題名と検証
「今日も来てあげたわよー。今日のご飯はなんでーすかー」
チキン南蛮を作り終えて、二人分食卓に並べたところで対面に置かれた座布団に天聖子さんが座っていた。
最近、夕ご飯を生贄に天聖子さんを召喚しているような気がしてきている。
「いらっしゃい、天聖子さん。お待ちしていましたよ」
「え、何で歓迎ムードなの。いつも嫌そうにしているのに……はっ、まさか私に惚れたのね! 駄目よ、私が魅力的なのはわかるけど、貴方は人間、私は神見習い。決して結ばれない定めなのよっ」
「あ、そういうのどうでもいいです。今日は私から話したいことがあるのですよ」
「えー、もうちょっと話盛り上げようよー。って、珍しいわね、そっちから話題を振るなんて」
「まあ、そうですかね。最近、新作を上げたのをご存知ですか?」
「あっ、ええと無駄に漢字が多くて長ったらしい題名のやつよね!」
嬉しそうに罵倒してくれるな……否定したいけど、あながち間違っていないのがイラッとする。
「その作品のポイントが伸び悩んでいまして、色々と問題点を抜き出してみましたので、ご意見を聞かせてもらえませんか?」
「私のアドバイスが必要なのね。何々、何でも聞いていいわよ」
いつも相談する側だったので、頼られるのが嬉しいのかな。
無邪気な笑みにちょっとだけ、ドキッとしてしまったのが悔しい。
「今作は意欲作で色々と新しい試みをしてみたのです。まず、死に戻りをする話なのですが、死ぬ度に話を区切る方式にしました。一回死ぬまでを一話として投稿して、巻き戻ってから次に死ぬまでを次の二話として上げるという」
「あー、見た見た。文字数が少なくて物足りなく感じていたけど、そんな意図があったんだ」
「ええ。死ぬ度に次の話に移ることにより、絶望感を演出できないかと。あとは、徐々に文字数が多くなるので強くなっているのが、読者にも、よりリアルに実感できるのではないかと考えた――のですが」
さっきの天聖子さんと同じコメントを貰ったんだよな。
なうろうのシステムを活用した投稿をしてみたのだけど、思いのほか不評だった。やっぱり、一話が1000文字にも満たないと手抜きをしている様に感じられるようだ。
初めの話は1~6話ぐらいまでは、まとめた方がよかったかもしれない。
「あと、序盤はずっと主人公が一人で物語が進むのも狙ってやっていました。読者の方々は一週間の間、一つの作品だけを追っている訳じゃないですよね。少なくとも5作品ぐらいは目を通しているのではないかと考えています」
「あー、毎日更新しているのは6作品で、週に二回ぐらいのは3作品ぐらい読んでいるわ」
「でしょ。それだけ追っているとキャラが多い作品とか、名前を忘れたり混乱することもありますよね。実際私がそうですから。なので、主人公が一人で進む作品は気軽に読めるかと思った訳です」
隙間産業というか、なうろう読者の需要を考えた筈なのだが……。
「へー、そんな考えがあったんだ。そういや、序盤しか読んでなかったんだけどさ、主人公どこら辺まで一人なの?」
「ええと、10万文字を過ぎたぐらいで動物が一匹仲間に……」
「はああぁ!? 10万文字って小説一冊分ぐらいの文章量よね! 一冊ずっと一人しか出ない小説なんて酷すぎない。それも動物って。他の人間が出てくるのは?」
「15万文字を超えた頃ですかね……」
何だろう。別に悪いことをしたわけでもないのに、天聖子さんの目を見られない。ちらっと視線を向けると、鼻の穴を膨らませて呆れている顔があった。
「私が言うのも何だけどさ、ポイントの取り方とか説明していたのに、何で自ら否定するような作品を書くのよ」
ぐおっ、今の一言は心に深く突き刺さった。
今までのポイントを取る方法を殆ど活かしていないのは仰る通りだ。ぐうの音も出ない。
「何と言うか、あえてテンプレや定番を避けて、独自の道を突き進んでみたかったのですよ。流行に逆らい実力だけで何処までいけるのか」
「その結果、こうなったわけだ」
言い返せない!
