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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第一章:夢のキャンパスライフ編
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十四 驚愕

「ごめん、少し遅くなっちゃった」

「あ、春華さん」


 金曜日の夕方。私は美波と会う約束をしていたので、待ち合わせ場所であるT駅の改札前にやってきた。彼女とは五時にここで会うことになっていたのだが、私は三分ほど遅れてしまった。


 遅れた理由はあのツインテールである。大学で桃が子供みたいにぐずっていたのだ。彼女は私を下宿先のアパートに連れ込もうとしたのだが、私がそれを拒否したためである。桃は人目も気にせずにわんわん泣き喚いたので、私はそれをあやしていた。見た目だけでなく中身まで子供なのかよ、と思ったものだ。



「では行きましょうか。私についてきてください」


 美波は私の手を引きながら歩き出した。


「電車には乗らないの?」


 彼女に引っ張られながら、私は言った。


「はい。ここから歩いてすぐの場所ですから」


 行き先はまだ教えてもらっていない。美波が私についてきてほしい場所とは一体どこなのだろうか。事前に教えてくれてもいいのではないかと思う。


 私たちは駅を出た。ロータリー付近には、バスやタクシー、迎えの車などを待つ人がたくさんいる。塾通いの小学生や、学校帰りの高校生が多かった。


 週末であるせいか、街の空気はいつもより緩んでいるように思えた。

 明かりを灯し始めた飲食店の看板や自動車のライトが夕暮れの中でポツリポツリと光っている。街はこれから夜を迎えようとしているのだった。


 私たちは人ごみの中を歩いている。駅を離れて五分ほど経った。目的地まであとどのくらいかかるだろうか。


「こっちです。この角を曲がった先です」

「え? そっちは……」


 急に暗い道に入ることとなった。人通りは少なく、電柱の街灯だけがぼんやりと光っているだけの寂しい場所だった。闇に包まれたような不気味さを感じる。


 こんな場所に何があるというのか。若い女が二人で来るような場所とは思えない。変質者に声をかけられたりでもすれば大変だ。まわりに人がいなさ過ぎて助けを求めることすらできないだろう。


「気味悪い所ね……。ホントにこの近くに美波が行きたかった場所があるの?」

「はい。ほら、もう着きましたよ。ここが春華さんと二人で訪れたかった場所です」


 そう言って、美波は前方を指差した。


 私は絶句した。頭の中が混乱しかけていた。

 ここが、目的地だというの……?

 いやいや、まさか。冗談もほどほどにしてほしい。これがギャグだとしても、ダダ滑りである。ちっとも面白くない。少しも笑えない。もうちょっと笑いの勉強をした方がいいだろう。もしこれが面白いと思っているなら、美波は笑いのツボが他人とは相当ズレている。


「ねぇ、本気なの? ここってお墓でしょ? こんなところに来て何の意味があるっていうの? あ、もしかして最近は『お墓デート』が流行りだったりするのかしら? へぇ~、墓地がデートスポットになってるなんて全然知らなかったぁ……」


 私は滅茶苦茶なことを言い始めていた。とぼけることに精一杯だった。早くこれがギャグだと言ってほしいと思っていた。


 だが、美波の顔は至って真面目そうな感じだった。何を考えているのかわからない。ふざけている様子ではないことは確かだった。


 美波はさらに歩みを進め、墓石が並ぶ土地の奥へと踏み込んでゆく。


「ちょ、ちょっと待って美波。あなたはお墓参りがしたかったの? どうして私まで連れてくる必要があるの?」


 私は美波の後を追う。墓地に足を踏み入れる。


 ここは寂れた墓だった。手入れがキチンとされていないようだ。長らく放置されているように思える。そして、夕闇に包まれた墓地は不気味さがよりいっそう増していた。


 もうすぐ日が沈んでしまう。黄昏時に墓参りなんて、肝試しもいいところだ。

 初デートが肝試しだったなんて、私は聞いていないのだけど。


「こっちです」

 

 美波は私に向かって、おいでおいでをしている。


 彼女はとある墓石の前で立ち止まっていた。そこが彼女の参りたかった墓なのだろうか。


「どうしたの? これ、一体誰のお墓なの?」

 

 墓標には『大野家之墓』と書かれている。ああ、やっぱり美波の家のお墓だったのね。


「ずっと待っていました」


 美波は言った。

 

「え……? 何を?」


 私は問う。


「私はずっと待っていました。私の代わりになってくれる人を……」

「言ってることがさっぱりわからないわ。代わりって何なの? それって私と何か関係あるの?」


 私は少しイラつき始めていた。もったいぶらずにさっさと全部、結論から先に話してほしかった。事前に行き先を告げなかったこともそうだ。どうしてもっと早く教えてくれなかったのか。じらされているような気がして、正直不愉快だった。


「春華さん。お願いがあります」


 美波は私の方へ身体を真正面に向けて言った。彼女の瞳はまっすぐと私を見ていた。

 急に改まってどうしたというのか。そうやって見つめられると、ちょっと恥ずかしいのだが。


「な、何よ……?」


 戸惑う私。

 すると、彼女はこの前の告白に続いて、再びとんでもないことを言い出すのであった。


「あなたの身体を私にください」

「……は?」


 私は目が点になった。

 私の意識は宇宙の遥か彼方へ飛び立っていくような気がした。


 ちょっと待ってほしい。

 ねぇ。それって、どういう意味なわけ……?


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