二 後輩
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美波には同学年の女友達が二人いる。一人は城田芽依という経済学部の子である。そして、もう一人は林祐実という同じく経済学部の子だ。
二人はさっきまで、美波と一緒にコスプレをさせられていた。
美波と彼女たちは、入学前の新入生歓迎会で知り合った間柄だ。三人は同じ講義を履修するなど、行動を共にすることが多い。私や桃をはじめとする二回生グループとも、よくつるむようになっている。
コスプレ衣装から着替え終わった美波たちが戻ってきた。
彼女たちは川口さんに衣装を返す。
「また他のヤツを持ってきますぞ」
川口さんは次のコスプレ撮影会を予告するのであった。
美波たちは「もういいですよ」と乗り気ではない様子だった。かなり恥ずかしかったようだ。
撮りたい写真を撮ることができた川口さんは、上機嫌でこの場を去っていった。彼女はこれから、アニオタ仲間で結成したサークルの集まりがあるらしい。次から次へと忙しい人だ。
「お待たせしてすみません。いきなり捕まってしまったものですから……」
美波は申し訳なさそうな顔をしながら言った。
「仕方ないわ。あの人に一度捕まったら、それが最後よ。彼女から逃れることはできないわ」
私もこの前、彼女に二時間近く拘束されてしまった。アニメの話を延々と繰り返したものだ。楽しくなかったと言えば嘘になるが、かなり疲れたのは確かだ。エネルギーを吸い取られてしまったような気分になった。
「春華先輩、今日は奢ってくれるんですか?」
城田さんが言った。
「え? そうなんですか!」
林さんが目を輝かせる。
誰もそんなことは一言も言ってないはずなのだが?
「ありがとう春ちゃん!」
どさくさに紛れて桃まで私に奢ってもらおうとしてきた。
「上級生なんだから、今日はアンタも奢る立場でしょ」
「そっかぁー、えへへ」
「い、いいんですか? 春香さん」
「そうね。たまには先輩らしいこともしたいからね。遠慮する必要ないわ」
教習所へ通うためにバイト代を溜めていたが、親が半額払ってくれたので、出費は予定よりも軽くで済んだ。だからお金には少し余裕ができたのだった。
私は春休みに教習所へ通い始めた。実は今も通っている最中なのだが、仮免許は無事に取得した。もう少しで卒業検定を受けられる。自動車免許を持つ日も遠くはない。
全員揃ったところで、私たちは岸和田先輩が務めている喫茶店へ向かうことにした。
今日は抹茶ラテが飲みたい気分だ。あの店のラテ系はすごく美味しい。
「この前、ゆっこに誘われちゃったんだ。今度うちの喫茶店でバイトしてみないかって。桃は今、コンビニで働いてるんだけど、カフェの店員さんも魅力的だなぁ。どうしたらいいと思う? 春ちゃん」
「好きにすればいいじゃない。ま、私が喫茶店の店長ならアンタは採用しないけど」
「えぇ?! なんでー?!」
そんなの決まってる。こいつの見た目のせいだ。大学生には見えない幼いルックスが全てである。中学生を働かせてる怪しい店だとお客さんに勘違いされかねないからだ。
「アンタはトラブルの原因になりそうだからね。初めから雇わないのが得策よ」
私の経営方針には並々ならぬこだわりがあるのだ。一つはキモオタ入店お断り。次にイケメン大歓迎。そして、アホな女は採用しない。以上。
そうこうしている間に喫茶店に着いた。とりあえず店の中に入る。
私たちを女性店員が出迎えてくれた。私は彼女に五名で来店したことを告げる。
店員さんは私たちを店の一番奥のテーブルへ案内した。
今日は岸和田先輩はシフトに入っていないようだ。面倒くさい要因が一つ減って嬉しい。
「さ、好きなもの注文してくれていいわよ」
そう言ってテーブルに着く。
私は太っ腹な先輩を演じることにしたのだった。
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