七 事後
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時計の針が深夜二時を指す頃に、ようやく私はアンネリーゼとの「儀式」を終えた。
ひとしきりの戯れが完了し、脱力感に襲われる。それと同時に虚無感がやって来るのだった。
私はなんてことをしてしまったのだろう。魔女を相手にみっともない真似をしたものだ。醜態を晒すとはまさにこのことを言うのではないだろうか。
私たちはそれぞれの布団の中に入った。今度こそ就寝する。さっきまでのことは忘れて、すぐにでも眠りの世界へと入りたい気分だ。
目を閉じて心を無にする私。鼻で深く息を吸って吐き、呼吸を整える。これを繰り返せば、眠りに落ちてゆけるはず……。
だが、魔女はそんな私の精神統一に水を差してくるのだった。
「今夜はとても積極的でしたわね、春華」
からかいを含む笑みを向けてくるアンネ。
「う、うるさい……。別にそういうわけじゃないから」
私は彼女とは反対の方向へ寝返りを打った。恥ずかしがっている顔を見せたくない。
「あなたも最近は物足りなさを感じていたのではありませんこと? だから今回はあのように激しく……」
「あー、もう! 違う違う! 本当にそんなんじゃないから! さっさと寝るわよ。お喋り禁止!」
「うふふ。照れる春華も可愛らしいですわ。正直に言えば楽になれますのに。わたくしは全く気にしませんわよ? むしろ大歓迎ですわ。欲望のままに乱れ狂う春華の姿は、わたくしの心と体を熱くさせますの……」
「……バカ! 乱れたりなんてしないから!」
とうとう私は布団を頭から被り込んでしまった。
景色が真っ暗になる。何も見えない。瞳を閉じれば、完全なる闇が広がった。
布団の外には魔女がいる。彼女は今、どんな顔をしているだろうか。恥ずかしさのあまり全身を引っ込めてしまった私をニヤニヤと見つめているのだろうか。
だが、もうそんなことはどうでもいい。もはや魔女の反応など気にするまでもない。私はすでに彼女に恥ずかしい姿を存分に見せてしまったのだから。
魔女との戯れに快楽を覚えてしまったことは事実である。あの時、とても夢中になっていたことも確かだ。しばらくアンネに弄ばれ続けていたいと思ってしまった。
あれは魔女の誘惑というヤツだろうか。私は何かに誘われるようにして、内側に秘めていた欲を彼女にぶつけてしまった。私は快感を求めていた。隣の部屋に春樹がいるにもかかわらず、声を殺すことさえも煩わしく感じてしまうほどだった。
私は暴走寸前だったと言える。満たされない心を満たすために魔女を利用していた。そして、魔女もまた私を利用して自らの心を満たすのだった。
これが私たちの生きる術。これが私たちの契約。
この先もずっと、この関係を続けていかねばならない。
もう逃れることはできない。魔女に束縛された私の身体は、魔女無しでは満たされなくなったのだ。
「次も楽しみですわね……」
アンネは独り言のようにつぶやいた。
次などなければいいのに。さっきのが最後になってしまえばいいのに。
だが、さっきのアレを思い出すと全身がムズかゆくなるような感覚に襲われるのだった。また次も……と思ってしまうのだった。
「バカ」
布団の中で私は言った。アンネに照れ隠しをするために。また、不本意ながらも彼女を求めてしまった自分自身を叱責するために。
恥ずかしさと苛立ちが消えない。動揺がおさまらない。
どうやら今夜は眠れそうにない。
こんな夜には妄想をするに限る。イケメンでお金持ちの旦那を捕まえた自分を想像してみよう。夫の金で優雅なアニオタ生活を送っている自分を脳内で映像化するのだ。
「おやすみなさい。良い夢が見られるといいですわね」
隣で横になるアンネが言った。
ええ、おやすみ。あなたにはせめて、夢の中くらいは出てこないでいただきたいものだ。
私が唯一魔女から解放される時間。それは良い夢を見ている時であった。
魔女のいない世界。そこで初めて、私は本当の自由を手にするのだ。
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