コメントノススメ
「すみませんでしたっ」
謝罪、それは自分の誤りを認め相手に対し、その意志を示す行動であるっ!
本来ならこの場面であれば、軽く頭を下げ反省の言葉一つで足りる状況だろうっ!
だが、彼は違ったっ!
その場に膝を突くと額を大地にこすりつけたのだっ!
これこそ、日本流の最大の謝罪――土下座である!
彼の唯一にして最大の能力『土下座』が異世界に革命を起こす!
「これどう思う」
「当たり前の様に朝ご飯を一緒に食べて、ノーパソを開いたことにツッコミは無用なのでしょうか」
「そんなのどうでもいいから、この出だしどうよ」
インパクトはあるけど、あるけど……何でナレーションが無駄に暑苦しいのだろう。
「土下座しか与えられていないこの人に同情するかな」
「ふっ、現世で人を見下して碌に謝ることをしなかった罰として、この能力与えたのよ」
そう言われると、同情の余地はない気もするが、これからどうするつもりなのだろうか。
能力としては土下座をすれば相手の怒りを和らげるといった感じかな。
「短編向きですかね」
「何でよ! オリジナリティーとインパクトあるじゃない」
「インパクトはまあ、確かに。ずっとこの暑苦しい感じのナレーションを入れていくという方式はありかもしれませんね……確実に息切れすると思いますが」
このノリの小説があったら取り敢えず読んでみようとは思う。でも、終始このテンションだと三話ぐらいで飽きそうだ。結局これも短編向きかな。
「むむむ、じゃあオリジナリティーはどうよ!」
「異世界で土下座の能力というのは、オリジナルかもしれませんが、漫画や映画で土下座が一時期流行りましたからね。二番煎じだと思われても致し方ないかと」
「うーん、ダメかー。畑転生が思ったよりも高評価だからいけると思ったのに」
「あー、読ませてもらいましたよ。破天荒で良かったのではないですか」
誰も書いたことのない題材というのは、それだけで目を引く。ただ、それが面白いかどうかは全くの別物だ。畑転生は一見奇抜な作風に見えるが、実は意外と書きやすい題材だと思う。
美味しい野菜を作って、農業系ほのぼのを目指すもありだし、そこから発生させて人気ジャンルの一つである料理系に進むのもありだな。
土を操れるなら、それを強化させて土魔法のような立ち位置もいける。
「まあ、畑のまま手が生えて、動き出すとは思いませんでしたが……」
「でしょ、私も唖然としたわ……」
転生者を見守るだけで、送られた人が自主的に考えて行動するのをレポートする天聖子さんの作品は、いい意味でも悪い意味でも予想外の展開になるから面白い。
あれが、自分のような作者が考えて書いているなら、頭のどこかがおかしい人だろう。
「そういや、畑転生で思ったことなんだけど、この作品って否定的なコメントが殆どなかったのよ。いつもなら、細かい設定を指摘してくる意見とか、ストーリーに文句を書き込んでくる人とか結構いるのに、今回は皆無なのよね」
なるほど、コメントか。また、色々と言われそうな問題をぶっこんできてくれる。
「それに対する答えはわかりやすいですよ。畑から手が生えて動いている時点で、細かいことを指摘するのが馬鹿らしくなるからでしょう。ストーリー展開とか言う前に、転生先が畑ですし、動いていますからね、畑」
題材があまりにも突拍子が無いと、他がどうでもよくなるという珍しい例だろう。
「あー、そういうことか。でもさ、コメントで頑張ってとか、応援しています、面白かったって貰えるのは、ものすごおおおおおおおく、嬉しけど、あの小馬鹿にした意見とか、なんなのかしらね。最近むかついたのが、面白くなかったですってコメよ! じゃあ、黙って閉じろよ!」
余程、腹立たしかったらしく、食後直ぐだというのにポテトチップスお得サイズの袋を、無断で開封して貪っている。
「それは、作品を全世界に向けて公開しているのですから受け入れないと。それが嫌なら、コメントを書き込めないようにするか、書いた小説を誰にも見せずに自己満足で終わるかですよ。読者に与えられた当然の権利なのですから」
「良いコメントは欲しいのよ。ところで、ねえ……本音は?」
「黙って消えろ。ですかね」
「ほらやっぱり! みんなそうよね!」
「たまに作者だったら否定の意見や罵倒も謙虚に受け入れろ、という意見を耳にしますが、その通りだとは思いますよ。ですが、当たり前のことですが否定されたくて作品を書いているわけではないのです。あっ、間違いや矛盾点の指摘、誤字脱字のチェックは本当にありがとうございます。いつもお世話になっております」
「だから、誰に話しかけているのよ……」
誤解されたくないですからね。罵倒と否定と忠告とチェックは全くの別物。
「ただね、そういうコメントを残す人の気持ちはわからなくもないのですよ。途中までは凄く好みの展開で楽しみに読んでいたら、急に自分が思っていた展開と違う方向に流れだした。それでも、我慢して何話か読むわけですよ。また、方向修正することを期待して。でも、面白くない展開が続いて、もう読むの止めようとした時……イラッとするわけです。くそ、俺の期待を裏切りやがって。今まで読んでいた時間返せよ、と」
