一 受験
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季節は過ぎ、冬を迎えた。この季節は受験シーズンである。
私も去年までは受験生だった。正確には、受験生だったということになっている。
今年は私の一年後輩の学年が受験生として頑張る年だ。そう、高校三年生である美波もまた受験生なのである。
今日は私が通うR大学の前期一般入試が行われる日である。
美波は受験会場となるR大学のキャンパスにいた。
彼女は私と同じ大学を志望しているのであった。学部ももちろん同じだ。
もし同じ大学に通うことになれば、私たちはもっと長い時間、一緒にいることができる。
十年ぶりに高校三年生をやり直すことになった美波。憧れ続けていた女子大生ライフの夢を、十年越しに実現しようとしているのだった。
私はただ彼女に「頑張ってね」と言うことしかできなかった。残念だが、それ以外のことはできないのだ。
でも私は信じている。美波はきっと合格する。春からは同じ場所で、私と共にキャンパスライフを過ごすのだ。
実力は十分だ。模試の判定も合格圏内に入っている。あとは余計なミスをしないことだ。
そろそろ試験が終わる時間だ。美波は答案をしっかり書けただろうか。
私は暖房の効いた自室に籠りながら、美波の成功を祈っていた。
大学の春休みは長い。期末試験が一月の下旬に行われ、入試が始まる二月にはもう春休みがスタートしている。そのため、講義は一切行われていないのである。
二カ月もある休みをどう過ごそうか私は悩んでいる。バイトはもちろんだが、他に何か有意義なことはできないだろうか。
アニメの消化は確定だ。今期のアニメは豊作で、観るものがたくさんあり過ぎて困る。一クールにニ十本近くもアニメを観ることになったのは、今回が初めてである。
ネットも思う存分楽しめるだろう。時間はたっぷりある。朝はゆっくり寝て、昼間はアニメとパソコン。ネットで色んなスレを巡回しながら一日を過ごすのだ。
大学生活万歳。春休み最高。自由って素敵だ。
外は寒いけど、部屋の中は温かい。ポカポカとしている部屋にいると、なんだか眠たくなってきた。
私はウトウトし始めた。そのままテーブルに突っ伏してしまった。
眠りに落ちようかとしていたその時。
スマホが鳴った。電話がかかってきたのだ。
私は驚いて飛び起きた。一気に眠気が吹き飛んでしまった。普段あまり電話がかかってこないので、たまに来る着信はいきなりでビックリする。自分のスマホって、こういう着メロだったんだ、とこの時になって知るものなのだ。
電話をかけてきたのは美波だった。
私はすぐに応答する。
「もしもし、美波?」
『あ、春華さん。試験、たった今終わりましたよ』
「どうだった? ちゃんとできた……?」
『はい、バッチリです!』
美波の声は明るかった。どうやら上手くいったみたいだ。
「そう……。じゃあ、あとは結果を待つのみね」
おそらく彼女は合格するだろう。よっぽどのことがない限り、不合格なんてないはずだ。
でも、やっぱり完全には安心できない。もしもの可能性もゼロではないからだ。
あとは祈るしかない。「合格」の二文字が返ってくることを。
こうして、美波の受験一日目は終わった。
今日がダメでも明日がある。試験は二回受けることになっているのだ。
滑り止めの大学もある。おそらくそこも楽勝だろう。だが、美波はR大学に合格しなければ意味がないのだ。
彼女の夢。それは憧れの女子大生になること。そして、楽しいキャンパスライフを過ごすことだった。
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