三 死神
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桃を助け出すという目的は果たしたが、肝心の敵を捕まえることができていない。
犯人は桃一人だけを体育館に取り残して姿を消してしまった。
私をここまでおびき寄せたくせに、いざ乗り込むとどこかへ逃げ出すなんて卑怯である。
だが、敵がただの臆病者で尻尾を巻いて逃げたとは思えない。これは何かの罠だと考えることもできる。桃を誘拐したのは一つの作戦に過ぎず、本当の目的はもっと他のところにあるのではないか。
犯人の意図がまったくわからない。私の携帯に気味の悪いイタズラ電話をかけてきたり、桃をいたぶって挑発してきたり、とにかくやり口がしょうもない。
これまでに私を襲撃してきた神の手先たちに比べると、今回の相手は格落ちしているように感じる。特殊能力を使って脅しをかけてくる敵が多かったが、とうとう神はロクな人材を確保できなくなってしまったのか。
などと考え事をしていると、スマホの着信音が鳴った。
再びあの女から? と思って画面をみると、そこに表示されていたのは前島菜々香の名前だった。
今日、私は彼女と映画を観に行く約束だった。待ち合わせの時間ギリギリだったので、支度をしてから急いで家を出た。ところが、そんなタイミングで桃を誘拐した女から電話が入り、約束をすっぽかしてここまでやって来たわけである。
私は菜々香に詫びなければならない。
「もしもし。ごめんなさい、菜々香。実は急な用事が入って……」
『あー、春華? いつまで経っても現れないから、何かあったんじゃないかと思って心配したよ。まぁ、無事ならそれでいいんだけど』
菜々香は待たされ続けた怒りをぶつけることもせず、淡々と落ち着いた声で話している。
しかし困った。できることなら今すぐ彼女のところへ行きたいものだが、事件はまだ解決していない。あの女の居場所を突き止めて、二度と手出ししてこないように説得しなければ、安心して映画を観ることなどできない。女は再び私の友人に危害を加えてくるかもしれないのだ。
「映画のことなんだけど、また別の日じゃダメかしら? 今どうしても外せなくて……。この埋め合わせはいつか必ずするわ」
『用事があるなら仕方ないねぇ。うん、わかった。そうしよう。その代わり、埋め合わせの方に期待しちゃってもいい感じかな?』
「ホントにごめん! もちろん、お詫びなら何でもするわ」
『ふふ、何でもかぁ。考えておくよ』
ちょっと嫌な予感がしたところで電話が切れた。さすがに「何でも」は言い過ぎたかもしれない。一体どんなお願いをされることやら……。
とはいえ、菜々香の寛大さには感謝しかない。長時間も待たせた上にドタキャンまでしてしまったのに、彼女は文句一つ言ってこなかったのだ。普通ならキレてもおかしくはない。
この件が片付いたら、誠心誠意をもって彼女にお詫びをしよう。映画のチケット代は私が払うし、その後の食事も……。
「油断しましたね。柊春華さん」
謎の声が聞こえた。
あどけなさが残る少女の声だった。
驚いた私は後ろを振り返る。
「え? 桃、どうしたの?」
いや、この子は桃ではない。
桃と似た姿をした別の何かだった。
桃と同じツインテールのロリッ子。背丈も体型もそっくりだが、髪色は紫である。瞳の色はブルー。
私が知っている桃は赤い髪で茶色の瞳をしている。
目の前に立っているのは色違いの桃だった。
「桃じゃ……ない。あなた誰なの?」
「ようやく気づきましたか。私はあなたのお友達ではありません。死神です」
「し、死神?」
「ようやく二人きりになれました。柊春華さん、今からあなたの魂を頂戴します」
またわけのわからない存在が私を狙っている。
今度は死神だそうだ。
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