もう少し話すことあると思うけど、彼女に隠れてアニメを見る方法しか話していない
いつものように修三が陽介と電話で話していると、「今日、新居を探しに行ってきたよ、疲れた」と陽介が言った。
なんと先日あの!この!その!陽介がついに結婚を決めたのだ。互いの親に紹介しあい、新居を探し始めたという。最初その話を聞いた時、修三は深い感慨を抱いた。「そうか」ついにこの日が来たかと「おめでとう」
陽介はエンジニア、彼女は看護師さん、当面は共働きを続けるという。すれ違いの生活にならないかとか、価値観の違いとか、心配するネタは幾らでもあるだろうが、しかしもっと大切なことがある。陽介には秘密があるのだ。
「なるほど、それで君のアニメコレクションどうするの?」
陽介は、重度のアニメっ子なのだ。彼は今賃貸アパートで独り暮らしをしているが、録り貯めたアニメのディスクは数百枚にのぼる。それはもうそこらじゅうに置いてあり、トイレの個室内の棚の上にまである。意味が分からない。ハードディスクレコーダーからディスクに焼いたことで満足してしまい、二度と見ないものが半分以上らしいが、それでも捨てる気にはなれないのだ。録画して持っていることで満足する、コレクター属性が陽介にはあるのだ。そんな彼に修三は『アニメエリートコレクター』の称号を奉じた。ハードディスクは酷使しすぎて昨年壊れ、今は二台目が多分今日もせっせと録画していることだろう。朝起きては前夜未明録画された作品をチェックし、夜帰っては好みの作品を見直す、とは言い過ぎか。修三は以前ハードディスクレコーダーの気持ちを代弁してからかったことがある。
「朝起きてすぐにアニメかよ!死ね!夜帰ったらすぐにアニメかよ、いい加減にしてくれ!」と。
それほど重度のアニメっ子なのに、まだ彼女は知らないという。よほど厳重に隠蔽してきたのだろう。聞いた限り彼女にアニメ趣味は無い。ドラマとか映画や音楽も一般的な趣味のものばかりだという。
「恥ずかしがらなくても良いんだぜ?」
「カスが」
「まだ隠していくの?もう公開しようよ、君のアニメとギャンブル趣味を」
陽介には競馬やパチンコという趣味もある。ちょっと隠しすぎだと思う。
今までの隠し方はどうやっていたのかというと。
陽介はその自宅に彼女を入れたことがない。彼の車のオーディオは、ハードディスク内蔵で大量のアニメソングが記録されているが、それもばれてない。ホントに結婚するの?と思うくらいに隠し通している。
「部屋に入れたことが無いのは置いといて、車で旅行行ったときとかどうしてたの?音楽くらい聞くでしょ」
「『ドリーム噛む真実』とかも入ってるからね。偽装工作は完璧だ」
「また趣味じゃないものを。でもずーっと流してたらその内危険な曲が流れるんじゃないの」
「そうなる前に曲を変える」
「それ、ずっと意識して運転してんの?」
「ああ」
「あっはっは、付き合うって大変だなあ。でもまあ、もうばれてるんじゃないの?ふとした拍子に『1,2,3の合図で~Yeah!』とか口ずさんだりしちゃってると思うよ」
「それはない。全力で警戒している」
「そう?なら彼女がオーディオを操作しようとしたら?触ったら殺すぞ?とか言ってるの?あっはっはっはっは」
「くっくっく、カスが」
「まあ、それでこの先も隠していくと」
「結婚したらスマホで見れば良いんじゃないの」
「ええー、それはしょぼいよ。テレビで見ようよー。夜中こっそり起きて見るとかさ」
「あっはっは、なんでそこまでしないといけないの」
「彼女が来たら条件反射で変えられるようにリモコンに手を添えながら。0.1秒で変えられるくらいに修行しないとね♪きゃ♪」
「あっはっはっは」
「しかしこれは重要は話だな。彼女に隠れてアニメを見る方法を検討しようか」
「あっはっは、ホントどうでも良い話だな」
「でも見たいんでしょ」
「カスが」
「まずは、夜中にこっそり起きて見る」
「却下」
「では彼女もアニメっ子になってもらう。毎日の生活を少しずつアニメが侵食して気が付いたらそこに魔法少女が」
「はっはっは、さらに却下」
「もう我儘だなー。では物理的に強制隔離するとか。つまり段ボールで囲いを作って画面を自分だけ見れるようにする」
「ぷっ、はっはっは、それも却下」
「そしたら、えー」
「もう考えるな!お前のターンは終わりなんだよ」
「ドロー!そうだ彼女に目隠しすれば良いよ。目隠しプレイ中に見れば」
「あっはっはっは、このド変態が」
「しかし、彼女に隠れてアニメを見る方法、か。これでライトノベル書けるんじゃね?」
「ふん、書けば」
「ところで今何やってるの」
「疲れて帰ってゴロゴロしてる」
「ゴロゴロにもいろいろあるだろ、ゴロゴロしながらアニメ見るとか、アニメ見るとか、あとアニメ見るとか」
「アニメしかないじゃないか。まあ、見てるけど」
「でしょでしょ何見てるんだい?」
「こっ、このカス野郎が、あっはっは。『週末何してますか?暇ですか?金貸してもらってもいいですか?』だよ」
「ああ、あれか。でもあれメインヒロインがちょっと年齢層高すぎて君の対象外だよね。脇役の少女達ならストライクなんだけど。残念♪」
「あっはっはっは。もう良いから打ちに行こうぜ」
「まあ、君が行くなら」
「行くよ、行く行く♪」
「ホント、息をするように嘘つくね」