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よみがえりの一族  作者: 真白 悟
仕事をしよう
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酒場と報酬

 堺の怪力、ノウェムが使った魔力それはどちらも僕にはない力。別に羨ましくもないが僕はどんな約割を担うことができるのだろう?

 街に戻るまでのわずかな時間、ふとそんな考えが頭に浮かんだ。

 なにより、誰にも頼ることの出来ない状況では自分だけが頼りなのだから……


――――――やっぱり、武器は必要だよな?

 自分の約割は、やはり剣の腕だろう。

 服だって就任依頼の時に親からもらったこのコートと騎士団の制服。地方民族にしては上等な黒いコートだし、この服も確かに全く戦闘に向かないというわけではないが、適切とは言い難いだろう。

 なにより、僕にとってはあの両親や騎士団の仲間との唯一の繋がりとなってしまったこの服をこれ以上汚したくない…………

 

「あ、そうや! 就職祝いをやんの忘れてたな? お前にも装備が必要やろうし今回の報酬は全部お前にやるわ!!」

 堺の突然の提案、それは僕にとって有難いことではあるがそれではノウェムが納得しないんじゃないか?

「それもそうだな、我も先輩として助力しよう」

 ノウェムは意外に乗り気だった。しかし、それには続きがあるようだ。

「その代わりと言ってはだが……一つ条件があるのだが……?」

……条件? なんだろうか?

「うーん、よくわからないけど僕にできることならなんでもいいですよ」

 僕の言葉に嬉しそうに笑い、咳払いをするノウェム。

 そこまで彼女が準備をしたのだ……一体どんなすごいことが発表されることやら……


「なんというか、そのだな……君の装備についてなんだが…………」

――――僕はつばを飲み込んだ。

「我に選ばせてはくれないだろうか……!?」


……え? それだけか?

「もちろん、それだけなら全然問題ないですけど? 本当にそれだけですか?」

 なぜだか吹き出す堺だが……一体なにが面白いのやら……


 しかし、この時の僕は本当の絶望についてまだ知っていなかったようだ。



 街に戻った僕たちは、会社にも戻らずになぜだか酒場へと連れて行かれた。

「どうして、酒場にに来たの?」

…………祝杯でもあげるつもりか? いやそんなはずないな……

 なにを馬鹿なことを聞いてると言いたげな堺だが、決してそのことは口にしない……

「なにを馬鹿なことを聞いてるんや?」

 はずだったが、そうでものなかった。


「本社の方でも話したやろ? 一般のクエストを受けるのも報酬を受け取るのも酒場のほうやと言ったやろ?」


 そういえばそんな説明を受けたようなきもするが……いや受けてないだろ、たぶん。

 だがそれよりも……

「……この酒場はどこを目指しているんだ?」


 どうみても建物の様式が他と違う。まず、外観は木で出来ているし、ドアはウェスタンドアで、外の壁には無数の手配書。さすがに僕の故郷でもこんな古風な酒場は存在しなかったぞ……

 確かに堺や僕にはちょうど良さそうな雰囲気ではあるが、ノウェムに関しては場違いも甚だしいような気がするな僕は……


「言いたいことはわからんでも無いけど、ここに突っ立ててもしかないやろ? 中に入るぞ!」

 堺の言うことも最もではある。直なところこんなところに入りたいとは到底思えないが、これも報酬を受け取るためだと自分に言い聞かせて、ドアを潜った。

――――中の雰囲気は表とはまるで違っていた。

 机も椅子もカウンターも、なんなら店の内装全て、自分の国に帰ったような錯覚に陥らせた。

 あの丸い木のテーブルに無骨な木の椅子、それに質素なダークオークのカウンター、壁に掛けられた武具や謎のクエストボード、どれも特にみたことがあったわけでもないがとても懐かしかった。


「なんだか安心するね……なんでだろう……」


 それを聞いたノウェムが答える。


「我が思うに、懐かしいと感じるのは、なにも記憶にあるものだけではない。この雰囲気や空気を感じているのだと思うんだ。」

 確かにそうかもしれないが…………

「それだけじゃない気がするな」

 僕の言葉に興味が沸いたのだろうか、ノウェムは真剣な眼差しでこちらを見つめる。その様子はまるで勉強熱心な学生の如く膨大な知識を吸収するものに近い。

「例えばなに?」

 そう聞かれるとなんと答えたものかわからない。

「うーん……なんですかね? たぶん僕の心の奥に眠る故郷に対する渇望かも知れませんね」

「――――うむ、興味深いな」

 なんという即答だ! まるで僕の答えがわかっていたようにすぐさま食い気味に『興味深い!』と言った。


「面白い話をしてるじゃない!」

会話が終わるのを待っていたかのようにカウンターの方から声がした。

 そこには、お嬢様と読んでも遜色ないほど綺麗な黒いドレスをまといブロンドヘアが綺麗な美人女性が立っている。 

 確かにニヒルやノウェムは可愛いが、彼女はそれとは違い綺麗というのが第一印象だ。

「お話は終わったようね。じゃあこちらへきていただけるかしら。」

「綺麗なお嬢さんやろ? でも惚れるなよ。」

堺がヒソヒソ声でそんなしょうもないことをつぶやいたが、僕にはそれよりも気になることがある。


 この香りどこかで嗅いだことがあるような気がするが、はてどこでだっただろうか?


