十 設定
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ユーリアを引き取った場合、親や友人たちに彼女をどういう風に紹介すればいいのかわからない。私と彼女の関係性や彼女の社会的地位が確立されていないため、説明のしようがないのだ。
したがって、人間界におけるユーリアの肩書について、今から設定を考えなくてはならない。
アンネリーゼは私の家にホームステイ中の留学生という設定で通っているが、これはアンネが魔法で勝手に情報操作をしたことで成り立っているものだ。
では、死神も魔法か何かで情報を都合よく書き換えることができるのだろうか。
「まわりの人間がユーリアを受け入れるためには口実が必要よね。いきなり身元不明の子がやって来ても、みんな困るだけでしょ?」
「それなら心配無用なのです。私が上手く調整するのです」
「どうやって?」
「人間界で暮らしている私の知り合いにお願いするですよ。彼は架空の人物があたかも実在しているかのように人間の記憶に刷り込ませることができるのです」
え? 何それ怖い。そんなことして大丈夫なの?
そもそも、その人は何者? チコちゃんとはどういう繋がりなの?
「とりあえず、ユーリアは柊さんの妹ということにするのです」
「妹? この子が?」
「はい。それなら、あなたのご家族も気軽に接することができるのです。お家にユーリアがいても不自然ではありません」
妹か……。
ずっと欲しいと思っていたけれど、私の理想はチコちゃんみたいな妹なのよね。
すると、チコちゃんは床に伏せながら一枚の紙切れにユーリアに関する情報を書き始めた。
「さらに設定を詰めていくのです。柊さんの妹の名前は『秋乃』でいかがでしょうか。誕生日は十月二十日。秋に生まれた子なので、秋乃。可愛いでしょう?」
「いいわね。私も弟も誕生日が四月だから、名前に春っていう字が入ってるし、季節が含まれているのはちょうどいいかも」
「秋乃……。名前のことはよくわかりませんが、悪い気はしませんね」
ユーリアは新しい自分の名前に納得している様子だった。
「名前の次は性格です。秋乃はお姉ちゃんのことが大好きな甘えん坊さんなのです。夜はお姉ちゃんと一緒じゃないとおトイレにも行けないのです」
「ぷくく……。ちょっと可愛い」
「な、何を言っているのですか? 変な設定はやめてください、チコ様!」
「これもあなたが人間界に上手く溶け込むために必要なことなのです。姉妹の仲が悪いと家族の空気が重くなるのです。家族というものは人間社会における最小単位の組織なのです。家族と険悪な関係になっているようでは、他の人たちと理解を深め合うことも難しいのです」
地味に重みのある言葉でユーリアを諭すチコちゃん。この子、見た目は完全に幼女だけど、実際の年齢はいくつなのかしら。人間の世界について結構詳しく知っているみたいだし、それなりに長い人生を送っているのではないだろうか。
「年齢は十四歳。学年で言うと中学二年生なのです。学業成績トップの優等生でスポーツも万能。学校では超が付くほどの人気者なのです」
「そんな設定でいいの? さすがに出来過ぎじゃないかしら……」
あまり現実的ではない気がする。勉強も運動もできて、しかも人気まであるなんて。
完璧超人過ぎて漫画やアニメに登場する優等生キャラみたいになっている。
「いいのですよ。実際、ユーリアはとても優秀な子で死神の学校を首席で卒業しているのです。人気者かどうかは……ノーコメントなのですが……」
「余計な気遣いは不要です。ええ、そうですとも。私はどうせ嫌われ者ですから」
拗ねるユーリア。その様子から察するに、あまり他の死神からは好かれていないみたいだ。
確かにプライドとか高そうだもんね。あと、優秀であるがゆえにまわりから嫉妬されているのも大体想像が付く。
「あと喋り方! お姉ちゃんに向かって敬語なんて変なのです。これからは甘えん坊の妹らしく、もっと可愛げのある態度で接するのですよ」
「そんなところまで徹底するのですか……?」
面倒だなぁと言いたげな顔をするユーリア。
「学校では完璧な優等生なのに、家に帰るとお姉ちゃんに甘える可愛い妹に大変身! ギャップ萌えを狙っていくのです」
ふんふん! と鼻息を荒くするチコちゃん。ちょっと楽しんでるでしょ、この子。自分好みのキャラクターを作ろうとしてない?
「こんなところでしょうか。こんな感じの設定でお願いしてみるのです」
チコちゃんは目を輝かせ、ワクワクしながら紙切れに書かれた内容を読み返している。
「私、こんなの納得できません……」
「まぁ、演技だと思って割り切るしかないわね」
そういうわけで、カップラーメンでも作るような感覚で私に妹ができた。
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