十五 誤解
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レイアさんが仲間に入れてほしそうな目で見ていることに気づいたアンネリーゼは、彼女の両手両足から鎖を外し、こちらへと引き込むのだった。
嬉しそうな顔をするレイアさん。さっきまで泣いていた彼女の頬には涙の痕があり、魔女はそれを舌で舐め取る。それから両手で彼女の胸を鷲掴みして、激しく揉み始めた。
その間、私は放置された。レイアさんに魔女を取られて嫉妬を覚えた私は、無視するなと訴えるために二人の間へ割り込む。
魔女の右手を引っ張り、その手で私の胸を触らせる。すると、魔女は私に向かって微笑み、「仕方がない子ですわね」と呟いた。
こうして、アンネは左手でレイアさん、右手で私を弄ぶことになった。
薄暗い拷問部屋に響く私たち三人の淫らな声。
みっともないことをしていると自分でもわかっている。私はこんなに淫乱な女だったのか。でも今は気にしてなどいられない。満たされぬ欲望を満たすことの方が重要なのだ。
敵も味方も関係ない。快楽のためなら、どんな相手でも利用する。
たとえ私を束縛する魔女だとしても。私の友達をブラックホールに変えた存在だとしても……。
これは魔女の呪いだ。呪いが私の身体をおかしくさせている。だから、いやらしい気分が抜けないのである。そう思うことにしたい。
「はあっ……はあっ……」
私は思考を放棄して、アンネリーゼとレイアさんを求め続ける。
いつまでも終わりが見えない。どうすれば気が済むのかわからない。永遠にこの状態を続けていたいとすら思えてしまう。
一体どれほどの時間が過ぎただろうか。私たちは満たされぬまま体力の限界を迎えた。快楽を味わい続けたいと思ってはいるものの、さすがに疲れてしまったのである。
ここでやっと私は冷静さを取り戻した。それと同時に恥ずかしさと後悔の念がこみ上げてくる。
さっきまでのことはすべて無かったことにできないだろうか。やったのは私じゃない。私はただ操られていただけだ。すべて魔女のせいである。
「いいですわ……。二人とも、すごく破廉恥でしたわよ」
床に寝そべりながら息を乱す私とレイアさんを見て、アンネはそう言った。
改めて指摘されると、余計に恥ずかしくなってきた。
「うるさい……。私はそんなんじゃない……」
「何という屈辱。この私が魔女に……」
レイアさんも正常な精神状態に復帰していた。
魔女に拘束され、木馬攻めに遭い、電撃魔法を浴びせられた末に失禁してしまった彼女だったが、その後、あろうことか自ら魔女に凌辱される道を選んだのである。しかも、弄ばれる最中はかなり喜んでいた。
魔女の手に冒され、激しく身悶えるレイアさんの姿を見ていた私は、ますます変な気分になるのだった。
だが、これ以上はいけない。いくら何でもやり過ぎだ。このまま「儀式」を続けていたら、二度と元の自分には戻れないような気がする。
「殺してください。私にはもう耐えられません」
悔しそうな表情でレイアさんは言った。
プライドが高いようなので、生き恥を晒すくらいなら死を選ぶのだという。
スーツを身に纏った彼女は優秀なキャリアウーマンを連想させるが、その下半身はびしょ濡れだ。パンツ全体に染みができており、誰がどう見てもお漏らしをした残念な人である。
こんな格好では元いた場所には帰れないだろう。だから殺してくれというわけだ。
しかし、私は彼女のプライドを破壊しても命まで奪うつもりは毛頭ない。
「早く殺してください」
「それはできないわ」
きっぱりと断る。
「なぜですか? 『極悪非道の女王」であるあなたなら、そのくらい簡単なことでしょう』
うわ、また出たよ。極悪非道の女王!