 ずっと彼女から漂う香水の香りが気になって仕方がない僕がいる。

しかし、よく嗅いでみれば微妙に僕の記憶と香りが違う気がして、すぐにどうでも良くなった。


「もう、堺さんはお世辞が得意ですわね」

「お世辞ちゃうよ!!」

そんな2人の他愛のない話しをききながら、ぼくはボーッとその様子を眺めていた。僕の視線に気がついたのかその女性は僕の方へと向きを変えた。


「あなたがイグニスさんですね! 私は#水無 灯__みずなし あかり__#と申します。職業は見ての通りこのどこに向かているかわからない酒場のマスターですわ!」

 灯と名乗った彼女は表面上は笑っているが、明らかに目が笑っていない。どうやら僕の悪口を聴かれてしまったようだ。

「いや、それはその……すみませんでした!」


「――――冗談ですわ」


 そう言って彼女はクスクスと笑った。

 僕はそういった冗談に慣れていないからやめてほしいものだ……でも僕が悪かったのも事実だしだまっていよう。


「どうかされましたか?」

彼女の瞳はじっくりこちらを見据えていた。その瞳がとても綺麗だったから僕は言いようのない緊張感に駆られた。絶対性的な感情でそう思ったわけではない!

「いや、なんでもありません。僕はイグニス、今日から冒険者です!」

僕の渾身の自己紹介に対し堺が吹き出していた。彼がなぜ笑ったのかはわからなかった。


 報酬の受け取りの手続きは比較的に簡単で、『すまーとふぉん』を見たことがない装置にかざしただけで報酬が受け取れるようだ。

 魔物を倒したことなど証明仕様がないからどのように処理するのか疑問だったが、それをみて余計疑問が増えただけでなにも解決しなかった。

 だけど、見たことない装置にはワクワクする。こんな気持ちは初めてだから自分自身ちょっと戸惑っているようだ。


「そ、その装置は一体なんですか?」


 堺やノウェムは普通の反応だったが、灯はかなりビックリしていた。

「イグニスさんはスマートフォンを知らないんですの?」


確かに『すまーとふぉん』なる端末もよくは知らないが、僕が気になっているのはそっちではない。


「いえ、すまーとふぉんではなく、そっちのでっかい方です。」

「えっ!? こっち?」

彼女は想像以上に踊ろしているが、なんでだろう?

 僕の好奇心を察してくれたのか、横から堺が口を挟んだ。

「イグニスは他の国から来たから、気になることが一杯あるんや! よかったら色々教えてやって!」


堺はやっぱりいいやつだ。そういえば、こっちに来てから助けられてばかりな気がする。


「……それは大変ですわねイグニスさん。もしよろしけれなんでも聞いてくださいまし!」

 知り合いがあまり多くない僕には、とてもありがたい言葉だ。

「ありがとうございます!!」


 一応お客様だというこで、彼女は僕たちにお茶を入れてくれた。お茶の香りはとても心地よかったが、酒場なのにお茶が出てくるのも変な気分だった。

 酒場と言えばその名のとおり酒を飲む所であろうに……一番設けのでなさそうなお茶の種類をたくさん備えている。


お茶を飲み終えたノウェムが思い出したかのように呟いた。

「あれ? そういえば、手続きをしたものの報酬金を受け取っていなかった気がするのだが……?」

「忘れとったわ!!」

まるで驚愕の事実でも知ったかのような顔をしている堺に、

「確かに……!それは盲点ですわ!」

全く気が付いていなかったかのようにわざとらしく驚く灯さん。

――――もうダメかもしれない。そう思う僕だった。


堺はスマートフォンをかざした装置から出て来た紙を取り出し、その紙を灯に手渡した。

 仕組みはわからないが、どうやらその紙とお金を交換するようだ。

「はい、確認しました。最下層モンスター20体討伐お疲れ様。報酬金は一体1万円になりますので20万円になりますわ!」

報酬金は僕が思っていたよりもかなり高かった。僕のあの情けないパンチが1万円の価値があるとは到底思えない。


僕の驚いた様子を見てノウェムが僕に耳打ちする。

「勘違いしていると思うから言わせてもらうけど、最下層モンスター、つまり雑魚モンスターを1体狩るだけで1万円ももらえるわけじゃないからな? 今回はニヒルちゃんからの特別手当だろううな、いつもは最下層モンスター一体あたり500円程度しか貰えないからね。ニヒルちゃんに感謝するんだよ……」


そうかニヒルが……。だとしても、僕のパンチに500円の価値があったのかは疑問ではあるけどね……


「でも、本当に僕が貰ってもいいの?」

なんだか貰うのが非常に申し訳なく感じた。

「遠慮するな、そのままの装備では討伐クエストに行くのは厳しい。それに我はなによりニヒルからの気持ちを無下にするのはよくない」

「せやで、遠慮なんかするんやない。でも金持ちなったら返してや。」

冗談交じりにいう2人に僕はまた救われた。


「イグニスさん、とりあえず初報酬おめでとうございます!」


ノウェムや堺の優しさ、灯から手渡しされた初めての報酬は、ただのお金ではなくみんなの気持ちそのものだった。

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