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一 決起

感想をお待ちしております。

 『神軍会議』が急遽開催されることになり、僕たち幹部は『神の間』に集まりました。定例の会議とは異なる今回の招集では、一体何が話し合われるのでしょうか。


 今この場にいるのは神の補佐官である僕、山之内翔平。天候の支配者・カルロス。地獄の支配者・アベル。化学の支配者・ファルコ。物理の支配者・レイア。以上、五名です。


「そういや、チコがまだ来てねぇな」


 カルロスさんが言いました。


「遅刻……か? 珍しいこともあるようだ」


 と、アベルさん。


「ほっほっほ。これは懲罰ものですなぁ」


 楽し気に笑うファルコさん。


「気が緩んでいるようですね。後で私から注意しておきます」


 ため息交じりにそう言ったのはレイアさん。


 おやおや。どうやら皆さん、まだ知らないようですね。チコさんが未だに姿を見せない理由を。


 あれは本当に残念な事件でした。とても可哀想な出来事でした。

 まさかチコさんが神に抹殺されてしまうなんて。


 僕は彼女と懇意にしていたのです。マイペースな性格の僕と温和な性格の彼女は相性がよかったのかもしれません。気づけばお互いに心を惹かれ合っていました。といっても、恋愛関係に発展することはなく、友人としてのお付き合いでしたが……。


 仲のいい僕たちは定期的に人間界で落ち合い、カフェでお茶をしながら、お互いの趣味や近況について語り合っていたのですが、もうそれができないのだと思うと悲しくて仕方がありません。


 なぜ神はチコさんを殺したのか。僕にはわかります。それは単純な理由です。ただ彼女のことが嫌いだったからです。


 気に入らない者は問答無用で殺す。それが神のやり方であり、生き様であり、信念なのです。どんな事情であれ、不愉快だと思った相手は必ず始末してしまう。よって、僕たちは神の逆鱗に触れぬよう、彼女のご機嫌を伺いながら従順に振る舞わなくてはならないのです。


 しかし、どうやら神は媚びを売るような態度で振る舞う者が一番嫌いであるらしく、これはかつて神が人間だった頃の経験が影響しているものと思われますが、とにかくぶりっ子が嫌いなのでした。そのため、ぶりっ子は神によって真っ先に殺されます。


 チコさんが殺されてしまった理由もそのためでした。ですが、僕は彼女がぶりっ子だったとは思いません。確かに彼女はいつでもどこでも可愛らしい声と愛くるしい表情で他の者たちに接していましたが、決して媚びを売ったり、気を引くためにやっていたわけではありません。あくまでそれが彼女のだったのです。


 彼女と親しかった僕はそのことをわかっていました。しかし、他者を第一印象だけで判断してしまう神はチコさんのことを理解しようとせず、結局、神は彼女を正しく知ることができないまま、あのような暴挙に出てしまったのです。


 それからしばらくして、光り輝く鏡の中から神が現れました。

 また、紫色のツインテールをした少女がいきなり何もないところから姿を見せ、かつてチコさんが座っていた席に腰を下ろしました。


 他の幹部たちは少女を見て困惑していました。この子は誰なのか。どうしてそこに座っているのか。状況が呑み込めていない模様です。


「全員揃ってるわね」


 神は円卓を囲む重臣たちを見渡してから言いました。


「……あの、神様。チコがまだ来ていないのですが、どうしたのでしょうか?」


 レイアさんが尋ねます。


「チコは殺されたわ」


 彼女の問いに対し、神は表情を変えることなく、抑揚のない声で答えました。


 その言葉を聞いた重臣たちは絶句し、動揺を見せました。

 神の間にはただならぬ空気が流れ始めています。


「殺されただって?」

「あのチコ殿が……。まさかですな」

「嘘でしょ、チコ……。そんな……」

「信じられん」


 突如知らされた仲間の死。彼らは悲しみに暮れるのでした。


 愛されキャラだったチコさん。特にレイアさんはおっちょこちょいなチコさんに苦言を呈しつつも、姉貴分のように彼女を気遣い、誰よりも可愛がっていたのでした。


「チコは……誰に殺されたのですか……?」


 涙を堪えて尋ねるレイアさん。


「柊春華よ。あの女はチコを拷問の末に殺害したの」


 嘘の事実を述べる神。

 自分がやったなどとは言わないようです。


「くっ……!」


 チコさんの壮絶な最期を想像したのか、レイアさんは唇を噛みながら怒りに震えています。


「両目をくり抜かれ、歯を抜かれ、心臓を抉り出されて死んだわ。顔は見分けがつかないほど腫れていた。きっと何度も殴られたようね」


 神はさらなる偽情報を告げるのでした。


 重臣たちに柊春華へ憎悪を向けさせること。それが神の狙いなのでしょう。


「ひでぇ……。どうしてそこまでやる必要があるんだ」

「許してはおけぬ」

「まさに鬼畜の仕業ですな」


 他の皆さんは神の言葉を疑いませんでした。


「そして、この度。亡きチコに代わり、天界の支配者となったのが彼女」

「ユーリアと申します」


 ツインテールの少女は名乗ると深々とお辞儀をしました。

 

 僕は彼女のことをよく知っていました。生前、チコさんが特に気にかけていた死神です。一番弟子ともいえるでしょう。


 実力者として死神の世界では知られているユーリアさんですが、殺害された大野美波の魂を取り逃し、柊春華の復活を招く原因を生み出した方でもあります。


 そのたった一度の失敗で出世の道を断たれたと噂されていた彼女ですが、どういうわけか天界最高の地位にまで登り詰めてしまったようですね。


「ユーリアはチコの意志を継ぎ、彼女の無念を晴らすために立ち上がったわ。そこで私はあなたたちに問いたい。柊春華をこのまま生かしておくことに納得できるかしら?」


 神が重臣たちに問いかけます。

 この流れはどう考えても神にとって都合がいいのでした。


「できません……。柊春華はこの私が必ず仕留めてみせます」

「チコの仇だ。あの娘、絶対に許さねぇぜ」

「……悪人の魂は地獄の業火で焼き尽くすのみ」

「相応の裁きを受けさせるべきですな」


 全員が神の思惑通りの反応を見せました。


 そうです。神はこの時を伺っていたのです。

 柊春華の打倒に向けて、幹部たちが一斉に立ち上がる瞬間を。


「我々神軍一同は、総力を挙げて戦う所存です」


 レイアさんが力強く宣言しました。


「これは最終決戦よ。世界の秩序を乱す悪を滅ぼす時がついに来たわ。私たちは必ず勝利する。安寧と平和を懸けた戦いに終止符を打つ!」


 神は重臣たちに向かって迫真の演技で語りかけるのでした。

 なるほど、こうやって僕たちを鼓舞するつもりのようですね。


 ああ、ついに始まってしまいます。こうなったらもう僕には止めることなんてできません。


 大変ですよ、春華さん。あなたには過酷な運命が待ち受けているみたいです。



お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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