いつもの日常
サワムラ杯セカンドへの参加作品です。
お題:曲がり角
誤字脱字ご感想がありましたら、コメントにて言ってくださると自分が喜びます。
最後に。
やまなしおちなしいみなしのほのぼの小説です。
のんびりと、お楽しみください。
朝、差し込む朝日に目を細めながら、いつものように起きる。
ぐぐぐっと手足を伸ばして立ち上がると、そこらじゅうで寝ている兄弟達を踏まないように飛び越えながら、暖かい家から出た。
寒さに一度体を震わせてから、歩きなれた道のりを歩いていく。
兄弟達は、こんな寒い中出歩くなんて正気じゃないなんていいながら、あったかくなる昼まで寝ているが、僕は結構、この寒さも、綺麗な朝日も好きだったりする。一番は、それじゃないんだけど。
塀の上に飛び乗り、持ち前のバランス感覚で落ちないように塀の上を歩いていき、ある曲がり角で僕は座り込んだ。
もうちょっとすれば…………来た。
「ごめん!待った?」
「待ってないよ。というか、待ち合わせの約束なんかしてないでしょ」
「……もう。素っ気ないんだから。そういうところも、好きなんだけどね」
そう言って、塀の上に座る僕の頬を、ゆったりと撫でる。
その手つきに思わず気持ちよさそうな声を上げてしまうが、彼女は満足そうな微笑みを浮かべるだけだった。
ある程度僕をなでると、ふと、右手首の腕時計に目をやり、そして驚いた顔をした。
「うあっ!もう学校行かなくちゃ!遅れちゃう。じゃあね」
最後に僕を一撫でしてから、彼女は曲がり角の向こうの方へと走っていった。
それを目だけで見送り、塀の上からぴょんっと飛び降りると、彼女とは反対方向に歩いていく。
散歩のルートは、いつもと同じだ。
しばらく歩いていると、いつも見る空き地が見えた。
草が端っこに生えていて、真ん中あたりには砂利がたくさんある。歩くたびにそれを踏み、音がザリザリと鳴る。
その場所には、いつもは誰もいないのに、今日に限っては違った。
「最近、このあたりも物騒になってきたわよねー」
「そうよねー。前までは平和だったのに、あの子の散歩ルートになってから……ねぇ」
ぴーちくぱーちくと騒々しい音量で話しているおばさんたち。
確かあの二人は……よく公園でうるさく根も葉もない噂話を騒ぎ立てている筆頭じゃなかったっけ。
まさかこんなところにまできてるとは……出張ごくろうさまでーす。
僕はそっと二人の背後に忍び寄り、声をかけた。
「ねぇ、あの子って、誰のこと?」
「えっ……」
「ぎゃぁぁぁあああああ!殺人鬼!!」
そういって、腰を抜かして動かなくなるおばさんと、殺人鬼だと叫びまくるもうひとりのおばさん。
流石にうるさくて、おばさんから少し遠ざかる。
「うるっさいな……。鼓膜破れちゃうでしょ。あと、殺人鬼ってなんだよ」
「ここっ、言葉の通りでしょ!あたしの友達殺しておいて!!」
「油断したその人が悪いでしょ。……まぁ、今は殺す気とかないから、今のうちに逃げときなよ」
「……そうさせてもらうわ」
腰を抜かした人を無理やりおこして、そのおばさんは一目散にかけていった。
それを冷めた目で見ながら、空き地から出て元の散歩ルートを歩いていく。
ゆっくりのんびり歩いても、駆け足で走ってもかわらない景色を見ながら、いつもの道を歩いていく。
辺りを見ていると、少し汚れた、見慣れた塀が見えた。
その塀をよじ登り、向こう側へ降りる。
地面にきちんと足をついて着地すると、縁側にのんびりとお茶を飲みながら座っているおばあさんがいた。
おばあさんに近づくと、おばあさんは僕の顔をみた。
「あら、今日も来たの。いつも来てくれてありがとうねぇ……。ちょっと待っててね」
よいしょっと小さな声をあげながらおばあさんは立ち上がり、家の中へと入っていく。
僕はおばあさんが座っていた場所の隣に座り、おばあさんが戻ってくるのを待った。
日差しがあたって、ぽかぽかと暖かい。眠くなってきた。
暖かさにうとうとしていると、おばあさんが帰ってきた。
「はいこれ。あなた、これ好きでしょう?」
そういって差し出された煮干し。
カリカリで美味しそうな煮干しをみて、おばあさんにお礼をいいながらちまちまと僕の好物を食べていく。
その様子をみて、おばあさんは微笑ましそうに僕を見ていた。
孫である彼女と非常によくにた表情で、思わず口元が緩む。
「いつもいつも、孫と仲良くしてくれてありがとうねぇ……。昔はそんなに話さなかったんだけど、最近はあの子の方から話しかけてくれて……。いつもあの子、あなたのお話してくれるのよ」
