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ランキングと主人公

「ねえ……ハグモグ……主人公ってどんな人が適任だと……くちゃくちゃ……おもひゅ?」


 現代風日本人形にスーツを着せたような美しい女性なのだが、頬いっぱいにご飯を詰め込んでいる姿が全てを台無しにしている。

 あと、ちゃんと飲み込んでから話なさい。


「なぜ、飯時をピンポイントで狙ってくるのですか、毎回」


「そんなこと言いながら、こんな綺麗な女性と一緒にご飯を食べられて本当は嬉しいくせに、このこのぉ」


 イラッとする笑みを浮かべて、座卓に身を乗り出し肩口を拳でぐりぐりするのを、やめい。


「まあ、それはもう諦めるとして、今度は主人公論ですか」


「論というか単純に、どういった人間を転生させた方がうけるのかなーと思って」


「ご馳走様でした。ちょっと待ってください。流しに食器運びますから」


 食べ終えた食器を運び、水を溜めたボールの中に沈めておく。本当はこのまま洗いたいところだけど、今は会話を優先しないと。

 自分のスペースが空いたので、そこに愛用のノートパソコンを設置して立ち上げる。


「その疑問は以前抱いたことがあったので、調べたデータが確か……あったあった」


 なうろうで受ける作品の主人公には法則があるのか。

 それが気になって調べたことがあった。ちゃんと消さずに残していたようだ。偉いぞ俺。


「ええと、日間は魔境なのでそれは省くとして、ここ一年の流行を調べる為に取り敢えず週刊、年間のランキング10位までの主人公たちがどのような設定なのかを簡単にですが抜き出してみました。ざっと数ページしか読んでいませんので、間違っている場合もありますので、そこはご容赦ください」


「へええ、ちゃんとそういうの考察したりしているのね、感心感心」


 何で上から目線なのだろうか。まあ、いいけど。

 あと、そのお徳用プリン何処から出してきた。まさかとは思うが、俺が隠していたとっておきのプリンじゃないだろうな。


「まず、週刊です。

10位 男性 魚屋 年齢不詳おそらく20代 スライム転生

 9位 男性 高校生 二度目の転生

 8位 女性 年齢職業不詳 乙女ゲームの世界に転生

 7位 男性 陸上自衛隊 45歳 15歳の少年に転生

 6位 女性 OL? 20代? VRMMO 特殊なエルフ

 5位 男性 イケメンエリート営業マン 29歳 デブでブスな少女に転生

 4位 男性 職業不明 30歳 剣に転生

 3位 男性 中学生 13歳 二度目の転生

 2位 女性 高校生 VRMMOに似た異世界で猫獣人

 1位 女性 高校生 17歳 VRMMO 鳥族(天使のような外見)となっています」


「性別は結構バランスいいわね。もっと男性主体になるかと思っていたけど」


「最近は女性の作者と読者が増えていますよ。少し前だともっと悪役令嬢や乙女ゲー系がランキングに入っていましたから」


 今週はむしろ、定番のなうろうっぽいランキングかもしれない。


「あれ、VRMMOが盛り返しているのかしら」


「うーん、そうですね。普通の転生物も結局はゲームのようなステータスやスキル設定があるので、読者層は同じなのでしょう。VRMMOの世界と転生の世界設定が殆ど一緒なのも結構ありますよ」


 転生の皮を被っているだけで、中身はVRMMOのシステムなんて作品は腐るほど存在する。俺もその類いの作品を書いたことあるしな。


「年齢はやっぱり学生が人気で20代も多いのね。45歳が異彩を放っているけど」


「まあ、その作品も転生先が学生でしたから、結局は学生を対象とするといいのかもしれません」


「こうやって簡潔に抜き出すと、結構被っているわね設定……」


「これはもう、なうろうの定番というか、持ち味みたいなものですからね。今回は見事に転移がないのに驚きましたが」


 基本的に転移より転生が人気なのは知っていたが、こうやって改めて確認すると勉強になる。もっとも転生と転移の垣根が曖昧な作品も見受けられたから、何とも言えないけど。


「そういや、VRMMOって転移みたいなものじゃないの?」


「いえ、寧ろ転生寄りじゃないでしょうか。姿形が変わって新たな能力を得る。この展開は転生と同じですし」


 見た目を変えない場合は転移寄り。見た目が変わる場合は転生に近い。と考えている。普通の転移、転生とVRMMOの違いは、その他大勢の日本人がその世界に入り込んでいるかどうかだと思う。

