十 嗜好
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アンネリーゼは女の股下に木馬を移動させた。鎖で吊るされた彼女の身体をこのまま下ろせば、ちょうど尖った部分に股をぶつけることなるが、私はそれを想像するだけでぞわぞわとしてきた。こんなの絶対痛いに決まってる。
「ゆっくり下げていきますわよ」
天井からぶら下がった鎖が徐々に弛んでゆくと、女も降下を始めるのだった。
股が木馬の鋭角に接近していく。あと数センチのところまで迫った時、女はグッと目を閉じた。神に祈るような表情をしながら、やがて訪れる恐怖の瞬間に身構えている。
鎖はどんどん弛んでいく。そして、ついに女はその急所を木馬の背中に押し付けられるのだった。
「くっ……! ううぅ……」
額に汗を滲ませながら、痛みに耐える女。だが、股間に自らの体重が集中することで、とてつもない苦しみを味わうことになる。
「素敵な表情をされていますの……。もっと、もっと見せてくださいませ。快楽と苦痛が混ざり合った不思議な感覚を思う存分に味わうのですわ!」
「あっ……。ひぃっ!」
女の瞳にはじわりと涙が溢れ出す。歯を食いしばり、必死に声を抑えようとするが、彼女の意志に反して悲鳴のような吐息が小刻みに漏れるのだった。
私は内股になりながら、その光景を眺めていた。拷問を受けているのは自分ではないというのに、鈍い痛みが身体の内側を駆け巡るような感覚に襲われる。
痛そうだとか苦しそうだとか、そういった感想はもうとっくに薄れている。今の私はとにかくこの地獄絵図から目を背けたい一心なのであった。
しかしなぜだろう。嫌なら見なければいいはずなのに、それでも見ることをやめられないのである。苦しむ女の姿に自然と目が引き寄せられてしまうのだ。
気づけば頬が緩んでいた。呼吸は乱れ、変な笑いと汗が止まらなくなってしまった。この気持ちは何なのかしら。今まで味わったことのない高揚感がみなぎってくる。
とはいえ、魔女から虐待を受ける女の姿に興奮を覚えるなどといったサディスティックな精神が私の中で目を覚ましたわけではない。むしろその逆だ。私にはサディスティックとは反対の道が開けてしまったのだ。
――彼女が羨ましい。
――私も同じ目に遭ってみたい。
――あの木馬に跨ったら、どんな気分になるなのかしら。
そんなことを思っているのだった。
……って、何考えてるのよ私は! まるで自分が変態みたいじゃない!
どうかしていた。こんなの私ではない。
頭が完全におかしくなる寸前で我に返る。危ないところだった。
これはきっと、この空間のせいだわ。拷問器具が並んだ不気味な部屋で異様な光景を見せられているから変な思考がはたらいてしまったのよ。
こんな場所に長時間いたら本格的に気が狂ってしまう。
拷問なんて直ちにやめさせて、元の場所に帰らないと……。
「はぁ……はあ……」
女は半開きになった口の隙間から赤い舌をのぞかせている。瞳を潤ませ、紅潮した顔のまま放心状態となっていた。彼女の忍耐と理性はすでに限界を突破しているようだ。
もういいだろう。アンネリーゼも十分楽しめたはずだ。
これ以上、彼女を虐めるのは可哀想に思えてきた。
そろそろ本題に入ろう。私には彼女に聞きたいことがある。
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