十一 攻防
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巨大な剣が降りかかる。私はそれを辛うじて避けた。
今の攻撃が当たっていたら、確実に死んでいただろう。回避できたのは本当に偶然としか言いようがない。次は避ける自信がない。
「まだまだですわ。これからが本番ですのよ」
アンネリーゼは剣を振りかぶり、二回目の攻撃を仕掛ける。
私は身構えた。魔女が私に寄越した魔剣とやらで防御するほかにない。どうにか耐えてくれ、と願う。
ガツン、と刃どうしがぶつかり合う。私は魔剣でアンネリーゼの太い剣を受け止めている。剣の大きさ的に考えて、細身の魔剣は圧倒的に不利であると思えるが、不思議と楽に攻撃を防いでいるような気がする。
まるで剣が勝手に動いているかのようだ。私はただ構えていただけだった。魔女の攻撃は目で追うことができないくらい速いのだが、私の身体よりも先に剣が動いてくれたおかげで、一撃を退けることができたのだった。
魔女は「うふふふふ!」と笑い声を上げながら巨大な剣を物凄い速さでブンブンと振り回す。すると、魔剣はその度に勝手に動いて魔女の大剣を防ぐのだった。
これはすごい。私は何もしてないのに、剣が攻撃から身を守ってくれる。
「今すぐ降伏するのですわ。そうすれば、先程の挑発行為を許して差し上げますの。わたくしにも慈悲というものがありましてよ」
と言いつつ、魔女は攻撃を止めない。
「お断りだわ。私はアンタに降参なんてしない」
「大野美波を殺せば、人間界へ帰してあげると言っていますのよ。なぜそうしないのです? 不可解ですわ」
「美波と一緒に帰らなきゃ意味がないの。私にとって美波は大切な友達なのよ!」
魔女との攻防が続く。私は魔剣に身を任せて攻撃を防いでいる。
驚くことに、魔女はこれだけ激しく剣を振り続けているというのに、少しも疲弊しないのである。ただの人間ならば息を切らしてもおかしくない状態だ。しかし、魔女であるアンネリーゼは人間の体力を遥かに超越していると思われる。剣を振る動きが鈍ることもないのだった。
一方、私はそろそろ体力の限界が近づいてきた。剣が勝手に動いているとはいえ、剣につられて自分の腕を動かし続けているからだ。
剣を持つ手も痺れてきた。もう剣を離したい。
「友達などいらない。あなたはそう思っていたのではなくて? そんなあなたが、どうして友達というものに執着しますの?」
「気が変わったのよ。私はコロコロ気が変わるタイプなの。っていうか、なんでアンタは私の考えてたことを知ってるの?」
「わたくしはあなたをずっと見ていましたのよ。それも心の中まで。ですが、あの日を境にあなたの心が見えなくなってしまったのですわ」
アンネリーゼは攻撃を止めた。
私の魔剣も停止する。
「あの日って……?」
「あなたが二度目の死を遂げた日ですわ。新しく生まれたあなたの心からは何も見えませんの。人の心を覗き見する魔法が通用しなくなったのですわ」
「そ、そんな魔法まであるのね……。覗き見とか気持ち悪いんだけど……。で、私の心はどこまで覗いたの?」
思考を勝手に読まれていたというのか。恥ずかしい妄想をしていたこともバレている……?
私は顔から火が出そうになった。この魔女はどこまで私が考えていたことの内容を知っているのだろう。返答次第では殺すかもしれない。
「それはもう、隅から隅まで……。刺激的過ぎて困りましたわ、春華。あなた、見かけによらず破廉恥ですのね……」
アンネリーゼは頬をポッと赤らめた。とても恥ずかしいことを思い出しているような表情だった。
ちょ、ちょっと待って。アンタ、ホントにどこまで知ってんの?
「は、は、は、破廉恥ですって……? さて、何のことかしら? 私にはさっぱりだわ~」
私は顔から汗がダラダラと流れ始めた。全身がカーッと熱くなっていくのを感じた。
いやいや、そんなまさか。アレまで知られたりなんて……ねぇ?
「そうですわね。たとえば……」
魔女は恥ずかしがりながら、私がしていた「ヤバい妄想」について詳細に語り始めた。
「あああああああああああああ!」
私は絶叫した。
言うな。これ以上は言うなあああああ!
プシュー、と湯気のようなものが噴き出す。もうやめてぇ。これ以上は恥ずかしずぎて死ねる……。
「まだありますわよ?」
「も、もういいから……。もうやめにしましょう。うん、ホントにホントにお願いしますこれ以上はやめてください勘弁してください」
ぐぐぐ……。恥ずかしい妄想が他人にばれてしまうなんてぇ……。
私、もうお嫁に行けないわ……。
「大丈夫ですわ、春華。わたくし、あなたのそういうところも大好きですの」
「何もフォローになってないわよ、バカー!」
私は涙を抑えきれなかった。
ひっく、ひっく……。
「いけませんわ。話が脱線してしまいましたの。本題へ戻りますわよ。春華、早く降伏するのですわ。大野美波を殺す決意を固めるのですわ」
魔女が言う。
折れる気は全くないみたいだ。
だが、それでも私は引き下がるわけにはいかない。美波と共に帰らなくてはならない。
再開するんだ。私たちのキャンパスライフを……。
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