十八 支度
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朝、目が覚めると、目の前にアンネリーゼの美しい寝顔があった。すうすうと彼女のかすかな寝息が聞こえてくる。
綺麗な顔をしているなと思った。まるで西洋人形のようだ。白い肌と艶のあるブロンドヘア。淡いピンクをした唇。容姿端麗とはまさに彼女や私のような人間を指すのだろう。
……ところで、昨晩は自分の布団に戻ったはずのアンネリーゼが、再び私の布団に入っているのはなぜだろうか。いつの間にこっちに来たのだろうか。
私と彼女は一晩同じ布団で寝ていた可能性が高い。隣で魔女が眠っていたことには全く気づかなかった。
眠っている間に変なことされてないかしら……。
布団のそばにある置き時計を見やると、針は午前六時三十分を示していた。そろそろ起きて学校へ行く支度をしなければならない。
「起きなさい。ねぇ。あなたも今日から学校行くんでしょ? 早くしないと遅刻するわよ」
私は心地よさそうに眠るアンネリーゼの身体を揺さぶる。彼女はむにゃむにゃと寝言を言っている。まだ夢を見ているようだ。
「……ん、おはようございます春華。良い朝ですわね」
身体を起こし、大きく伸びをするアンネリーゼ。なぜかパジャマの胸元のボタンが外れているため、彼女の胸の谷間が露わとなるのだった。ちっ、私よりデカい……。
「さっさと着替えて朝ご飯にするわよ。電車に乗り遅れるわ」
「電車……? ふふ、そのようなものを利用する必要はありませんわ。大学までは私の魔法でひとっ跳びですの。そんなに慌てることはありませんのよ」
アンネリーゼはまだ時間に余裕があることを主張した。
「できれば私もそうしたいところなんだけど、あまりむやみに魔法を使うべきじゃないわ。だって、ここは人間界なんだし」
魔法に頼り過ぎるのも良くない気がするのだ。人間界で暮らすなら、人間らしい生活を送るべきであると私は思う。
「そんなの関係ねぇですわ。どこにいようとも、魔女は魔法を使うものですの」
「ああそう。じゃあ勝手にしなさい。悪いけど、私は電車で行くから」
彼女の魔法には頼らないことを告げる私。
「どうしてですの? 時間の無駄じゃありませんこと?」
「美波と一緒に行く約束をしてるのよ。私たちは毎朝同じ時間の電車に乗ってるの。美波を一人にしたくないわ」
「あらあら、それは困りましたわね。わたくしがいない間に春華が大野美波と二人きりになってしまうなんて……。ならばわたくしも、春華と電車で大学へ行くことにしますわ」
あくまでもアンネリーゼは私の愛人を気取るつもりのようだ。片時も私を手放す気はないらしい。
また余計な心配事が増えてしまった。美波と桃とアンネリーゼは私に想いを寄せる恋のライバル関係だ。私をめぐる三つ巴の争いが巻き起こってしまうのだろうか……。
「お着替えをしますわよ、春華。わたくしが手伝ってあげますの」
「結構よ。一人でするから」
なぜこの女に着替えを手伝ってもらわなきゃいけないのか。しかも、こいつは下心が丸見えだ。素直に着替えさせてはくれまい。
アンネリーゼは魔界にいた時と同じ黒いゴスロリの服に着替えた。魔法で一瞬の内に衣装チェンジしたのだった。
「それはさすがにないでしょ。学校でその格好は目立つわ。もっと地味なのにしなさい」
「そうですの? では、こちらなどいかがでしょう」
もう一度衣装を変えるアンネリーゼ。今度は芋臭いジャージ姿に早変わりした。
って、それは逆に地味過ぎ!
「もう! どうしてアンタはそんなに極端なのよ」
「おやまぁ。人間界での服装選びは難しいですわね」
彼女のセンスはまともではない。これは私がどうにかするしかないようだ。
「仕方ないわね。今日は私が選んであげる」
タンスから私が普段着ている洋服を抜き取る。アンネリーゼに似合いそうな服をチョイスしてみることにした。
せっかくの美人なのだから、服装もそれなりに可愛いものを選んであげるべきだろう。まぁ私の場合は可愛さが神ってるので、どんな格好でも問題ないのだが、人間界デビュー初日の彼女には無難なファッションをさせてあげる必要がある。
「これなんてどうかしら。ちょっと着てみなさい」
「まぁ、素敵ですこと」
ジャージから私の用意した服に着替えるアンネリーゼ。
「うん。なかなか似合ってるじゃない」
「春華の匂いがしますの。ああ、いいですわ……」
クンクンと服の匂いを嗅ぐアンネリーゼ。いちいち嗅がなくていいから。
ま、とりあえずこれで服装は問題ないだろう。
着替えが済んだ私たちは、朝食を取りに一階のダイニングに向かうことにした。母が私たちと春樹の朝食を用意してくれていることだろう。
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