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七 契約(2)

感想をお待ちしております。

 天までやって来たものの、私はまだ生きることを諦めていなかった。もう一度復活して見せる。そう思っていた。


 山之内は私の魂を天の門の内部へ連れ込もうとしていた。しかし、私はそれを振り切り、創造の力を行使した。


 柊春華の肉体を再構築する。これが魂の新しい器となる。そして、その器に私の魂を宿すことに成功した。


 しかも今度は記憶を失わずに済んだ。新しい身体に人格をそのまま引き継ぐことができたのである。


 なぜそれが上手く行ったのかはわからない。大野美波から柊春華に転生した時は、記憶も人格も全く別のものに変わってしまったが、二度目の転生では柊春華の「基本設定」をそのまま新しい身体に組み込むことができたのだ。


 創造の能力が向上したと考えるべきだろうか。あるいはただの偶然か。どちらにせよ、ラッキーなことには変わりない。私はあっさりと生き返ることになった。


 山之内は呆れていた。そしてこう言った。「お手上げです。もう好きになさってください。私はどうなっても知りませんからね。たとえあなたが神の怒りを買うことになったとしても」と……。


 彼は神の手先である。神の力を限定的に行使できる存在だ。


 私が「創造神」の性質を持つとするならば、山之内翔平はいわゆる「預言者」という存在だった。彼は神の意思を知る権利を有している。


 かつて「真の神」を決める争いに参加していた山之内だったが、彼は惜しくも戦いに敗れてしまった。しかしその後、勝者となった神への忠誠を誓ったため、特別な権限を「真の神」より授かったのである。


 山之内は神に特別扱いされていた。彼は神のお気に入りの部下となっていた。そのため、「神のお告げ」を聞くことが許されている。


 真の神は全知全能の存在だ。「創造」も「破壊」も「改変」も「未来の決定」も自由に行うことができる。出来損ないの神である私や山之内とは違い、何でも自由自在に操ることができるのである。


 つまり、世界は真の神の意志によって動かされているのだ。


 私が死んだのも神の意志だった。なぜ私は死ななければならないのか、その理由は明かされていない。


 しかし、私は死に抗った。だからこうして今も地上にとどまっている。そんな私は神への反逆者だといえる。


 神は再び私を死へ引き戻そうとすることだろう。だが、何度私の肉体が滅びようとも、魂がある限り、私は新たな肉体を創造して生き返ってみせる。


 私は創造という「神への反逆手段」を持っている。この能力を使って生き延びるしかない。

 やがて魂が滅ぶその時まで、私は神に抗い続ける……。


 再び柊春華として蘇った私に、山之内はこんなことを言い出した。


「僕は最近退屈しています。退屈な日々の繰り返しです。何か面白いことでも起きてほしい。そう思うようになりました。そこで一つ思いついたことがあります。あなたにあなたが生き残るためのヒントを与えてみてはどうだろうか、と」

「私が生き残るためのヒント……?」

「はい。僕は神の意志を知ることができます。しぶとく生にしがみつくあなたに、神が今後どんな裁きお与えになるのか、事前に察知することができるのです。よって僕が、これからあなたに降りかかる災いについて、ヒントを差し上げようというわけです。このヒントを上手く利用すれば、あなたは神に勝つことができるかもしれませんよ」

「私が神に勝つって……あなたは一体どちらの味方なの? 私に協力するってことは、神を裏切ることになるわ。そんなことして大丈夫なの?」

「僕は神を裏切るつもりはありません。あなたに協力するわけでもありません。ただ見物を楽しみたいだけなのです。ヒントを与えられたあなたが、どのようにして神の鉄槌を退けるのか。はたまた避けられずに粉砕されてしまうのか。是非この目で見てみたいのです。僕は神に刃向い続けるあなたに関心を抱いています。あなたを見ていると、神の座をかけて奮闘していたかつての自分を思い出します。僕は密かに期待しているのですよ。神に抗い、やがて神を打倒する存在が現れることを……。しかし、この僕はただ餌をまくだけです。その餌があなたを勝利へ導くカギとなるのか、死へと誘う毒薬となるのか。それはあなた次第です」


 全くおかしな男だ。ワケがわからない。変な趣味を持っている。


「結果的に神を裏切る形になるかもしれないわよ? それでもいいの?」

「そうですねぇ。僕はあくまで神の部下です。裏切りなど許されるはずがありません。ですがもし、あなたが神に勝つことになれば、その時はその時です。それはそれで面白いのでアリだと思います」

「忠誠心とやらはどこへ行ったのかしら。あなたも神に捨てられないように気を付けるべきね」

「おっしゃる通りです」


 そう言って山之内は笑った。


 こうして、私は彼と契約を結ぶこととなった。


 神の意志について、山之内が私にヒントを与える。ただし、答えは一切言わない。ヒントを受けて私は何らかのアクションを起こす。山之内はそんな私を見て楽しむ。


 これが今から二週間前に彼と結んだ契約の内容である。

 

 さっき山之内から送られてきたメールは、ヒントであると考えられる。

 メールには「崩壊」という字があったが、これはおそらく神によってもたらされる「災い」と捉えるべきだろう。


 さて、この与えられたヒントをもとに、私は何をすればいいのだろうか。

 学園祭三日目がXデーだ。それまでに対策を練らないと……。

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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