 例外として独りだけ送られるパターンも結構あるので注意は必要だが。


「他に気になるところは……これって全部読んだの?」


「ざっと目を通しただけですよ。幾つかは気に入ったので最新話まで読みましたが」


「じゃあ、貴方が気になったところって何かあった?」


 また難しい質問をしてくれる。気になったところか……。

 それと疑問を口にしてくれるのはいいのだけど、食べ終わった食器ぐらい流しに運んで欲しいな。


「序盤の展開がほぼ一緒なのが何作かありましたね。あとは復讐系も根強い人気かなといったところでしょうか」


「ふむふむ。なるほどなるほど」


 胸元から手帳を取り出してメモを取っている振りをしているが、あれ形だけで書き込んでないよな。

 それに、そんな短いスカートで胡坐をかいているから、何度かパンツが見えそうになっている。これは注意した方がいいのか、役得だと黙っておくべきか。


「では、次に年間ランキングを見てみましょうか」


「はい、お願いします!」


 今回の話題は興味津々みたいだ。いつもよりテンションが高い。


「年間ランキング10位からです。

10位 男性 大学生 RPGの世界 中ボスの鬼に転生

 9位 男性 引きこもり 20代? 異世界転生 赤ん坊から

 8位 男性 高校生 二度目の異世界転生 元勇者

 7位 男性 職業不詳 20代? 異世界転生 オンラインゲームの骸骨キャラで転生

 6位 男性 料理好きの配管工 20歳 異世界転移

 5位 男性 住所不定無職童貞 34歳 異世界転生 赤ん坊から

 4位 女性 OL 30過ぎ 異世界転生 16歳少女 悪役令嬢

 3位 男性 高校三年 異世界転移 内政

 2位 男性 サラリーマン 異世界転生 赤ん坊から

 1位 女性 女子高生 異世界転生 蜘蛛に転生

 となっていますね」


「あれ、年間になると女性主人公一気に減るのね。流行りかと思った悪役令嬢も一作品だけだし」


「あくまで個人的な見解ですけど――」


「何かその前振り、伝統芸っぽいわよね……」


 ほっといてくれ。一応、自分の意見じゃないですよアピールは必須。そうじゃないと、異様に噛みついてくる読者とかいるからな。


「悪役令嬢は確かに人気がありましたが、日間ランキングに現れることはあっても、年間をとれる程ポイントは稼げないといったところでしょうか。何と言うか序盤の伸びは素晴らしいものがありますが、あまり続かないようです。それでも年間100位以内には結構ランクインしていますから、充分立派なのですが」


 年間ランキングを見る限り、やはり男性の方が読者として多いのだろう。

 一位の主人公は女性だが、やっていることは男性主人公と同じノリなので、あの作品の読者は男性がメインな気がする。あくまで、個人的な見解だが。


「年間になると高校生が三つにあとは20~30代ってところなのね」


「やはり、そこら辺がメインの読者層なのかもしれませんよ」


 もしくは、書き手の年齢が近いか。


「で、やっぱり転生がメインなのね。残りは転移と。ゲームがらみも二つある」


「俗にいうVRMMO系とは違うのですが、亜種みたいな感じですね」


 最近は普通にVRMMOの世界で遊ぶ話や、ログイン不可のデスゲーム展開はあまり見かけなくなっている。書き手としても色々捻りを加えてオリジナリティーを出そうと努力しているのだろう。


「人じゃない転生が三つかー。結構あるわね」


「まあ、一位の人が人外転生なのでそこから流行した説と、とある、なうろう作品がアニメ化されて人気が出たから便乗している。という説もあります。実際はどうだかわかりませんが、どういう経緯にしろ人外転生は結構増えていますよ」


 昔から人外転生はそれなりに人気があるのだが、ここ半年ぐらいは数が急増している気がする。


「あっ、そういえば、現地主人公が全くいないわ!」


「気づきましたか。そうなのですよ。主人公が全員日本人です。なうろうの現地主人公の不人気さは驚きますよ。累計でも30位になってようやく現地人の主人公が現れますから、その次が77位です。ちなみに累計100位内で日本人が主人公でない作品は5作品のみです」


 これは自分で調べていて本当に驚いた結果だった。

 正直、現地主人公でも何ら変わらない設定の話が結構あるのだが、やはり日本人が転生もしくは転移する話の方が、ポイントと稼ぎやすいのは間違いないようだ。

 これを知って思ったのが……自分が以前書いた作品は現地主人公だったが、異世界転生設定をしていたらもっと伸びていたのだろうか、という疑問が……はっ、今、自分ではない何かの干渉を受けた気がする!?


