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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第一章:夢のキャンパスライフ編
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七 通学

「テスト頑張ってね」

「はい、頑張ります。では……」


 吉沢高校の最寄り駅に到着した。ここで美波は電車を降りることとなった。


 私は電車の中で美波とお喋りを楽しんだ。誰かと話しながら通学をしたのは、これが初めてだった。友達がいれば、通学中も退屈しないのだということを知った。

 

 美波の話はとても魅力的だった。彼女は日本史に興味があるらしく、戦国武将や歴代総理大臣の裏話など、学校の授業では習うことがないエピソードを紹介してくれた。私はそれをとても関心を持って聞いていた。


 特に面白かったのが伊藤博文のエピソードだ。彼は日本の初代内閣総理大臣だが、女遊びが派手で破産してしまうほどだったそうだ。そのため、自身の家まで手放すことになったらしい。一国の首相が家を失ってはならないということで、総理官邸が建てられることになったという噂もあるのだとか。

 

 美波を会話をしていた時、私は周りからジロジロと見られているような感じがした。いや、実際に見られていたのだった。


 私と目が合うと、サッと視線を逸らすサラリーマンや私の方を見てひそひそと会話をする女子高生の二人組がいた。


 一体どういうことだったのだろう。


 美波が電車を降りた今では、周りの乗客は平然としている。変な視線を向けられていたのは、美波と会話をしている最中だけであった。


 彼らは皆、私ではなく美波を見ていたのだろうか。美波があまりに可愛いから、つい目を向けてしまっていたのかもしれない。


 うん、もうこれ以上はあまり深く考えないことにしよう。


 私はスマホを取り出す。美波がいなくなったので、いつもと同じく退屈な通学時間がやって来たのだ。


 この閉鎖された息苦しい空間で話し相手のいない私が唯一気を紛らわせる方法は、スマホいじりだけである。


 ◆ ◆ ◆


 大学に到着した。私は一限目の講義が行われる教室へ足を運んだ。講義開始の十五分前だが、すでに何人かの学生が席に着いている。


 私は黒板から見て一番左端の五列目に位置する席に座った。この講義では、ここが私の専用座席となっている。


 グループでまとまっている学生は後ろ側の席に座る傾向がある。一方、私のように一人でいる学生は黒板に近い席で講義を受ける者が多い。


 ぼっちは講義前も講義中も大人しい。後ろの方でにぎやかにしているリア充集団とは温度差が激しかった。


 講義が始まる頃には大勢の学生が席に着いていた。私はノートを開き、シャーペンを右手に握った。


 教授がやって来て、何やら話を始める。話題は今朝のニュースで報じられていたことだった。


 私はそれを真面目に聞いている。しかし、他の学生は教授の話にあまり興味を示していない様子だった。


 顔を伏せて寝る者やスマホを机の下に隠しながらゲームをする者。お喋りをして注意を受ける集団。


 私は短くため息を吐いた。そして思った。

 大学とは一体何をするための場所なのだろうか、と。


 そんなにやる気がないのなら大学に来なければいいのに。家で好きなことでもしていればいいのに。お喋りなら近くのカフェですればいいのに。


 お前らは真面目に講義を受けている者に対して失礼だとは思わないのか。

 ……などと、私はぼっちならではの戯言を心の中で呟くのであった。

 

 まぁ、他の人間がどうなろうが私には関係ないのだが。私は真面目に講義を受ける。そして、良い成績を残す。まわりに差をつける。ただそれだけのことだ。


 このままだと、どんどん私だけが優秀になってしまうではないか!


 私はニヤニヤと笑みを浮かべていた。おっと、一人で笑うのはキモいわね。美少女の私でもさすがにキモい。よだれが落ちる前に口を閉じよう。


「あ、筆箱忘れた……」


 私の左側に座る男子学生が小さな声で言った。

 三人座れる一つの長机に彼と私の二人が座っている。私たちは真ん中の席を開ける形で座っていた。


 きょろきょろと見回す男子学生。彼は眼鏡をかけており、大人しそうなタイプだった。


 筆記用具がなければノートを取ることができない。でもそれを借りる相手が近くにいない。襲いかかる絶望感。


 わかる。すごくわかる。ぼっちだと誰に声をかければいいのか迷ってしまうのだ。声をかけるにも勇気が要る。まわりは知らない人間ばかり。完全なるアウェー。


 慌てふためく彼の様子を私は憐みの目で見ていた。仕方ない。そろそろ私が助け舟を出してやろうか……。


 そう思った時だった。


 彼と目が合ってしまった。

 

「えっと、すみません。鉛筆貸してもらえませんか? できれば消しゴムも……」


 彼の方から私に助けを求めてきたのだった。

 ちゃんと頼める男じゃないか。

 私は感心した。


 拒否をする理由もないし、借り手がいつまでも見つからないのであれば、元から貸してあげるつもりだったので、私は快く消しゴム付きのシャーペンを彼に手渡したのだった。


「どうぞ」

「ありがとうございます。この講義が終わったら返しますので」


 そう言って男子生徒は頭を下げた。礼儀正しい感じの人物であると思われた。

 バイトの接客以外で男性と話したのは久々だ。


 本当に私は男と関わる機会が少ないものだ。彼氏を作るきっかけ自体がなければ、私は一生独り身だ。


 しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。講義中なのだ。

 私は再び教授の話に耳を傾け始める。

 

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