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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第一章:夢のキャンパスライフ編
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五 意識

『こちらこそよろしく。仲良くしてください』


 美波への返信メールを入力する。

 素っ気ない文章かもしれないが、他に何を書けばいいのかわからないので私はこのまま送ることにした。


 送信のボタンをタップする。

 すると、「送信完了」の文字がスマホの画面に表示された。


 メールのやり取りをするだけでこんなに落ち着かない気分になったのは初めてだ。

 私はなぜか美波のことを過剰に意識していた。


 仲良くするといっても具体的に何をすればいいのだろう。そもそも私は彼女とは電車が同じだけで他に接点がないのである。


 メールを交わすだけの、いわゆるメル友みたいな関係でいいのだろうか。いや、おそらく美波は私と直接会話する機会を望んでいるはずだ。ということは、顔を合わせるための時間を作る必要がある。


 休みの日など、二人の都合が合う時間帯を見つけ、どこかの喫茶店でお茶をしたりするのが、友達という関係なのだと私は解釈している。


 休日に誰かと会う。そのために時間を空ける。それはすなわち、私は時間を自分のためだけに使うことができなくなるということを意味していた。


「人付き合いって、面倒くさいなぁ……」


 思わず本音が漏れてしまう。

 これはいけない。せっかく友達になったというのに、会うことすら面倒くさがってどうするというのだ。


 私は人付き合いが苦手だ。相手のペースに合わせたり、色々と気を使ったりしなければならないのが嫌だった。美波は年下だが、私と彼女は友達という対等な関係にある。お互いに譲歩しなければならない場面もこの先あることだろう。


 コミュニケーション能力はあまり高くない。会話が続かず、微妙な空気になるのも好きではない。

 これまで他人と関わることを避けていた自分が恨めしく思えてきた。もっとコミュ力を磨いておくべきだったと後悔している。


 これは因果応報だ。現実から目を背けてきたせいだ。人間が恐い。だからアニメの世界に逃げ込んでいる。

 生身の人間と上手く接するための術を私は未だ知らずにいる。

 

 ◆ ◆ ◆ ◆


「ただいま」


 バイトから帰宅したのは午後十一時を過ぎた頃だった。

 リビングに入ると、パジャマ姿の母親が、テレビを観ながらふくらはぎの辺りを揉みほぐしていた。

 このマッサージには、身体に溜まっている老廃物をリンパと共に流す効果があるそうだ。


「おかえり。さっさとお風呂入っちゃいなさい」

「はーい……」


 言われなくてもそうするつもりだった。私は明日も早いのだ。睡眠時間が惜しい。入浴は極力早めに済ませたい。


 私は脱衣所にスマホを持ったまま入った。美波からもう一度メールが送られていないか気になっていた。

 今のところ新着メールは来ていない。もしかすると、彼女はもう寝てしまっているかもしれない。

 寝不足気味だと言っていたので、今日は早めに寝るつもりだったと考えられる。まぁ、それならそれでいいのだが。


 ただ私は何となく彼女がメールを追加で送ってこない理由が気がかりだった。もっと何回もやり取りをするものだと思っていたからだ。


 もう夜だから遠慮しているだけなのだろうか。それなりに空気を読める子なのかもしれない。

 無駄にメールを送ってこない方が私には都合がいい。でも今の私は、もうしばらく美波とメールで話をしたい気分であった。

 私は人との関わりを面倒に思うタイプなのだが、不思議なこともあるものだ。


 やはり正直なところ、私はちょっぴり嬉しかったのかもしれない。面倒だと思う反面、メールをする友達が初めてできたことに喜びを感じているのだ。

 いわゆるデレの部分が、私の心の中には潜んでいる。


 どうやら私は恋愛感情は抜きで美波に惚れてしまっているらしい。


 この気持ちは何なのだろう。とてもむずかゆい気分に襲われる。

 この不快感を洗い流すため、私はシャワーを浴びることにした。

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