十七 束縛
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昨日は大変な目に遭った。美波が行方不明になったり、他の皆が彼女のことを忘れてしまったり、私は持ち物を全て大学のトイレに置いたまま、魔界へ連れ去られたりした。それから魔女と戦いを繰り広げた末に、愛人契約を結ぶことになった。最後はゲートを通って何とか無事に元の世界に戻ってくることができたわけだが、私は桃の家にある風呂に転移してしまった。そのまま桃と同じ風呂に入ることになり、濡れた服が乾くまでバスタオル一枚の姿で彼女の家に拘束されたりもした。
ところで、魔界からゲートをくぐった後、美波とアンネリーゼはどこへ行ってしまったのか。
まず、美波は自宅のトイレで目を覚ましたという。昨日一日の記憶は全くないらしいので、後からアンネリーゼが都合の良い記憶を美波の脳に書き込んでおいたそうだ。
そして、魔女はなんと私の家の風呂に出たようだ。幸いにも家族は外出中だったので、アンネリーゼと顔を合わすことはなかった。
私の服が乾いたのは夕方の七時前だった。バイトの時間には当然間に合わないので、桃の家からバイト先へ休みの連絡を入れた。「人員のカバーは任せろ」と店長が言ってくれた。どうにかなったみたいだ。
迷惑をかけた分は後日取り返さないといけない。
◆ ◆ ◆ ◆
乾いた服を着て桃の家を出ると、私が大学のトイレに置き忘れた荷物を魔女が持ってきてくれていた。そして、電車に乗ることなく魔法で自宅まで帰してくれた。
そこまではよかった。魔女のお迎えのおかげで帰りが遅くならずに済んだ。そのことに関しては感謝している。
だが、家に着いた後のことだった。なんと、そのまま彼女は私の家に上がり込んできたのである。
「ちょっと、なんで家の中までついてくるのよ?」
私は魔女を追い出そうとした。すると、家の奥から母と弟の春樹が笑顔で玄関にやって来た。二人ともどうしたというのか。
「ようこそアンネさん。さぁ、上がってください。ウェルカムトゥーマイハウス!」
母親はアンネリーゼと握手を交わす。
「は? 何やってるのお母さん」
「歓迎の握手よ?」
いやいや、そうじゃないでしょ。
「は、春樹です。ようこそわが家へ!」
弟も握手をする。美女を前に照れている様子だった。
「アンタまで……」
「べ、別にいいだろ! 姉貴の友達なんだし。大事なお客様なんだし」
お、お客様……?
もうわけがわからない。
「ねぇ、これどういうことなの?」
私はアンネリーゼに説明を求めた。
すると、彼女は笑顔で答えたのだった。
「わたくし、今日から春華のお家でホームステイをすることになりましたわ」
「帰れ」
結論から言うと、魔女は魔法を使って、この世界の情報を書き換えたのである。
彼女は外国からやって来た留学生で、私の家でホームステイをしているという設定を作ったのだった。
もちろん彼女が通う大学は私と同じR大学だ。しかも学部まで同じ。
母親と弟も「大歓迎」という始末だった。おいおい、それで本当にいいのか……。
「お世話になりますわ」
にこやかなムードでアンネリーゼは迎え入れられた。
私一人を除いて。
アンネリーゼは私の部屋で寝ることになった。おかげで昨夜はなかなか眠れなかった。彼女は私の布団の中に潜り込んできて、身体じゅうをいじくりまわしてくるのだった。
「や、やめ……」
「そんなに声を出すと、他の方に気付かれますわよ……?」
「うぐぐ……」
殺す。いつか絶対殺す。
私は声を押し殺した。女同士で変なことをしているのを家族に知られたら、私まで変な趣味を持っているのではないかと勘違いされる。
くっ、この変態魔女め……。
「ふふふ。さすがに今日はお疲れでしょう。今夜はここまでにしておきますわ。続きはまた明日の夜に……」
「もういいから……」
とにかく眠りたかった。目が覚めたら全部夢だったらいいのに。
アンネリーゼとの契約は消えていない。この契約を忠実に守らなければ、私の魂は滅ぶ。
魔女の束縛は始まったばかりだ。
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