「急に辺りを見回してどうしたの?」


「あ、いえ。今、別の誰かの思考が頭に潜り込んできたような……き、気のせいですね。はっはっは」


「そ、そう。ならいいんだけど。でも、何で日本人が主人公ばっかりなんだろう。現地人でもいいような」


「うーん、そうですね。まずは前提に異世界が舞台の物語はラノベに既に大量にありますから、なうろうで読まなくてもいい、というのがあるのかもしれません。後は……感情移入がしやすい。物の考え方が理解しやすい。日本人独特の表現を使うことが出来る。それにより説明を簡略化することができる。というのが大きいのではないでしょうか」


 特に一人称で書いた場合『ゴムホースにムカデの手足を生やしたような姿をしている』と日本人の主人公なら書けるが、現地人ならそもそもゴムホースが存在しないだろうし、ムカデもいるのか? という疑問が生じてしまう。

 ぶっちゃけ、書き手としては日本人を主人公にすると書くのが楽なのだ。異世界の常識や風土を知らないから、そう言った説明も会話に盛り込むことが出来る。

 読み手としても簡潔に理解しやすいというメリットがある。


「後はそうですね。日本や地球の知識を文明が遅れている世界でなら有効に使いやすい。安易に知識で相手を上回ることが出来るってのもありますね」


 これは内政系や知識無双と呼ばれるジャンルの主人公となる。地球や日本での情報を持ちこんでいるだけなので、才能がなく頭の回転が悪くても、それなりに尊敬されることが可能なのだ。

 チートと呼ばれる能力を神から得られなかった主人公の大半がこっち系だろう。

 まあ、戦闘系のチート能力を有しながら知識無双も行うという、欲張りなキャラも結構いるのだが。


「学生と無職。あとはサラリーマンやOLが大半で、特殊な職業についている人ってあんまりいないのね」


「専門知識が必要な職種だと、書き手の知識が及びませんからね。想像や漫画小説テレビ……今はネットですか。それで得た情報と実際に経験している人とでは、話の深みとリアリティーが全く違いますから。ただ、事前に大量の資料を読み漁った人は除きますよ」


 自衛隊や医者が主人公の話を読んだことがあるが、作者は現役や元々その職に就いていた人だったようで、自分にはどう足掻いても書けない描写があった。


「でもまあ、それがポイントに繋がるかどうかと言えば、また別の話だったりしますが」


「どういうこと?」


「専門知識が必要な職場で働いていた主人公だとしましょう。その人が作中でそれらしい言動をしたとして、同じ職に携わっている読者なら違和感に気づくでしょうけど、読者の大半はその知識が無い訳です。つまり、それっぽいことを書いておけば大丈夫というのは周知の事実ですよ」


「あーなるほど」


「そもそも、格闘技の知識を披露されたとしましょう。格闘漫画だけで得た知識だったとしても、誰が間違いに気づくのです? 古武術を実際にやっている人や格闘技のシステマに精通しているって人が、なうろうの読者にどれだけいるのか、という話ですよ」


 大事なのは表現力だとおもう。極論を言ってしまえば、ファンタジー世界を経験した人なんて皆無だし、斧や剣を振ったことがある人も殆どいないだろう。


「って、話がずれましたね。ええと、特殊な職業についている主人公にする場合は、その専門知識が生かせるようなストーリーにするならありですが、別にその設定が無くても話が進むなら、無難な職や学生にした方がいいってことです」


「じゃあ、これまでの情報を纏めると、ポイントを稼ぎたかったら、主人公は日本人。学生かサラリーマン、もしくは無職。転移よりも転生。ここは基本ね」


「まあ、そうですね」


「あとは、流行りに乗るならVRMMOや人外転生に手を出すのもあり」


 流行は水ものだから、また新たな流れが来る可能性があるので、一概には言えないが――取り敢えず、頷いておこう。


「この情報があれば、私も明日からポイント右肩上がりよ。ぐふふふふふ」


 厭らしい顔をして、不気味な笑い方しているな。 

 それだけでポイントが増えるなら、俺はとっくに大人気作家の仲間入りをしているのだけど、それは言わぬが花かな。


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