「そうなんだ。……まぁ、こっちも構ってもらってるし。感謝しなくも……ないけどさ」
「お駄賃だと思って、遠慮しないで食べていってね」
「それは遠慮なく食べるよ。好物だし」
好物である煮干しをペロリと平らげると、僕は縁側から地面に降りた。
地面に降りた僕を見ると、おばあさんは少し寂しそうな顔をした。
「もう行っちゃうのね。また来てくれると嬉しいわ」
「うん。また来る」
おばあさんに返事をしてから、塀を再びよじ登り、向こう側へと降りてから、いつもの散歩ルートに戻った。
ある程度歩いていると、一番最初の曲がり角まで戻ってきた。
一周してきたのに気がついて、僕はボスのところへ行くことにした。
ボスっていうのは、僕が住んでいる場所の近くの路地裏を統括している、いわゆるガキ大将に近い存在だ。
昔、今までずっと相棒として過ごしてきた人と一世一代の大喧嘩をしたらしくて、左目に傷がついている。それがなんだかボスっぽいから、ボスと呼ばれているらしい。
目の傷とかあったり、口数も少ないけど、神経質な相棒さんと比べるまでもなく優しいから、結構好きだったりする。
そんなボスは、いつもの路地裏の奥の奥にいた。そこにある、ドラム缶の上に座っていた。
「ボス」
「……なんだ。……クロか」
「今日、いつも公園で騒いでる筆頭に出会ったんだけど。なんで僕の散歩ルートにいるの?そっちから追い出したの?」
「その件については、私からお話しましょう」
ドラム缶の後ろの影から、にゅっと忍者のように音もなく出てきた、ボスの相棒さん。
顔の周りにある、眼鏡のような痕をこすりながらやってきた、スラっとした体型の相棒さんは、鋭い視線で僕をみた。
「彼女たちは、いつも三人で、あなたの殺したのも含めて、三人で、姦しく話していたんですよ。その後、三人はいつもあの空き地にいました。……要するに、三人が二人になったから、その空き地へ行く時間が早まっただけのことです。自業自得ですよ。それで?殺したんですか?」
「いや、殺してないよ。あの時のおばさんを殺したのは、虫の居所が悪かっただけだし。今日は特にそんなことなかったからね」
「そうですか。別に、殺してもよかったんですがね」
そういって、ボスの隣に立つ相棒さん。やっぱり、あの瞳は少し苦手だ。
ボスに一礼してから踵を返して少し歩くと、なんだかぽよぽよしたものが見えた。
あそこに丸まってるのは……ああ、あいつか。
「よう、シロ」
「あ~!クロだぁ~おはよ~」
「……もう昼だ馬鹿」
丸まっていた体を起こし、ぐぐぐっと伸びをする白い髪の毛の太ったやつ。
こののんびり口調の馬鹿は、僕の一番の友達のシロだ。
案の定シロは、今の今まで眠っていたらしい。ここ、日差しなんて一切入ってこないのに……寒くないのか?
「今まで寝てたのか?」
「うん~そ~だよ~。暇だったから寝てたの~」
「お前、ご飯は?」
「あ、食べるの忘れてた~!」
いつも寝過ごしてご飯を食べるのを忘れてしまうシロ。
普通、こんな鈍臭いやつはすぐに死んでしまうし、生きていたとしてもガリガリに痩せているのが通常だ。
それなのにこいつがこんなに太っているのは、こいつの特技が関係してる。
「ねぇ、ご飯いっぱいあるとこ、ない?」
「毎回毎回僕に聞くんじゃなくて、自分で探せよな……。……三丁目の雑木林を抜けたとこ」
「ありがと~!クロは、なんだかんだいいつつ優しいから、大好き~!」
「うるせぇ馬鹿。さっさといけよ」
「はぁ~い」
そういって立ち上がると、のんびりした口調に似つかわしくないほどの猛スピードで、路地裏を去っていった。
……あいつの特技は、あんな体型のくせに足がとても速いことだ。
だから、あいつにロックオンされたら逃げられないし、体重もあるから、のしかかられたらその重さで逃げることができなくなる。
本当に、恵まれている。
相変わらずの姿に溜息をつきながら、今までシロが座っていた場所に座り、体温を逃がさないよう丸くなる。
直前まであいつが座っていたからか、僅かに暖かい。
足をしっかり抱え込むと、そのまま僕は目を閉じた。
***
起きると、もうすでに夜だった。
眠い目をこすってから、家に帰ろうと立ち上がろうとすると、隣に重みを感じた。
何かと見ると、僕の隣でシロが僅かに体重を預けるかのように寝ていた。
それに笑みをこぼしてから、シロの体をするりと避けて、家に向かった。
ちゃんとした寝床ではなく、硬いコンクリートの上で寝たからか、体が僅かに固いような気がする。
