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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第一章:夢のキャンパスライフ編
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十一 監視

 今日は木曜日。この日は一週間で疲れがピークに達する日である。朝から講義があり、夕方から夜にはバイトがある。一週間で最も慌ただしい一日だ。


 しかし、木曜日を乗り切れば気持ちはとても楽になる。金曜日は週末で翌日は休みなので、とてもテンションが高い。金曜日は朝から晩までノリノリだ。とはいえ、私はテンションが高いからといって馬鹿みたいに騒ぐことはしない。羽を伸ばしても羽目を外すことはない。常識と節度を守る人間なのだ。


 というかそもそも、私には一緒に騒ぐ仲間がいないのであった。ええそうですよ。私はキャンパスぼっちですよ。それが何か?


 今朝も私は美波と途中まで一緒に電車で通学した。美波は昨日に引き続き、歴史の裏エピソードを話してくれた。


 しかし、私が美波と会話していると、まわりの乗客たちが私をジロジロ見てきたのであった。昨日もそうだったけど、ホントに何なの?


 気分が悪くなる。何か言いたいことがあるなら、はっきり言ってほしいものだ。


 吉沢高校の最寄り駅に到着して電車を降りる際、彼女は「明日の夕方、よろしくお願いしますね」と言い残した。そう、私たちは明日、金曜日に「初デート」をする約束になっているのだ。


 明日はいつもよりお洒落な服を着ていくべきだろうか。いや、美波に「気合い入ってるなぁ」と思われるのは恥ずかしいので、やっぱりいつも通りでいいか。


 私は見た目が良い。顔もスタイルの抜群だ。だから大抵の服は綺麗に可愛く着こなせる。ファッションに気を使う必要性などナッシング。私は地味な服装でも派手な格好でも、十分可愛いのだ。いくらお洒落しても焼け石に水状態のブスとは違う。ほとんどの女は、私の足下にも及ばないのだ。


 鞄に付けた猫のキーホルダーが電車の弾みで揺れている。この子は昨日から私の相棒になった。

 便利なことに、質問をすればそれに答えてくれるのだ。ただし、猫が喋ることはない。メールを送って内容を伝えるのだ。また、答えられるのは現実世界に存在する情報のみだ。未来を予言する機能はない。


 そういえば、名前はまだないとこの猫は言っていた。だったら、今ここで私が名前を付けてやろう。


 一人称は何故か「吾輩」である。あの有名な文芸作品『吾輩は猫である』を連想してしまうものだ。というわけで、著者である夏目漱石にちなんで、この子には「漱石」と名付けたいと思う。


 喜びたまえ、漱石。


 ◆ ◆ ◆ ◆


 二限目の講義が終わったので、これから昼食を取りに学食へ向かいたいと思う。もちろん一緒に食事をする友達はいない。私は今日も一人で大人しく食べる。


 ふと思ったのだが、食事の時は一人で黙々と食べるのが当たり前ではないだろうか。誰かと話しながら食べると話すことに神経を使ってしまい、食べ物を味わうことができないだろう。せっかく食べても味が残らないなんて、食べ物や料理を作った人に失礼ではないか。

 だから私は正しい。一人で食事をすることは間違っていない。私以外の人間がおかしいのだ。


「さてと……。今日は木曜日だし、カレーにしようかな」


 私は週に最低でも一回はカレーライスを注文している。特に、スタミナを回復したい木曜日は必ずカレーを食べている。そして、何といっても美味しい。なんなら毎日カレーでもいい。私はカレーがとても好きなのだ。小学校の給食では、カレーは二カ月に一回くらいの割合でしか出てこなかったが、学食ならば食べたいときはいつでもカレーが食べられる。何という贅沢。自由って素敵だ。


 カウンターでカレーとサラダのセットが乗ったお盆を受け取ると、私は席を探し始めた。

 だが困ったことに、空きが見当たらない。ぼっちの私が座れる場所なんてどこにもなかった。

 もう今日は諦めるしかないか。でも、このまま立って食べるわけにもいかないし……。


 プレートを手にしたままうろたえていたその時だった。

 誰かに後ろから右肩を軽く叩かれた。

 私は振り返った。


 「ここ座って。桃が取っておいたよ」


 満面の笑みで席を差し出そうとするツインテールのロリっ子がいた。

 え? 中学生かな? なんで中学生がこんな場所に? 今日はオープンキャンパスでもあるのだろうか?


 この子とは面識がない。私に中学生の知り合いなんていない。彼女は何を思って私のために座席を確保してくれたのだろうか。まるで「あの時助けてもらったロリです」と言わんばかりの待遇だ。私は誰かに恩返しされるようなことをした覚えはないのだが。


「えっと、人違いじゃないですか……?」


 私を他の誰かと間違えているのではないだろうか。


「んもー! 人違いじゃないよ! 桃は春ちゃんのために陣取りしてたの!」


 ぷんぷん怒るツインテール。


「あなたはどなたですか? 私と会ったことありましたっけ?」

「え?!」


 ビックリした様子のロリ。そして、しょぼんとした。とても落ち込んでいる様子だ。

 何かいけないことでも言ってしまったのだろうか。


「ほ、本当に桃のこと知らないの?」

「うん、知らない」


 今日が初対面だ。こんな子は知らない。

 それにしても、後期になってからよく他人から声をかけられるものだ。前期は誰も寄ってこなかったのに。


「うー、参ったなぁ。桃は春ちゃんのこと、いつも見てるのになぁ。講義も同じヤツ出席してるのになぁ……」


 春ちゃんって私のあだ名なの?


「ごめんなさい。あなたのこと本当に知らなくて……。あなた、お名前は? 名前を聞いたら何か思い出せるかも」

上田桃うえだももだよ。経済学部の一回生。ミクロ経済学の講義で一緒の……」

「ごめん、やっぱり何も思い出せない。私、講義中は黒板しか見てないから、あなたのことは視界に入ってないと思うの」

「うえぇ! ひどいよぉ! 桃は講義中も春ちゃんのこと見てるのにぃ!」


 いや、黒板見なさいよ。講義聞きなさいよ。ってか、何で私のこと見てるのさ?


 寒気を感じた。どうして私はこの子に監視されなくてはならないのだろうか。もしかして、ストーカー? ロリっ子でストーカーとは、これまた斬新だ。なかなか面白いキャラ設定だ。

 ……などと感心している場合ではない。この子の私への執着っぷりは一体何なのだろうか。美波といい、この子といい、最近私のこと見てる女の子多くない?


「ま、いいや。今ここで春ちゃんに桃のこと認識してもらったことだし。さ、とりあえず座って座って。早く食べないとカレーが冷めちゃう」


 上田桃と名乗る少女が示す先には、二人分の空席がある。よく見ると私と同じカレーセットのお盆が、片方の席に置かれているではないか。


「もしかして……あなたもカレー食べるの? 私と?」

「うん! そうだよ。春ちゃんって、毎週木曜日はカレー食べてるよね。だから今日もカレー頼むんじゃないかなぁってことで、桃もお揃いのメニュー注文しちゃった」


 待ってほしい。なぜ私の行動パターンまで知っているんだこの子は。どこまで私のこと見てるんだ。

 どうやら本物のストーカーといっても間違いではないようだ。おまわりさんこっちです。

 

 私たちはひとまず席に着いた。

 どういうわけか、私はこのロリツインテールと一緒に昼食を取ることになった。


 座る場所を用意してくれたことには感謝するが、この犯罪者には色々と聞きたいことがある。食事が終われば取り調べの時間だ。全て吐かせてやる。


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