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私のキャンパスライフは百合展開を避けられないのか?  作者: 平井淳
第一章:夢のキャンパスライフ編
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八 贈物

「これ、ありがとうございました」


 一限目の講義が終わると、男は私が貸したシャーペンを返してきた。

 お役に立てて何よりだ。彼がどこの誰なのかは知らないけれども。

 私はシャーペンを受け取ると、筆箱の中にしまった。


「この後はどちらに行かれるのですか?」


 男が言った。


「二限目があるので、3号館に向かいますけど」


 と、私は答えた。


「普段お昼はどこで食べてますか?」


 再び男が質問してきた。


「学食です」

「そうですか。では、筆記用具を貸していただいたお礼がしたいので、今日は僕に昼食をおごらせてください」

「いえ、別にそこまでしていただかなくても……。お礼は結構ですから」


 私は断った。シャーペンを貸しただけでそこまでしてもらう必要はないと思ったからだ。

 あのくらいのことでもきちんとお礼をしたがるとは、律儀な男である。


「せめて何かあなたの役に立つことがしたい。あ、そうだ。ではあなたに良い物を差し上げましょう」


 良い物?

 果たしてそれは何なのだろうか。


 私にとって良い物とは、お金である。教習所へ通うお金が欲しい。


 しかし、この男が言う良い物とは、多分お金ではないだろう。もし仮に、彼がお金を渡してきたとしても、私はそれを受け取ることはできない。それならまだ昼食をおごってもらう方がマシだ。

 

 すると、男子学生はカバンから小さな猫のぬいぐるみを取り出した。よく見るとそれは、手のひらサイズのキーホルダーであった。


 え? 良い物ってそれ?

 ……うん、いらない。今時そんなもので喜ぶ女なんていないだろう。


「これなんですが、ただのぬいぐるみではありませんよ。こいつはとても役に立つんです。僕は二つ持ってるんで、そのうちの一つをあなたに。どうぞ受け取ってください」


 男はキーホルダーを差し出した。


「ど、どうも……。ありがとう、ございます……」


 これで彼の気が済むというのなら、遠慮せずにもらっておこう。


 私は猫のキーホルダーを鞄にぶら下げた。可愛らしい装飾品としての役割を果たしてくれることだろう。


 これまで一度も、鞄にキーホルダーや缶バッジなどのアクセサリーを付けたことはなかったが、たまにはこういうのも悪くはないと思った。愛くるしい三毛猫のぬいぐるみなら、そこまで悪目立ちはしないはずだ。

 

 それで、この猫は具体的にどう役立つのだろうか。


「何か相談事や困ったがあれば、そいつに話しかけてみてください。人生の悩み事や、今日の運勢など、何でもいいんです。きっと素晴らしい答えを出してくれますよ」

「は、はぁ。そうですか」


 話しかけると反応するおもちゃなのだろう。このぬいぐるみの中にスピーカーやマイクが内蔵されているものと思われる。最近はこういうものが流行りなのだろうか。


「ではまたの機会があればお会いしましょう。今度会った時は、その猫の活躍ぶりをお聞かせください」


 そう言って、男は教室を去った。

 私も次の講義室へ向かわなくてはならない。


 猫に話しかけると何かを答えてくれるようだが、今はまわりに人がたくさんいるのでやめておこう。ぬいぐるみと会話をする痛い女だと思われても困る。猫とのお喋りは家に帰ってからだ。


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