この前、チコちゃんにも同じこと言われたんだけど……。
「その『極悪非道の女王』っていうのは何なの? 誰がそんなこと言い出したわけ?」
私に対する世間のイメージが悪くなったらどうするのよ。
美人で優しい。それが本当の私である。風評被害を招く恐れがあるので、間違った評判は広めないでほしいのだけれど。
「確かに春華は女王様ですわ。いつもわたくしの身体を縄で縛ったり、鞭で叩いたりしながら悦に浸っていますもの」
「それは言わなくていいから!」
私とアンネの「女王様プレイ」を他人の前で持ち出すのはやめなさい。
「あなたが誰に何を聞かされているのか知らないけど、私は極悪非道の女王様なんかじゃないわ。だから、絶対に誰かを殺したりはしない」
「とぼけないでください。あなたは……あなたはチコを……」
「チコちゃん? レイアさんはチコちゃんと知り合いなの?」
「くっ……! まだ白を切るつもりですか。この悪魔!」
レイアさんは憎しみを込めた目で私を睨みつける。
その瞳の奥には殺意に近いものが込められているような気がした。彼女はなぜ、ここまで私を憎んでいるのだろうか。
「ねぇ、落ち着いて。どういうことなのか説明してよ。私はついこの前、チコちゃんと会ったばかりよ」
「ふざけないでください。あなたはチコを殺した。それ以外に何があるというのですか」
「えっ……?」
殺した? 私がチコちゃんを?
レイアさんの言葉がまったく理解できなかった。
「チコを拷問して、滅茶苦茶にした。その罪を認める気すらないようですね。……なるほど、あなたは私が思っていた以上に腐っています」
「私はチコちゃんの友達よ。拷問なんて酷いことするわけないじゃない」
「友達……? よくもそんな嘘を平気な顔で言えますね。吐き気がします」
チコちゃんとの関係を説明するつもりが、余計にレイアさんを怒らせてしまった。
これはどういうことなの? 彼女は何を勘違いしているのだろう。
「先ほどからおかしなことばかりおっしゃいますわね、あなた。春華は何一つ嘘を吐いていませんわよ」
アンネが援護に回る。彼女は私とチコちゃんの関わりを間近で見ていたので、私たちの友情の「証人」になってくれるようだ。
「あなたまで柊春華の肩を持つのですね。ならば同罪です。もし今ここで術を使えたなら、チコの仇として今すぐ二人まとめて殺したい気分です」
ここはアンネが支配する領域である。そのためか、レイアさんは「術」を封じられている。よって、彼女がアンネに抵抗できずに拷問され続けていた理由はそこにあるものと思われる。
「私は本当にチコちゃんと友達になったの。拷問もしていない。お願いだから信じて」
「まだ言いますか。往生際が悪いですよ。そこまでしてとぼける理由がどこにあるのですか?」
向こうもなかなか信じてくれそうにない。
これは大きな誤解だ。私が誰かを殺めることは絶対にあり得ない。私は誰も死なせたくない。どんな悪人であっても、殺していい理由にはならないのだ。
「話になりません。もう嘘は聞きたくないので、さっさと私を殺してください。私はあなたたちを恨みます。死んだ後も呪ってみせますから」
「だから、私は本当に……」
頑固な人だ。何を言っても聞く耳を持たない。
どうすれば信じてくれるのだろう。
「ではお望み通り、あの世へ送って差し上げますわ」
痺れを切らせたアンネが言った。
再び指の先から稲妻を放出する。
魔法陣が浮かび上がる。
今度は本気だ。焼き殺すほどの電流をレイアさんにぶつけようとしている。
「ダメよ、アンネ!」
「どうしてですの? この方を生かしておく理由がどこにありまして?」
「とにかく殺すのはダメ。それに、彼女が死んじゃったらブラックホールになった美波と桃は……」
術を解除できるのはレイアさんだけなのだ。
「……ああ、それでしたら、もう気にする必要はありませんの。術の解き方を見つけましたわ。お二人はわたくしが元に戻しますの」
「そうだとしても、ダメなものはダメ」
「甘いですわよ、春華。彼女を生かしておくリスクを考えたことがありまして? 今ここで見逃せば、この方は再びちょっかいを出してきますわ。そうなると困るのは春華の方ですの」
アンネは私のためにレイアさんを始末すると言っている。
確かに彼女の言うことは正しいのかもしれない。レイアさんはリベンジの機会を伺うはずだ。その時にまた私の友人に危害を加えてくる可能性は大いにある。
だからといって、殺す必要はないんじゃないか。
他の方法で彼女の反撃を阻止することは可能だと思っている。
なぜなら、私は抑止力となりうる「秘密兵器」を手にしているのだから。
それは……。
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