間違ってやめてしまってはなんの意味もなくなってしまう。それだけはなんとしても避けたいところだし、なんとなく緊張している気持ちを早く抑えなければならないだろう。このまま話し始めて声が裏返ることだけはなんとしても避けたい。

 なんとも不快な音が耳元で響く中、ニヒルにつながるのゆっくりと地べたに座りながら待つのも気持ちが悪かったので、立ち上がり、部屋の中をぐるぐると回ってみた。そうすると落ち着くようで、特に意味がないとはわかりつつもぐるぐる回り続けた。

 あまりにも繋がらなさすぎて、ついつい僕をここまで追い詰めたサルガタナスについて思考を巡らせる。あの悪魔の言葉に間違いが無いのであれば、サルガタナスは『記憶』を奪う悪魔であるということだが、僕に記憶を奪われるような隙があったのであれば、僕を殺すことお出来たはずだ。

しかし、それをやらなかったのは、悪魔の掟のことがあったからだろうか? 悪魔は他の悪魔を殺すことが出来ないという掟を遵守するためなのだろうか? ――しかし、よく悪魔との会話を思い出してみれば、そこに一つの疑問が生まれる。確か、僕は命の危険性があるがために、ここにこもらなければならなかったはずだ。それはつまり、誰かに命を狙われているからということだが、僕は勝手にサルガタナスに命を狙われているものとばかり思っていたが、そこには矛盾が生まれる。

サルガタナスが僕を殺さなかったのが、悪魔の掟のためだというのなら、僕の命を狙うはずなど……


《ニス……イグニス! イグニス!》

「!?」

 突然僕の耳を爆音が襲う。その爆音はまさに僕の耳元に当てられた小さな端末から流ているニヒルの声だった。

 いつの間にかつながっていた電話に気が付かず、考え続けたために、彼女に大声を御見舞されたというところだろう。

「ごめん、ちょっと考え事してた!」

 そんな、僕の謝罪に彼女はかなり不機嫌気味に言葉を返す。

《もう、そっちから電話したっていうのに、どういうことなの?》

 僕はその言葉に何やら違和感のようなものを感じた。

「……悪かったって!」

《ううん、もう良いよ。どうせ電話の仕方がわからなかったとかそんなんでしょ?》

「うん? どうしてわかったんだ?」

 僕はなぜだか、彼女と会話するたびに不安になっていく。普通は逆のはずで、安心するのが普通だろう。だが、なんだ? どうしてこんなにも違和感を感じるんだ?


《それより、私たちの一族の名前の由来はわかったの?》

「なんだって!?」

 彼女の言った言葉は、その意図はわからずとも、意味はよく知っている。

《っ……! ちょっと大きな声を出さないでよ! もともと、そのためにグラキエスに会いに行ったんでしょ?》

「どうして、そこで伝説の魔法士の名前が出るんだ?」

 グラキエスはよみがえりの一族、つまり、僕達の一族の間に伝わる伝説の男。いわば、僕達がが生まれるよりもはるか前の存在だ。だが、伝説は伝説。そんな相手と会うことなど、無理に決まっている。理を超えていて、不可能だ。

《私だって驚いたけど……あなたがグラキエスに会いに行くって言ったんじゃない?》

 ますます、意味がわからなかった。僕にだってそれが不可能だということは容易に分かる。万が一、いや億が一、グラキエスという男が実在したとしても、彼がこの世界にいることはほぼありえない。

 そもそもの話、原点にかえって考えれば、違うそうではない。考えなくても分かることだが、僕達……僕達というのもおかしいだろう。だから僕の一族がよみがえりの一族と呼ばれた理由はわかっているはずだ。――そう、原因はテネブラエという男の方にあるわけだから、もし、由来が知りたいのであればそちらを探すべきだ。

 だが、それを直接ニヒルに尋ねることは出来ない。一週間後の僕が何を考えていたかは知らないが、今ニヒルに怪しまれるような行動を取ることをするのは得策ではないだろう。なにより、ニヒルからは核心を突くようなことは出てこないだろうと僕はふんでいた。

 しかし、情報が足りていないのも事実であり、僅かな情報であったとしてもないよりあ増し、なんて程に追い込まれている。

「確かにそうは言ったが、悪魔に命を狙われているらしくて……」

 そう言い切る前にスピーカーから伝わる空気音が以上に大きく聞こえたような気がして、言葉に詰まってしまった。それが原因というわけでは無いのだが、次の瞬間僕の耳を劈くような轟音が響き渡った。

《なんですって!! それで怪我はないの!!?》

 その声量に思わず僕は、スマホを耳からかなり大きく離したが、それでもか彼女の声は部屋にこだましていた。

 急いで僕はスマホのマイクに向かって叫んだ。

「声がでかいよ!!」

《あなたのほうがうるさいわ……》

 その言葉には何も言い返せなかった。むしろ、僕の声のハリが彼女を上回ったことを誇りたいくらいだった。だが、そんな僕の休息もつかの間、彼女はつつけて呟く。

《まあ、電話をしてきているってことは無事ってことよね……》

 何をそこまで心配しているのだろうか? 確かに僕はニヒルと同じ家に住んでいる。そう言ってしまえば懇意の仲なのかと勘違いされそうだが、そこまでの仲ではない。

 むしろ、サーヴァントとマスターといった関係が近いだろう。もちろん僕がサーヴァントだが……。それがどうだ? 彼女ときたら、僕が悪魔とに襲われたというだけで冷静さを欠いてしまった。経営者として社員のことを心配してくれるのはありがたいことだが、今の世の中、仲間意識だけで会社を切り盛りしていけるかと言われれば、そうではない。――特に、競争が激しい業界では食うか食われるかの話だ。

(おい、話がずれてるぞ……)

 おっと、しまった。今重要なことは、この状況について知ることで、会社の経営方針は関係なかった。とにかく、今更、どうして僕がよみがえりの一族について調べていたのか、それだけが問題だ。確かに子供の頃は気にもなったが、今はどうでもいい。むしろ、日本人がなんで自分が日本人なのかを調べるようなものだ。――そんな理由調べたところで知れることは大したことでもないし、調べたところで、数ある所以の一つでしか無い。

 そんなもののために僕が動くなんて、どう考えてもおかしい。僕は本来合理主義者であるわけだが……

(誰が合理主義者なんだ?)

……合理主義者であるわけだが、

(一回、合理主義者の意味を調べたほうがいいぞ)

……うるさい。

 なんて、長時間、僕にとってのサーヴァントと漫才をしてしまったわけだから、電話の先で待っていたニヒルはそれは不思議に思っただろう。ずっと無言なのだから。


《返事がないけど、本当に大丈夫なの?》

 僕はとっさに、適当な言い訳を考える。

「ごめん、ちょっと考え事を……」

《もう心配させないでよね……》

 なんだ、この甘ったるい空気は……僕はこの一週間一体何をしていたんだ。答えてくれよ悪魔!

(未来は自分で知るべきだろう? ほら、ドラ○もんも言ってたじゃないか、未来を知ってしまったら努力しなくるとか云々)

 ドラ○もんってなんだ? というか、そのドラ○もんとやらは本当にそんなことを言ったのだろうか?

(俺が知るわけ無いだろう……馬鹿か?)

 悪魔の物言いにはさんざん、苦労させられてきたが、今回ばかりはむかつきが苦労を上回った。よし、もうこいつにはなにも聞かないでおこう。





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