十二 新手
私は謎のツインテールと同じテーブルに座りながらカレーを食べた。いつも通り美味しかったが、誰かと一緒に食事をするのは久々だったので、あまり落ち着いて食べることができなかった。
コップ一杯分の水をグイッと飲み干す私。カレーを食べた後の水は、どうしてここまで美味しく感じられるのだろう。
「美味しかったぁ。辛過ぎず甘過ぎずって感じだねー」
満足げな表情でお腹をさするツインテールのロリ。さすが万人ウケするカレーだ。食べた者は皆、虜になってしまう。
「でしょう? これ、私のおススメだから」
エネルギーも回復したことだし、午後からも頑張ることができそうだ。週末に向けてラストスパート。
……と、前置きはここまでにしておいて。
「それで、あなたは一体何がしたいの? どうして私を監視するのかしら?」
ここから取り調べを始めたいと思う。
「監視じゃないよ。見つめているだけだよ」
「たいして変わらないでしょ、それ。何で私のことばっかり見てるのか聞いてるのよ」
はっきり言って気持ちが悪い。自分が気付かないうちに、後を付けられていたのかと思うと恐ろしく感じる。ストーカーに遭うなんて初めてだ。
「春ちゃんはカレーが好きなんでしょ? だからカレーばっかり食べてるんだよね?」
「え、ええ。そうだけど?」
適当なことを言って話を逸らすつもり? そんなことはさせない。きちんと理由を言わせるわ。
「桃が春ちゃんのことばかりを見てるのも同じ理由だよ。春ちゃんのことが好きだから」
上田桃は言った。素のままだった。冗談やふざけたことを言っているようには見えなかった。
この子もまた、私のことが好きなのだった。
「好きっていうのは、どういう意味なの? ライクかラブのどっちなの?」
「両方だよ! というわけで、友達からでいいので結婚を前提にお付き合いしてほしいのっ!」
スマイル全開で答える上田桃。「というわけで」じゃないでしょ。
……こいつもホンモノだった。ほんまもんのレズや……。
溜息をつく私。どうして私は女にばかり好かれるのだろう。男はどうしたのよ? 男で私に惚れてる人はいないの?
「もし私が断ると言ったらどうするの? そもそも私はあなたと違ってレズじゃない。私は彼女じゃなくて彼氏がほしいだけだから」
「うーん、そっか。じゃあ、春ちゃんを百合に目覚めさせるしかないね。少しずつ親密な関係になっていけばいいんだよ。大丈夫、全然怖くないよ? 優しくしてあげるから。うん、ちっとも怖くないから」
もうその発想が怖いのだが。
変なのに好かれてしまった。これは美波よりもヤバそうだ。目が本気なのだ。瞳の奥がハートになっているのがわかる。
この子も普通にしていたら、とても可愛いのに。ロリコンなら大歓喜するだろうに。
私は二人の美少女から、想いを寄せられているのだった。
どうしてこうなった……。こんなのはおかしい。あり得ない。どうか私に、男との恋愛をさせてはくれまいか。
「コホン。では改めて……。春ちゃん、あなたが好きです。付き合ってください! あと結婚して!」
「無理。結婚……? 何なの? ふざけてんの?」
「ガーン! 桃ちゃんショックー!」
うっわ、何それ。冗談抜きでキモいんですけど。
付き合えるわけがないだろう。ましてや結婚なんて。こんなのが恋人とかあり得ないから。私は女と付き合う気なんて一切ないから。
「うう、せっかく春ちゃんと仲良くなれると思ったんだけどなぁ……」
上田桃はしょんぼりしている。肩を落とし、今にも泣きそうな顔をしている。
さすがにひどいことをしてしまっただろうか。もっとやんわり断るべきだったかもしれない。
私は少し心が痛んだ。ここまで落ち込まれると申し訳なく思えてきた。
「まぁ、友達くらいなら、なってあげてもいいけど……」
「ほ、本当?」
「ええ。友達なら」
こういうやり取り、ついこの前にもあったような気がする。
「わーい! 桃ちゃんハッピーハッピー、ワンダフル!」
そう言ってツインテールはぴょんぴょん跳ねた。
マジでそういうのウザい。やっぱ友達になるのもやめとこうかな……。
だが、彼女は本心から喜んでいる様子だった。私と友達になることをこんなに喜んでくれる人なんて、なかなかいない。だから悪い気はしない。
「これから桃のことは『桃たん』と呼んでほしいのー」
「嫌よ」
「しょぼーん」
効果音を口に出す人とか初めて見た。
こうして私は、新たな友人ができたのだった。