「で、私は今更ですが、ポイントを増やす方法を考えようと思った訳です。真っ先に思いついたのは題名ですね」
「ああ、漢字が多くて、内容が今一わかりづらいというか……ハッキリ言っちゃうと、なうろうで受けなそうな題名よね!」
天聖子さんの一言が俺の急所を抉った!
「そ、そうですね。そこで私も考えました。ランキングで良く見かける題名の共通点や特徴は何なのかと」
「あ、それは私も気になる。題名考えるのってかなり悩むのよねー」
作者なら誰しもが悩むポイントだ。決めるまでに一週間以上かかる人も少なくないらしい。
「でも傾向とかあるの?」
「それがあるのですよ。まず題名に入れるキーワードの存在です。今から上げる単語は必ずと言っていいほど、ファンタジー系の題名に含まれていますよ。転生、転移、異世界、無双、チート、ハーレム、ファンタジー特有の職業名、魔王、魔法、魔術、魔物の名前、と言った感じですね」
「あーーー、確かに。有名どころの作品で良く見かけるわ。あ、新作ってどれも入ってない」
「当てはまらない題名の場合は、題名を見ただけで内容がわかるような場合や、例えるなら……○○で〇〇する。とかですかね。あとは、あらすじを読めば五話ぐらい読まなくても内容が理解できる、といった感じです」
自分としては含みを持たせたあらすじが好きなのだが、題名とあらすじだけで読むかどうかを判断する人も多い。投稿作品が多いので、五話ぐらいまで目を通す手間を省くために、あらすじでキャラ設定や内容に詳しく触れている方が好まれる傾向がある。
「なるほどねー、作者ってみんな結構考えて題名やあらすじ考えているのね。勉強になるわー」
「私としては今作のような無骨というか、中二心をそそられる題名大好きなのですが……需要と供給を考慮して、題名を変えたらポイントも伸びると思うのです!」
「ポイント伸びないのは、単純に内容が面白くな――」
「あとはやはり、何やかんや言ってもヒロインポジションのキャラがいないと、読む気が起こらない人も多いようです!」
「ねえ、それよりも内容が面白く――」
天聖子さんが何か言おうとしている気がしなくもないけど、たぶん幻聴だ。
「序盤にヒロインがいないのは、もうどうしようもありません。ということで、題名を変更しようと思っています。私は今の題名を気に入っているので、苦渋の決断なのですがっ」
「そんなに渋い顔するなら、変更しなければいいのに」
「いえ、これは自分自身の為だけにやっているのではないのです。本当に題名を変更するだけで、ポイントに変化があるのかという試み。読者には私と同じように投稿している作者さんもいらっしゃいます。そういった人の参考に少しでもなればいいと思っています。自ら批判を受ける覚悟で題名変更を行い、結果ポイントに変化もなく恥をかくだけに終わったとしても……皆さんの力になれば、こんなに嬉しいことはありませんから」
穏やかな笑顔をイメージして、優しい瞳で天聖子さんを見つめる。
あ、半眼でこっち見ているな。俺の言葉を全く信用していない顔だ。
「本音は?」
「先生、ポイント伸びて欲しいっす……」
小説家になるのが目的の場所に投稿しているのだから、そりゃポイントが伸びてあわよくば書籍化という流れを夢見て当然だと思う。
その為には、まずは多くの人に興味を持ってもらわなければならない。内容云々を問う前に題名で注目を浴びることが先決なのだ。何もせずに諦めるより、試行錯誤を繰り返し足掻いてみせる。
「でも、結局題名どうするのよ。読者が求める題名って結局何にする気?」
「そこは完璧な策を考えつきました。読者の目につく題名を考えるのが大事なわけです。ここまではいいですよね」
「そ、そうね。まあ、それがわかれば苦労はしないって話だと思うけど」
「ええ、キーワードや傾向はある程度は予想できますが、確実性はありません。そこで私は考えました。ある秘策を!」
「な、なんなの、この自信はっ!」
ふふふ、聞いて驚くがいい。俺の立てた完璧な作戦を!
