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十三 家族

感想をお待ちしております。

 帰宅すると、リビングではアンネリーゼがソファの上で横になりながらアニメを観ていた。


 彼女はすっかりこの家の住人として馴染んでいる。テーブルの上にはジュースやお菓子、漫画が広がっており、ホームステイの身とは思えないくらいくつろいでいるのだった。


「あら、春華。ずいぶんと早いですわね。今日は夕方頃に帰ってくるはずだったのではなくて?」

「それが色々あって、映画はまた別の日に行くことになったわ」

「そうでしたのね。ところで、その死神はどなたですの?」


 アンネは一瞬で秋乃の正体を見破った。魔女の目には秋乃はどのように映っているのだろうか。


「紹介するわ。この子は秋乃っていうの。今日からこの家で私の妹として暮らすことになったから、仲良くしてあげて」

「春華に妹? 急に妹ができるなんて不思議ですわね。これは何か事情がありまして?」


 察しがいい。その通りである。


 チコちゃんは知り合いに情報操作を依頼し、世間一般では私と秋乃は姉妹という関係になっている。ただし、チコちゃんによると、その人の能力で改竄かいざんできるのは人間の記憶のみであり、魔女や死神には通用しないらしい。


「あなたのお噂は兼ねてより伺っております。闇の魔女・アンネリーゼ殿。私は死神のユーリアという者です。上司からの命令を受け、しばらくこの世界で柊秋乃として生活することになりました。よろしくお願いします」


 丁寧な口調で自己紹介をする秋乃。圧倒的な力を持つアンネに対し、彼女は相応の敬意を払うのだった。


「うふふ。また新たな恋敵が増えたのかと思いましたが、どうやらそうではないみたいですわね。おかげで安心しましたわ。もしあなたが春華の恋人候補に名乗りを上げていたら、今この場で抹殺しているところでしたの……」


 秋乃は自分の敵ではない。そう判断したアンネは友好の証として彼女に握手を求めるのだった。


「こちらこそ、よろしくお願いしますわ。ユーリアさん。いえ、秋乃さん」

「は、はい……!」


 秋乃は恐れおののきながらも、アンネの手を握り返した。

 

 魔女と死神の争いが勃発せずに済んだので、私は安堵した。秋乃を家に連れて帰るにあたって、アンネとの対立が最初の懸念事項だったからだ。


 アンネが秋乃との同居を拒んで、彼女を排除するために魔法攻撃を発動したりしないかヒヤヒヤしていたのだが、それは杞憂に終わったようだ。


 この先ずっと平穏に過ごすためにも、私が秋乃に殺されかけた話は絶対にしないでおこう。そのことをアンネが知ったら、どうなるかわからない。


「お近づきの印にあなたにはこちらを差し上げますわ」


 そう言ってアンネはテーブルの上に散らかっていたお菓子の中から、個別包装されたチョコレートを拾い上げて秋乃に渡した。


「これは……?」

「私のお気に入りのお菓子ですわ。アーモンド入りのチョコレートですの。とても美味ですので、是非あなたにも味わっていただきたいですわ」


 普段アンネリーゼは自分の好きなお菓子を独り占めして、他人には絶対に分け与えないのだが、珍しいこともあるものだ。


「い、いただきます……」


 包み紙を開いてチョコレートを口の中に放り込む秋乃。

 人間界のものを初めて食べるのだろう。少し身構えているようにも見える。


 ゆっくりと噛みしめ、慎重に味わう。

 すると、秋乃は大きく目を見開いて「美味しい……」と呟いた。


 甘いチョコレートは死神の口にも合うみたいだ。


「これは……素晴らしいですね」

「よかったですわ。では、もう一ついかが?」

「よろしいのですか?」

「遠慮はいりませんのよ。さ、あなたもこちらに座って一緒にアニメを観るのですわ。ここにはお茶とお菓子もありましてよ」


 気に入ってもらえたことが嬉しかったのか、アンネはチョコレートをもう一つ秋乃に食べさせるのだった。


 秋乃はアンネに言われるがまま彼女と並んでソファに腰掛け、テレビに映るアニメーションを不思議そうに眺めている。


 これなら二人とも仲良くやっていけそうだ。


「ただいま」


 ここで弟の春樹が帰ってきた。時刻は十二時三十分。今日の部活は昼までだったらしい。

 三年生の春樹は高校最後の大会に向けてラストスパートをかけている時期だ。


「どうした? みんな揃って珍しいな。ってか、とうとう秋乃もアニメ観るようになったのか」


 春樹は何の違和感も覚えることなく、当たり前のように秋乃がいる状況を受け入れていた。まるで自分たちはずっと昔から血の繋がった家族であるかのように。


 春樹は私の二つ下で高校三年生だ。秋乃は中学二年生なので、彼女は春樹の四つ年下の妹ということになる。


「お、お邪魔しています……」


 しかし、突然現れた春樹に驚いたのか、秋乃は客人のようなセリフを言ってしまった。

 家族に向かってその言い方はおかしいでしょ。


 幸い、春樹の耳には届いていなかったらしい。彼は気にも留めずそのまま手洗い場へと向かった。


「さっきのアレは春樹っていうの。私の弟であなたにとってはお兄さんに当たる人よ。あなたはこの家の住人なんだから、お邪魔しています、なんて言っちゃいけないんだからね。あと、春樹のことはお兄ちゃんって呼びなさい。いい?」

「はい……。わかりました」

「ふふふ。家族として馴染むにはしばらく時間がかかりそうですわね」


 まずは、うちの家族構成について理解してもらおう。私は秋乃に家族写真を見せながら母親と父親のことも紹介することにした。


 驚くことに、その写真には秋乃の姿も含まれているのだった。昨年の末に撮影された写真なのだが、こんなところまで辻褄が合うように調節されているとは……。


お読みいただきありがとうございます。

感想をお待ちしております。

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