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よみがえりの一族  作者: 真白 悟
始まりは終わりとともに
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始まりは突然に

 なんて風に物語のように突然いい場面で物語が終わるなんてことはない。だが、突然場面が切り替わるように記憶が突然途切れるなんてことはありえるようだ。僕は今そんな奇妙な事件に巻き込まれている。いや巻き込まれているというよりも、巻き込んでしまったという方がいささか正確な気がした。

 だが、実際のところ僕にはどちらが真実なのか僕にはわかりかねるというのが真実であろう。しかし、それこそが重要な事実なのかもしれない。

 そもそも、なぜ僕の記憶が途切れてしまったのかということだが、それ自体が僕の持たない記憶の中にあるとするのであればどうすることも出来ないのだ。それよりも問題は僕がホントに記憶を失ってしまったのかということだ知りたい。記憶とはそもそも忘れることなどありえない。記憶とは思い出せないからこそ忘れたと錯覚してしまう、なんてことを聞いたことがあるからだ。だとするならば、僕の記憶はどこへ行ってしまったのか?


 ベクトルを変えて、別方向から見てによう。僕はどうしてニヒルと話し合った、あの日から1週間後の未来に来てしまったのだろうか?


 それもこの部屋にはまるで見覚えが無い。もし、ポケットに入っていたスマホがなければ、状況を確認することすらできなかったのだから、幸といえば幸いだ。いや、状況が分かるからこそ、災いだとも言える。むしろ災いだ。

 だって僕はしたくもない状況整理をさせられているのだから。――もし、この状況を作り出した犯人がいるとするなら、このスマホをもたせた事自体が、僕にこの状況の意味を教えるためだろう。だからこそ、僕にとっては最悪の状況と言うわけではない。だが、悪い状況には変わりないだろう。


 そんな風に状況を悲観してばかりもいられない。何より優先するべきは今の状況をどう打破するかということだろう。どうやらドアはあかないようになっており、窓には格子が取り付けられているだけではなく、外から何かで覆い隠されているようだ。どちらからも脱出は不可能だろう。ならば次に考えるのは魔法を使って破壊を心見ることだったが、それは出来れば避けるべきだろう……なんて避ける以前にそんな強い魔法は使えない。――いやそれも随分格好つけた言い方だ。そもそも魔法など使えた試しが無い。例えニヒルに魔法理論を習ったとしても、そんなに簡単に発動出来るなんて都合のいいことはない。

――――だから、いま僕に出来ることは知恵を絞ること以外はなく、悲しくも現実として僕に降りかかる。


(何だ? さっきからうるさいな……?)

 なんて、頭の中から聞こえる声によって、僕は最終手段を思い出した。そう、それは穢らわしくも聡明な悪魔様の存在だ。

「そうだ、お前がいたな……」

「せっかくだし、思考ではなく声で会話させてもらうぞ? 構わんな?」

 僕は悪魔の言葉に若干の違和感を感じたが、彼から聞こえてくる思考など断片的でほとんど判断の材料にならない。だから、わかりやすい言葉で話してくれることは僕にとってもありがたいといえよう。

「わかった。そうしてくれると僕も助かる」

 その言葉に悪魔らしく人を馬鹿にしたようにクックックと静かに笑い声をあげ、ありがたいのはこちらだなんて呟き、続けた。

「だが、お前の希望するような回答はしないぞ?」

「それは、僕のおかれた状況を知っているということだな?」

「確かに知っている。だが、それに答えることはしたくないということだ。まあ、お前のおかれた状況のこと以外なら答えてやろう」

「………………」

「まあそんな目で睨むな……お前にも都合があるように俺にも都合があるんだ」

 いくら思考を読もうとしても、何かにジャミングされているように、ノイズの入った気持ち悪い言葉が流てくるばかりだ。

「わかった。このままなにも分からないよりはマシだしな」

「そうだ。お前はもうちょっと俺の存在を有難く思うべきだ」

「ありがたくは思わないよ」

 誰も敵対していた悪魔と一緒にいることが、迷惑ではあれどありがたいなんて気持ちは一切ない。

「まあそれでもいいよ。どうせ俺にとってこれは余生だし、余生をどう過ごそうが俺の勝手だろ?」

「俺にとっては大事な人生だ」

「それこそ意見の相違だ。俺は余生だって大事な人生だと思ってるがな……まあ人間じゃないけどな」

「なるほど、悪魔の考え方にもまともな考え方があるんだな」

「それはそうだろ? お前は悪魔を一体なんだと思ってるんだ? 殺人兵器か? 俺らにだって思考はある。特にお前らに殺された3人は俺ほどじゃないが、それでもお前らの何十倍も長く生きていたのだから、お前たちよりも思考が深かっただろうな。それに死に対する恐怖もな」

「そうか、もしそうだとしても、僕は奴らに同情するつもりはない。奴らのしたことを考えれば同情するべきではない」

「くっくっく、なるほど……お前の考え方はなんとも面白いな。だが、それこそ当たり前のことだろう? 奴らがああしたのは自然の摂理、お前らがあいつらを殺したのも自然の摂理なんだから。草食動物が草を食ってもお前は同情しないだろう? 肉食動物が草食動物を食ってもさほど同情はしない。例えその逆があったとしても決して同情などしないだろう?」

 なるほど、悪魔の考え方はどうも理屈的で遠回しで、一切の同情すらなく、ただの正論だ。だからこそ、人は悪魔を恐れるのかもしれない。だが、ベリアルはどうだ? あいつは嘘を好み、本当のことを嫌う。だからこそ思うことがある。悪魔の考え方にも種類があるのではないかと、だがそれは前提としてこの悪魔が正直であるということだが、きっとそれは間違いないだろう。

「…………なんて、お前には僕の考えが筒抜けだし、思考を張り巡らしても結局先手は取られるわけだし、おまえは思考を隠せるし僕が戦略でお前に勝てるわけがないし、もうどうでも良いか」

「馬鹿いえ。俺はお前との会話が唯一の楽しみなんだ。もっと色々話のたねをもってこい」

 悪魔はそんな風に言うが、それよりも――それよりも僕は自分の状況についてどうしても知らなければならなかった。

 だから、こんなくだらない会話をしている暇など一切ない。むしろ、早く質問タイムに映らなければならないわけだ。例えこの悪魔が俺の状況に対して答えないとしても、得られる情報はあるだろう。


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