「第二回、読者参加型企画。貴方の考えた題名に変更しますプロジェクトを開始します!」
「まさかの丸投げっ!? ねえ、ここの話って建前上、作者とは関係のない――」
「現在連載中の『終わらない輪廻を超えて 死の遊戯を制覇しろ』の新たな題名を募集します。参加条件は最新話まで読んでもらってから、作品に相応しく、小説家になろうで受けそうな題名であることです」
「ちょっと、ねえってば! この作中では、小説家になろうじゃなくて、『なうろう』って設定に――」
「応募していただいた題名での中から、独断と偏見で三作品を選ばしてもらった後に、読者の皆さんに投票してもらうシステムにしようかと思っています」
「ねえ、一応、二人きりで室内で会話する作品なんだけど、誰に話して――」
「応募期間は投票数にもよりますが締め切りは一、二週間後を予定しています。あまりポイントが伸びない場合は題名を元に戻しますので、ご了承ください。思いついた題名は感想欄にお願いします。題名を『』で囲ってもらえると、わかりやすいです」
「もう、いいわ……」
何故か天聖子さんが疲れ切っているけど、まあ、どうでもいいか。
実際、前から題名の影響力には興味があったから、正直、丁度いい機会なんだよな。
自分の作品なんだから、自分でちゃんと考えろよ。という意見もあると思う、というか俺が読者ならそう思う。
だが、漫画や小説のプロになると題名というのは、編集と作家がお互いに意見を出し合って決めるそうだ。一方的な思考だけでは発想が偏ってしまうのを避けるために、必要なことなのだろう。
なので、柔軟な発想を得るためにあえて、今回はこの手法を取らせてもらおうと思う。
決して、前回の読者参加型企画が結構好評だったから、二匹目のどじょうを狙ったわけじゃない。
あわよくば、これが話題になりポイントを増やそうなんて目論見はない。
そう、純粋に題名を変更することによる検証が目的であり――
「言い訳が長いわよ」
「思考を読まれた!?」
「口に出していたわよ」
なん、だと。
「さて、冗談はともかく、題名の変更というのはよくある話なのですよ。例えばドラマになった小説の題名が、テレビだと全く違うとか」
「そうなの?」
「そうですよ。ほら、〇倍返しだ! って名台詞で有名なドラマありましたよね。番組名覚えていますか?」
「主人公の名前が、そのままタイトルになっていたわよね」
「あれ、原作である小説の題名は、オレたちバブル〇〇〇ですよ」
「えっ、嘘でしょ」
「本当です。どっちのほうが面白そうかというのは人それぞれだとは思いますので、私の意見は避けますが」
そこを詳しく書くと色々怒られそうな気がする。
「あとは、映画の題名ですかね。洋画が日本で放映される際に邦題がつくのはご存じですよね」
「まあ、そりゃね。日本語の題名がついている洋画は誰が見てもそうだろうし」
「有名なところで、古い作品だとローマの休日や風と共に去りぬ。少し新しくなると、天使にラブソングを、とかでしょうか。直訳の場合と原型を留めていない題名もあって、調べると結構面白かったりします」
「へーそうなんだ。私は邦題も嫌いじゃないけど、そのまま英語の題名も好きよ。往年の名作、スタンドバイミーとか」
「あれ、小説の題名は『THEBODY』で死体って意味ですよ」
「マジで……」
これは結構有名な話なのだが、知らなかったみたいだな。
今の例からもわかるように、題名というのは非常に重要なポイントなのだ。
「まあ、そういうことで作品の題名を変更するというのは、忌避される行為でもないということです」
「何か自分に言い聞かせてない?」
「気のせいです。ということで、もう一度告知します。今作『終わらない輪廻を超えて 死の遊戯を制覇しろ』の新たな題名を大募集します。条件はさっきも書きましたが、作品を最新話まで目を通した上で、小説家になろうで人気の出そうな、多くの読者が食いつきそうな題名でお願いします。締め切りは2週間前後になると思いますので、気を付けてください。
題名は『』で囲って、感想に記入願います」
これで告知は終わりかな。あれ、何で天聖子さんは小首を傾げているのだろう。文句が言いたいといった感じじゃなくて、何かを考え込んでいるみたいだ。
「どうしました、天聖子さん。何か問題でも?」
「ねえ、全然題名が集まらなかったり、題名を決める間に、もしポイントが急増したらどうするの?」
「……あっ」
作者の気持ちになって題名を悩んでみるのも楽しいですよ。奮ってのご参加お待ちしています。
もし、題名変更が行われない場合でも、結果発表は必ずやりますので。
応募企画は終了いたしました。
皆様、ありがとうございました。