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二 合格

感想をお待ちしております。

 ついに運命の日がやって来た。今日は合格発表の日だ。

 美波は私の部屋に来ていた。受験の結果はインターネットで観ることができるのだが、彼女は発表の瞬間を私と一緒に迎えたいと言った。


 発表の時刻は正午。多くのアクセスがあるはずなので、回線が混み合う可能性がある。だから、正午になれば即座にページを開く必要がある。

 あと三分ほどで発表である。隣にいる美波はそわそわとしている。


 私は手に汗を握っていた。これから美波の運命が決定するのだ。落ち着いていられるわけがない。


 私たちはパソコンの前で正座している。二人でパソコンの画面をじっと見つめている。

 右手にマウスを握る私。クリックの準備は完璧だ。あとは時間を待つのみ。

 カチカチと時計の音が聞こえてくる。私たちはさっきからずっと無言だった。

 

 緊張が走る。ドクドクと鼓動が聞こえてくる。

 「スー、ハー」と美波は胸に手を当てながら呼吸を整えた。

 試験の結果には自信があると言っていたが、さすがにこの瞬間ばかりは緊張するだろう。

 

「いよいよですね……」


 美波が口を開いた。

 

「ええ。大丈夫よ、きっと大丈夫……」


 私は左手で美波の右手を握る。

 その手はかすかに震えていた。

 これまで長かった。今日という日を迎えるまでに十年もかかったのだ。

 

 かつて私たちは同じ一つの存在だった。しかし、十年前の事件によって、私たちは二つの魂に分離することになった。


 一つは柊春華という別の人格となり、もう一つは大野美波の生まれ変わりになった。


 そして今年。私たちは十年の時を経て、再会を果たしたのだった。その後、大野美波は肉体を取り戻し、夢を叶えるチャンスを手にした。


 美波はあの時果たせなかった夢を今日ここで実現するのだ。

 パソコンの画面右下に表示されている時計が0時00分を示した。


 さぁ、ついに発表だ。


 私はマウスを左クリックして、合格発表のページを開いた。

 美波は受験票に書かれた受験番号と照らし合わせながら、大量の番号が表示されているパソコンの画面を見つめる。


 合格者の受験番号が一斉に表示されている。ここから探すのは少し時間がかかる。

 自分の番号が見つかれば合格だ。美波はついにキャンパスライフを手に入れる。


「あ……。ありました!」


 美波は叫んだ。

 

「あったの?」


 私もパソコンの画面をのぞき込む。

 

「ほら、これ。この番号……」

「本当ね……。間違いないわ」

「ということは……」

「ええ、合格ね。おめでとう、美波」

「春華さん!」


 美波は感動の涙を浮かべながら私に飛びついてきた。

 私はその勢いに押されて、背中から床に倒れ込んでしまった。

 美波は私の胸に顔を埋めながら泣く。


「よかったわね」


 そう言って、私は天井を見上げながら美波の頭を撫でた。

 身体を起こすと、また美波は抱き付いてくるのであった。

 私は「しょうがない子ね」と言いながら、彼女を抱きしめる。

 

「私……私……。ついにやりましたぁ」


 涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。私もつられて泣きそうになった。

 まったくもう。喜び方がオーバーなのよ。もうちょっと落ち着きなさいよね。

 

「これで一緒ですね。一緒の学校に行けるんですね」

「そうよ。電車を降りる駅も一緒よ」


 吉沢高校に通う美波とは降りる駅が違った。毎朝途中の駅まで同じ電車に乗っていた。しかし、大学が同じになるので、これからは下車駅も同じなのだ。

 

 私はベッドに腰を下ろした。興奮しすぎてしまった。いったん落ち着こう。

 すると、美波も隣に腰掛けてきた。二人で肩を寄せ合う形となった。

 

「春華さん」


 美波は私にもたれ掛かりながら言った。

 

「なぁに?」


 私は返事をする。

 

「思い出、たくさん作りましょうね」


 美波は静かに呟いた。

 

 この後私たちは、そのままベッドの上で寝た。

 寝たというのはそのままの意味であり、特に深い意味はない。緊張状態から解き放たれた私たちは、急に眠気に襲われたのだった。


 私と美波は強く抱き合ったまま眠った。お互いを抱き枕にするような感じで。

 いい匂いがした。美波の香り、私は好きだ。


 おかげで私はとても良い夢を見ることができた。

 

お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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