表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/153

十九 絶望

感想をお待ちしております。

「早く決めるのだ。このままでは埒が明かない」


 岸和田は焦り始めていた。

 タイムリミットは着実に近づいてきている。岸和田の能力が限界を通り越せば、人々の「操り人形状態」も解除される。


 美波はまだ目を覚まさない。できることならもうしばらく眠っていてほしい。この状況を目にすれば、きっと彼女は困惑してしまうだろうから。

 彼女には嫌な思いをさせたくない。陰謀に巻き込まれていることに気付いてほしくはなかった。


「もうおしまいよ。あなたと神の思い通りにはならないわ。私は何があっても屈指はしない。そろそろ諦めて」

「諦める……だと? 私はそんな次元の話をしているのではない! これは神の意志なのだ。それを妨害する輩は排除しなくてはならない。それが私の生きる道だ」


 岸和田は頑なに私の言葉を聞き入れようとはしない。なかなかしぶといものだ。

 

「その生き方が間違いだと言っているのよ。あなたが神に縛られる必要はないわ。だって一人の人間なんだから。人が神に束縛されるなんてことは、あってはならないの」


 そう、人は神のもとで平等に生きるべきなのだ。それを乱すような神は神ではない。岸和田は偽物の神によって苦しめられている。

 

「正しいか間違っているか。そんなことはどうでもいい。私は私のためにこうして生きているのだ。貴様にはわかるまい」

「あなたに一体どんな事情があるのかは知らないわ。けど、少なくとも今のあなたは幸せではないはずよ。あなたの選択は、誰も救われない。自分や大切な人を不幸にするだけ。それでも構わないというの?」


 私には理解できない。なぜ岸和田がここまでして神に従うのか。きっと彼女も心の中では、今の彼女が間違っていることを認めているはずだ。不幸な結末が見えているはずだ。

 

「貴様には関係のない話だ。私がどうなろうと、貴様にとってはどうでもいいことだろう」


 岸和田は言い放った。何もかもを捨て去るような覚悟を持っていた。

 だが、私はそんな彼女の言葉を否定するのだった。

 

「関係あるわ……」

「な、何だと……?」


 顔を引く岸和田。

 

「あなたのことは、私にも関係がある。どうでもいい話として片づけるわけにはいかないわ」

「どういう意味だ。貴様はなぜそんなことが言い切れるのだ!」

「だって、あなたは言ったじゃない。私とあなたは、桃をめぐるライバルだって」

「ぐっ……」


 何も言い返せない岸和田。

 

「それに、私は友達が不幸な目に遭うのはごめんなの。私まで嫌な気分になるから」

「友達、だと……?」

「ええ、そうよ。あなたは桃の友達でしょ? そして私も桃の友達。ってことは、あなたは私にとって友達の友達よね。私、今日気付いたのよ。友達の友達って、結局は友達なんじゃないかなって」

 

 美波、桃、前島さんは私を通じて今日初めて顔を合わせた。それまで彼女たちは、お互いに「友達の友達」という関係に過ぎなかった。でも、いざ会って話してみると、彼女たちはあっという間に仲良くなって打ち解けていたのだった。


 私は思った。その人間とどういう繋がりがあるのかは重要ではないのだ、と。大切なのは仲良くなれるかどうかなのだ。

 

「私たち、友達として何だか上手くやっていけそうな気がしませんか? 岸和田先輩」

「ん、んな……!」


 岸和田は顔を赤らめた。怒っているのか照れているのかは不明だが、そういう顔も可愛いと思う。

 

「きっと仲良くなれます」

「ふざけたことを言うでないわ!」


 ますます顔を赤くする岸和田。

 

「なんなら、今ここでしませんか……?」

「するって……何をだ……?」

「仲直り、ですよ」


 私はニヤッと笑った。

 

「馬鹿なことを言うな! 桃たんをめぐる争いはまだ終わっていないのだ。貴様と休戦協定など結ぶものか!」

「そっちじゃないですよ。今のこの状況のことです。これ、どう見ても大掛かりな喧嘩にしか見えませんって」


 大勢の人間を巻き込んだ、私と岸和田由希子の喧嘩だった。殴り合いはしていないが、それ以上の痛みを伴う喧嘩になっている。主に心が。

 もうそろそろ潮時だ。岸和田の集中力も切れてきている。これ以上、能力を維持することはできないはずだ。あと、私もそろそろ疲れてきた。


「……それはならん」


 しかし、それでも岸和田は態度を変えないのだった。

 

 もう打つ手はないのか。もう何を言ってやめさせればいいというのか。

 万策尽きた。もはや私に残された選択はない。

 

「私は神に従わねばならないのだ!」


 岸和田は右手を大きく上げた。

 

「うぐっ!」


 私は頭部を思いきり殴られた。岸和田に操られている人によって。

 そして、また首を絞められた。さっきの苦しみが再び蘇ってくる。

 なぜだ。分かり合えると思ったのに。

 

「貴様にはわからない。私の気持ちなど!」

「ぐ……! うっ……」


 苦しい。何も言い返せない。

 ダメだ。このままでは死んでしまう。

 岸和田の能力が切れる前に、私が息絶えてしまう。


 せっかくここまで粘ったのに。せっかく時間を稼いだのに。

 ここで死ねばすべてが水の泡となる。私が死んでから復活するまでの間に、岸和田は何をしでかすかわからない。彼女は何か取り返しのつかないことをやってしまうのではないか。


 ダメだ。もうダメだ……。

 失禁が始まった。もう体の感覚がなくなっている。

 このまま私は、「三度目の死」を迎えてしまうのだろうか……。

お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