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ワナビクラスタ

「ねえ、ワナビクラスタって何?」


「風呂上がりのまったりタイムに乗り込んできて、何を言っているのですか」


 今からコーヒー牛乳を飲みながら動画を観るという至高の時間を邪魔するだけじゃなく、また答えにくいことを……。


「昨日さ、眠れなくてネットで、なうろうに関する情報漁っていたら、その話題で盛り上がっていたのよ」


 何やってんだ神候補。

 ああ、そういや、昨日巨大掲示板で話題になっていたらしいな。(この物語はフィクションであり実際の話とは無関係です)


「心の声で……フォローをっ!」


「んー、では軽く説明しましょうか。まずワナビって何の事かわかります?」


「一昔前の外国のアイドル……」


「違いますし、最近の若い子は知りませんよ。ワナビというのは小説家志望の人を指します」


「あー、そうなんだ。最近、ネットで見かけてはいたんだけど深く考えずに読み飛ばしていたわ」


 俺も当初の頃はあまり気にしていなかったのだが、あまりに多く見かけるから一度調べておいたんだよな。


「じゃあ、クラスタは?」


「これもネット情報の受け売りですが、そもそもは『房』や『集まり』という意味だそうです。それが転じてネット用語として『似た趣味を持つグループ』『ファン』というのが定着しているようです」


「つまり、小説家志望の集まり?」


「そうですね」


「……何が問題なの?」


 これだけだったら、何も悪くないように思えるよな。

 実際、加入している人も悪いとは思っていない人と、わかっていて知らない振りをしているかのどちらかだと思う。


「今回話題になったワナビクラスタというのは、小説家になうろうに投稿している小説家志望の人たちの集まりです。ラインで繋がっているグループのようですね」


「あら、それっていいわね。私も一投稿者として小説についての談義をしてみたかったのよ」


「まあ、実際そういった集まりは多いようですよ。小説を書く者としては、同じ作者目線でのアドバイスや愚痴を聞いてもらいたいこともあるでしょうし」


「うんうん、わかるわー。私も実はこうやって、貴方となうろうについて話せるの、嬉しいしさ」


 ちょっと照れたように言われたら、心がざわつくじゃないか。見た目だけはいいだけに、破壊力が半端ない。


「あ、私もそうですよ。えっと、話を戻しますね。今回の問題点はそのグループ内でポイントのやり取りがあるんじゃないか? と、皆が疑っているところです」


「……え? ま、まあ、新作上げたら仲間ならブクマ入れたり、評価したりするんじゃないの? それが、当たり前の常識と言うかマナーみたいなモノよね」


「そうですね。知り合いが頑張っていたら応援してあげたくなる。ブクマ入れたり評価を入れて陰ながら応援したくなる。それが人情ってものでしょう……ただ、問題なのはそのグループの規模なのです」


「ってことは結構人数が集まっているって事よね。あ、わかった! ほら前にポイントを取る方法でも触れていたけど10人ぐらいいるんでしょ。そしたら、全員にポイントを貰えば100以上貰えて、上手くいけば日刊ランキングの100位ぐらいに入れ――」


「120人です」


「……ふぁっ!?」


 顎が落ちそうなぐらいに大口を開けて驚いている。美人が台無しな顔芸だな。リアクション芸人も真っ青だ。

 驚くのも無理はないと思う。俺もそれを知った時に思わず「おいおい」とリアルで声が出たから。


「えっと、そこでお互いにポイントのやり取りを推奨しているってこと?」


「いえいえ、管理人さんがそれは禁止しているそうです。お互いの宣伝やグループ内での作品を読み合うというのは容認しているそうですが」


「ああ、なーんだ。それじゃあ、安心よ……な、わけないわよね」


「そうなのですよね。これはあくまで、個人的な意見なのですが、グループ内で誰かが新作を投稿したとしましょう。貴方がグループの人間ならどうしますか?」


「そんなに親しくない人ならざっと読んでみる程度かしら。面白かったらそりゃ、ポイント入れるけど、面白くなかったら別に何もしないわね」


「うんうん、それが普通の反応ですよね。でもね、なうろうって評価やブクマを入れると誰が入れてくれたのか調べることが可能なのですよ。だとしたら、自分の作品に高評価を入れてブクマもしてくれているグループのメンバーがいる。名前も知っている人だとしたら、お礼に相手にもポイント入れようと思いません?」