作品への期待度が高ければ高い程、その落差は激しい。実際俺も何作か途中で読むのを止めた作品がある。むしろ、最後までちゃんと読んだ作品は半分……いや十分の一もないかもしれない。
まあ、最後まで書かずにエタっている作品が、あまりにも多いというのもあるけど。
だから、出来るだけ自分は完結することを目指している。なので、長編を完結させた作者を応援しているし、尊敬している。
「これが、純粋な読者からのコメントなら、まだいいんですよ。ただ、同じように小説を投稿している人で、何作も途中で投げ出している人から指摘されたら、苛立ち度は尋常ではないですよ」
「ああ、いるわよね。自分はできないくせに文句だけは一人前以上のひとって」
「まあ、ここでの意見は一般論ですし、あくまでも架空の物語なのですけどね。この作者はそんなこと微塵も思っていないそうですよ」
「また予防線張っているわ、この人……」
「後は親切で、こういう展開にした方がいいと思います。みたいな意見も多々ありますね。ここをこうした方が、もっと感情移入できると思いますとか」
「あるある、私も結構言われているわよ」
何気にもう一袋食べ終わったのか。口の周り油でギトギトなのは忠告した方がいいのか。
一応そっと、ウエットティッシュを天聖子さんの方へ押しておこう。
「これは貴重な意見として参考にさせてもらっているのですが、ですが、これも書き方ですよね。頭ごなしで見下した書き方されても、誰も参考になんかしないのにな、と思う時があります。当人は、良くなるように指摘してあげたつもりかもしれませんが、そんなコメント、完全無視するか、意地でもそんな展開にしてたまるかと意固地になるかの二択ですよ」
「で、コメント欄ではどう返しているの?」
「感想ありがとうございます」
「うわぁ……」
そんな苦虫をかみつぶしたような顔をしなくてもいいのに。こんなの突っかかったら、粘着されるか都合の悪い部分だけコピペされて、掲示板に張り出されるだけだ。
伊達に炎上を経験していませんから!
「実際、面白かったですとか嬉しいコメントを残してくれている方にも、同じように返していますから、その人にも嫌な印象は与えないと思いますよ。同じ言葉でも込められた想いは全く違いますけどね……まあ、嫌な印象を与えてもいいんですが。建前上そうしておかないと」
売り言葉に買い言葉という展開だけはしてはいけない。
これを始めると、部外者が乱入してきて想像以上に炎上するからだ。自分の作品を好きな人が意見を交わすというのはいいのだが、最悪なパターンがある。
「読者ともめだすと、何故か完全な部外者が絡んでくるのですよ。作品を読んでもない人が、面白そうな揉め事だからって口を挟んできますからね。そしたら、更に激しく火の粉が飛び散るという悪循環が発生します」
「結構苦労してそうね」
もうね、あの時は筆を置こうかと思ったよ。自分も悪かったなと思えただけに、余計に辛かったな。
「コメントにはプラスとマイナスがあると思っています。面白かった、楽しかった。はらはらしました等のプラスのコメントは、作者にやる気を出させて創作意欲が湧いてきます。だけど、面白くない。つまらない。マンネリ過ぎる等の、マイナスな意見はやる気を減衰させます。それが性質の悪いことにプラスのコメでやる気が10上がるとしたら、マイナスのコメ一つで、やる気が50ぐらい下がるのですよ」
プラスとマイナスがイコールではない。これは作者の人ならわかってくれると思う。コメントを書いた本人が思っている以上に、作者へのダメージは大きい。
もちろん、そんなの意にも介さない人もいるだろう。でも、それはほんの一部だと思っている。だから、俺は決して否定的なコメントを残さないことにしている。
「子供の頃に習いましたからね。自分がされて嫌なことは人にしないって」
自分がここまで作品を書いてこられたのは、面白いと思ってくれた人の力だ。それは目に見えるモノで言うなら、コメントでありポイントであり閲覧数であったりする。
だから、今までコメントを書いたことが無い人は少し勇気を出してみて欲しい。作者にとってプラスのコメントは本当に嬉しいものだから。
「何か今、綺麗にまとめようとしていなかった?」
「キノセイデスヨ」
「でも、コメントって書きやすい作風とかあるわよね」
「謎解きの要素とか、思わず突っ込みたくなる展開とかですかね。ギャグっぽい方がコメントは書きやすいようですよ」
「なるほど。うーん、もっと手っ取り早くコメントを稼ぐ方法ってないかな」
この人は、いつも楽して何とかしようとしているな。そんな都合のいい方法があったら、まず俺がして……あっ。
「次はどんな話題を書いて欲しいか、ご意見ご感想が有ったら気軽にコメント欄に書き込んでください。次話の参考にさせていただきます」
「うわぁ……」
「あと、今回の様に否定派が絡んでくるような内容にすると、コメントも増えやすいですよ」
「うわぁ……」
ちなみに話の中で出てくるツッコミの一部は実際に友人に言われた事や、メッセージやコメントから抜粋しています。