よくコンクリートの上で寝てるから、そろそろ慣れてきたと思ったんだけど、そんなことなかったようだ。……いや、いつもシロに付き合わされてるだけなんだけどさ。
言い訳めいたことを考えながら、家に帰る。
「「「「おかえりー!」」」」
「ただいま」
家に帰ると、兄弟達がゴロゴロしていた。
兄弟達の挨拶に返事をしてから、僕は自分の場所へと向かい、そこへ寝転がる。
ゴロンと横になると、兄弟達が群がってきた。
「ねねね、今日の散歩、どうだった!?」
「兄さん。うるさいから黙っててくれない」
「クロー!構って構ってー!!!」
「……しゃべ、ろ……?」
僕に突撃してきた兄弟達は、好奇心旺盛な長男のミズ、ドライな次男のマダラ、甘えん坊な四男のグレイに恥ずかしがり屋な末っ子のイッシキの順番に話しかけてきた。
押しつぶされるような形で床に倒れ込んだ僕は、一気に喋られて困惑しながらも、今日の出来事を話していった。
そんな僕の話を、兄弟たちは楽しそうに聞いていた。
話が終わると、少しじゃれたあと、自分たちの寝床へと向かう兄弟達。
おやすみと寝る前の挨拶をしたあと、僕も自分の寝床で丸くなる。
やっぱり、柔らかくて暖かくて、兄弟のにおいがついたこの寝床が、僕には一番だ。
いつものにおいに安心感を覚えつつ、僕はまどろみの中に吸い込まれていった。
明日も、いつもと同じ朝がきますように。
***
朝、差し込む朝日に目を細めながら、いつものように起きる。
ぐぐぐっと手足を伸ばして立ち上がると、そこらじゅうで寝ている兄弟達を踏まないように飛び越えながら、暖かい家から出た。
寒さに一度体を震わせてから、歩きなれた道のりを歩いていく。
兄弟達は、こんな寒い中出歩くなんて正気じゃないなんていいながら、あったかくなる昼まで寝ているが、僕は結構、この寒さも、綺麗な朝日も好きだったりする。一番は、それじゃないんだけど。
塀の上に飛び乗り、持ち前のバランス感覚で落ちないように塀の上を歩いていき、ある曲がり角で僕は座り込んだ。
もうちょっとすれば…………来た。
「ごめん!待った?」
その声に、僕はいつものように返事をした。
「にゃあ」
僕の、いつもの日常の、始まりだ。
……ほのぼのでしたでしょう?
以下、ネタバレ気味な人物紹介
クロ
黒猫。兄弟がいる。ツンデレ。少し前に母猫を事故で亡くし、兄弟とともに今いる場所に引っ越してきた。ボスにはお世話になってる。いつも優しくしてくれる女の子とそのおばあさんが大好き。シロは親友。
彼女
人間。高校生。猫好き。実家から遠い高校に通うために、おばあさんの家に一人で来た。今までおばあさんと距離を測りかねていたが、クロのおかげで話すようになった。
おばさん
小鳥。いつもは三羽でぴーちくぱーちく言っていた。けれど少し前に三羽のうち一羽がクロに殺されて食べられた。それ以来クロのことを殺人鬼と呼んでいる。
おばあさん
人間。彼女ちゃんの祖母。可愛い孫が引っ越してきたのはいいが、全然話せなくて困っていた。クロのおかげで話せるようになって感謝してる。いつも煮干しあげてる。
ボス
猫。左目に傷がある。路地裏を統括しているボス猫。体格に恵まれている為強いが、中身は結構優しい。だが、あまり喋らないのと顔のせいで恐れられている。一番怖いのは自分の相棒。その相棒とは、昔に大喧嘩を一度だけしたことがある。目の傷はその時に出来た。実は相棒と夫婦。
相棒
猫。ボスの相棒。神経質。目の周りに眼鏡のような模様がある。基本的にボスのフォロー役としてくっついている。唯一ボスが頭が上がらない猫。ボスと一度だけ大喧嘩したことがあるが、人間でいうただの痴話喧嘩。その喧嘩がきっかけで夫婦になったとかならないとか……。周りは二人が夫婦なのはまったく気づいてない。
シロ
猫。のんびりな性格の太った白猫。足が速い。寝るのが好きで、いつでもどこでも何時間でも寝てる。痩せればたぶんモテるが、痩せない為モテる予定は今のところない。クロの親友で、なんだかんだいいながら優しいクロが大好き。
兄弟達
猫。クロの兄弟達。上からミズ、マダラ、グレイ、イッシキ。三番目はクロ。好奇心旺盛で、水玉模様の長男ミズ。周りのことにドライで、結構毒舌家な斑模様の次男マダラ。極度の甘えん坊で構ってちゃんな、灰色の四男グレイ。恥ずかしがり屋で口下手な、一色だけの末っ子イッシキ。そしてツンデレでちょっと弄れてるけど優しい、黒猫の三男クロの五兄弟。クロ以外は、基本的にお昼まで惰眠を貪っている。