十七 裸体
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レイアさんの仲間がこちらへ向かっている。
まずは彼らを迎えるための準備が必要だ。争うことなく話し合いを進めたい。
「仲間には私の方から説明します。ここは一旦、作戦を中止するべきだと。我々はあなたを倒すよう神から指示されて人間界へ赴くことになりました。私を含む神の重臣たちはチコが殺されたと聞いて憤りを覚えましたが、あなたを恨むのは時期尚早だった。彼女の生死について、正しい情報を得ることがまず先です」
レイアさんは冷静な思考の持ち主だ。これまで私を襲撃してきた人物は神の命令に縛られ、精神状態が不安定である場合が多かった。だが、彼女は攻撃よりも事実確認を優先するのだった。
「ですが、その前にこの格好をどうにかしないと……。これでは仲間と顔を合わせることなんてできません」
濡れたパンツスーツを気にするレイアさん。
この空間で自身がどのような目に遭っていたのか、仲間に知られたくないようだ。
「楽しませていただいたお礼とお召し物を台無しにしてしまったお詫びを兼ねて、わたくしが新しいお洋服をご用意いたしますわ」
アンネリーゼは魔法を使って、レイアさんが今着ているものと同じスーツを生み出した。
「濡れたままでは不快でしょう。今からシャワールームへご案内いたしますの。わたくしがあなたの身体を隅々まで丁寧に洗って差し上げますわ……」
じゅるり、と舌なめずりをするアンネ。
「着替えとシャワーはありがたいのですが、身体は自分で洗うので結構です」
当然、レイアさんは拒否した。
「まぁまぁ、そうおっしゃらずに。昨日の敵は今日の友ですわ。仲を深めるには裸のお付き合いが一番ですの。わたくしも少々はしゃぎ過ぎてしまったので、汗を流したいと思っていたところですわ。もちろん、春華も一緒に洗いっこしますわよ」
「いや、私は別に……」
「遠慮はいりませんのよ」
魔女は指を動かし、私に向かって何か呪文のようなものを唱えた。
すると、身に付けていたはずの衣服や下着、靴までもが一瞬で消滅し、私は素っ裸になってしまった。
「ちょっ……! ええ?! どうなってるのよぉぉぉ」
私は両手で胸を隠し、慌ててしゃがみ込んだ。
「人前でいきなり全裸になるなんて……。変態なのですか、あなたは!」
レイアさんがドン引きする。
「違う! 私は何もしてないわ! 誤解だから!」
自分で裸になったのではない。着ていたものをアンネの魔法で無理矢理剥ぎ取られたのだ。
「いつ見ても美しい身体ですわね……。いつまでも眺めていたい気分ですの」
「この変態! っていうか、私の服どうしてくれるのよ! 返しなさいよ!」
「シャワーが終わればちゃんとお返ししますわ」
「ううう……。馬鹿ぁ……」
私は涙目になった。
いきなり脱がすなんて酷い。乙女なのに。
「あなたにも脱いでいただきますわよ」
「ひ、一人で脱ぎます……」
「そーれっ」
「ひゃあああああああ!」
レイアさんも私と同じく一瞬で服を剥ぎ取られてしまった。
彼女は悲鳴を上げつつ、左腕で胸元を、右手で大事な部分を隠す。
露わになったのは全身色白の肌と引き締まった身体のライン。
服を着ている状態でもスタイルの良さが十分に伝わっていたが、脱ぐとさらに凄かった。
気が付くと、拷問部屋がシャワールームに変わっていた。私たちは再び瞬間移動をしたようだ。
「なんか、すごく狭いんだけど……」
一人用の広さしかないシャワールームに三人で入っているため、非常に窮屈だった。
「ふふふ……。準備は整いましたわ」
全裸になったアンネリーゼが頬を染めながら、私とレイアさんに迫ってくる。
なんとこのシャワールーム、出入り口がどこにもないのである。
四方をタイルの壁で囲まれている。閉所恐怖症の人がここにいれば発狂すること間違いなしだ。
壁際に追いやられる私とレイアさん。
ゾクッと寒気がした。
どうか身体を洗うだけで済んでほしい。私と同じくレイアさんもそう願っているだろう。
「な、何をするつもりですか……」
脚を震わせながらレイアさんは言った。
「そんなに緊張しなくていいですわ。優しく、ゆっくり洗いますの……」
いやらしい目と手つきでアンネは笑った。
この密室から逃げることはできない。私たちには魔女の餌食になる運命が待ち受けている。
キュッとアンネがノズルを回す音が響いた。
シャワーの温水が私たちに降り注ぐ。
今日はとても暑かったので汗をかいており、すぐにシャワーを浴びたい気分だった。
しかし、こんなシャワータイムではリラックスなどできない。身の危険と戦慄を覚えるだけである。
シャワーヘッドを手にしたアンネがレイアさんを洗い始めた。
優しい眼差しを向けながら。
「お湯の温度はよろしくて?」
「あ、はい……。ちょうどいいです」
意外なことにアンネはただお湯を掛けるだけであった。
あれ? 何もしてこないの?
最初、レイアさんは少し怯えている様子だったが、次第に気を許していった。
「お次は春華の番ですの」
アンネが私にシャワーを浴びせる。
ああ、温かい。とても落ち着く。
「今度はわたくしのことも洗ってくださる?」
「……え? ああ、うん」
本当に何も起こらなかった。
警戒していた自分が馬鹿みたいである。
約束通り、私はアンネの身体を洗う。
相変わらず彼女も綺麗な身体をしている。西洋人形のような美しい外見、艶と張りのある白い肌、ブロンドの髪。
要するに最強だ。ここまで何でも揃っているなんてズルい。
私はアンネに憧れと嫉妬を感じた。
「もういいですわ。ありがとうございます」
満足したようなので、私はシャワーを止める。
汗は十分に洗い流せたようだ。
「さっぱりしましたわね」
アンネリーゼは髪を振り、水滴を払った。
「感謝します……」
レイアさんも身体が綺麗に洗えてよかったと思っている様子だ。
用は済んだ。これでやっと服を返してもらえる。
「ありがとう、アンネ。私もスッキリできたわ。ところで、服なんだけど……」
「うふふふ。油断しましたわね」
「……え?」
「まだ終わっていませんわ」
終わっていない? もう三人ともシャワーを浴びたのに?
これ以上、どうするというのだろうか。
「身体を綺麗に洗ってからが本番ですわよ」
「本番って何?」
「それはもちろん……」
嫌な予感がした。
私はレイアさんとお互いに顔を見合わせ、「もしかしてヤバい?」と目でメッセージを送った。
「たっぷり楽しめそうですわね」
「待ちなさい! そういうのは許可してないから」
抵抗する私たち。
だが、二人とも突然足に力が入らなくなり、そのままペタンと座り込んでしまった。
元々、この閉鎖空間から逃げることは不可能だったが、身体の自由まで利かなくなると、いよいよおしまいだと覚悟せざるを得ない。
「お二人には可愛い声で鳴いていただきますわ」
魔女の目が赤く光る。
私とレイアさんは蛇に睨まれた蛙のようになっていた。
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