「思わない……とは言えないわね」


「それに加え、評価ポイントの数値もわかるのですよ。1:1を入れてくれた人の作品が面白かったとしても5:5を付ける気になります?」


「……ならないわね。だとしたら、自分が評価する相手には全て――」


「5:5をつけてしまうでしょうね。その方が自分への見返りが大きいですから」


 俺の答えを聞いた途端、天聖子さんの眉根が寄り、渋面になった。

 事の重大性が理解できたみたいだ。


「総合評価を推奨していなくても、効果があるのは一目瞭然です。そんなことは考えてなかったと関係者は言うでしょうけど、少しでも理解力がある人ならわかっている筈ですよ。まあ、私が当事者なら気づいてない振りをして利用して、追及されたらしらばっくれますが」


「さすがに全員がそう言う人じゃないと思いたいから、半分が同じ考えをしているとしたら……60×一人で与えることが出来る最大ポイント12で……720ポイントか日刊ランキングに入れるわね」


「20位以内目指せるぐらいのポイントですから。まあ、これを責めたとしても関係者は、『もしそうだとしても、その程度のポイントじゃ数万ポイントに届かないのだから関係ない。実力のない人の嫉妬』とか言いそうですが」


「あ、でも、ランキングに入って人の目に触れるのが重要って、前の話題にも出ていたよね?」


「その通りです。日刊ランキングに入っていてポイントもそれなりに入っている作品と、日刊ランキング外の作品とでは、読者の数に雲泥の差があります。これが効果ないなら、複数アカウントの違法行為する人なんていなくなりますよ」


 実際、書籍化に辿り着いた人でも違法行為でアカウントを消された人もいるぐらいだ。ランキングに載ることがどれだけの宣伝効果があるか、理解できるだろうに。


「何と言うか、悲しくなるわね。これってさ……そんなグループに入らないで真面目に作品の内容のみで勝負している作者からしてみれば――」


「私の個人的な意見ですが……正直、腸が煮えくり返りそうになるぐらい、腹立たしい行為ですよ」


「でも、なうろうでは違反行為ではないのよね」


「ええ、違反じゃないと思います。世の中なんて上手くやった者が勝ちですからね。正直、腹立たしさと同時に、良くできたシステムだなと感心もしました」


 実際の話、別に違法じゃない。ここまでの話もただの憶測だし、実際は規律のしっかりした凄く真面目なグループの可能性だってあるわけだ。メンバーは全員、絶対に同じグループ内の作品には評価を入れないという厳しい規律があるの……かもしれない。


「これで処罰も何もないなら、こういうグループ増えて日刊ランキングが更にカオスな状態になりそう」


「既になっていますよ。それに、ここは120人もいるから目立っただけですが、10人規模の集まりならそれこそ、幾つも存在しているようです。それすら違法だとしたら、なうろう作家は何百人ぐらい消えるのでしょうか」


 作者の殆どは何だかんだ言ってもポイントを欲している。俺もポイントは欲しいし、やっぱりランキング一位を目指したい。その為に努力をするのは当たり前だと思う。題名の変更を考えたり、こうやって考察をしたりしているぐらいだから。

 だから、ポイント重視の考えをする人に対しては同意もできる。だけど、この一件に関しては正直どうかと思う。


 悪気云々ではなく、グループに加入している人で、ここで述べたような効果を頭の隅ですら考えなかった人が本当にいるのだろうか。もしいたとしたら、この世界では信じられないぐらい純粋な心の持ち主か、単純に仲間が欲しかった人だろう。


「これを知ったら日刊ランキングに唐突に現れた、文字数が少ない作品全てを疑いそうになるわね」


「まあ、他作品が人気のあった作者さんの新作は固定のファンがいますから、一概には言えませんし、タイトルとあらすじで目を引いた作品も普通にありますよ」


「はあああぁぁ……何か気分が滅入るわね。あ、まさか……貴方もそういうグループに入っているんじゃ」


 人を指差しながら、犯罪者を見るような目で見つめるんじゃありません。


「ないですよ。これに関しては断言できますし、証拠もあります」


「え、そうなの? でも証拠って何よ」


「今回の一件はラインでの繋がりですよね。私の携帯――ガラケーですよ」


「……未だに?」


「携帯なんて、メールと電話と写真が撮れればいいんです! パソコンは小説を打って、ネットを見るだけの機械です!」


「機械音痴なの?」


 人を憐れむような目で見るのはやめてください。

 物語は面白さで評価してほしい。本当にそれに尽きる。自分の作品を好んでくれる読者でも、面白くないと思った作品には容赦なく切り捨ててもらって構わない……あ、いや、できれば見捨てて欲しくはないが。

 この問題になった繋がりも当初は、本当に仲間内でなうろうについての話をしたかっただけなのかもしれない。規模が大きくなりすぎて管理人が統制できなくなった可能性だってあるだろう。

 だとしても、この一件は氷山の一角なのだろうなと、冷めた気持ちで大きくため息を吐いた。


この物語はフィクションであり実際の……どうでしょうか。

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