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なうろう作家とメガミ様  作者: 昼熊


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このポイントさえ把握しておけば貴方もランキングに!

「と、いうタイトルで読者一本釣りしようと思うのですが、どうでしょう?」


 俺はさっきまで人の気配がなかった背後に振り返り、微笑む。

 一人暮らしのはずの男の部屋に佇む美女が驚き、こっちを凝視している。


「やるわね。私が現れると同時に声を掛けるなんて上達したじゃない」


 なんの上達だ、とツッコミたかったが小さく頷いておく。

 すると美女――天聖子さんは妖艶な笑みを返し、髪を掻き上げる仕草をした。


「ねえ、ところでこれって何の遊び?」

「意味もなく意味ありげな演出をしてみたかっただけですよ」


 俺の答えを聞いて納得したのか、いつものようにちゃぶ台を挟んだ対面に座る天聖子さん。


「咄嗟にこのノリを理解して付き合うとはさすがですよ」

「もう何年もコンビでやってるからね」


 そうか。第三者を挟むことなく、ずっと二人で漫談してきたもんな。普通は新キャラのテコ入れがあるものなんだけど。


「それで、話を戻すけどタイトル一本釣りって《このポイントさえ把握しておけば貴方もランキングに!》のことよね」

「そうですよ。これを見たら大半の作者は興味をそそられるでしょ?」

「まあ、ね。でもさ、嘘を吐いてまで客寄せするのはどうかと思うわ」


 天聖子さんはスーツ姿のミニスカートだというのにあぐらを掻き、ちゃぶ台に肘を突いて顎を支えると、じっとこっちを睨んでいる。

 その目は半眼で疑いの眼差しだ。


「嘘ではないですよ。今から指導するいくつかのポイントをしっかりおさえることが出来れば、ランキング入りは堅いですね」

「言うじゃない。じゃあ、教えてよ」


 鼻で笑いながらも興味があるようで、天板に身を乗り出している。


「では。まず、前々から何度も言ってきていますがタイトルが大事です。短くて意味ありげでカッコイイのがいい! なんて子供みたいな主張は今すぐ捨ててください。なうろうのシステムを知らない人が馬鹿にする、長文であらすじみたいなタイトルがベストです」

「前も聞いたけど、理由をよろしく」

「なうろうはPC、スマホで見ることが可能ですが、その割合はPCよりもスマホの方が倍ぐらい多いのです。ちなみにPCとスマホで閲覧するのでは何が違うかわかりますか、天聖子さん?」


 急に問い掛けると、しかめ面で考え込んでいる。

 天井を見上げ頭をゆらゆらさせてからパンッと手を叩くと、俺に向き直りニヤリと笑った。


「あれでしょ。スマホだと画面が小さくて見えにくい!」

「ドヤ顔で何を当たり前のことを言っているのですか。正解は総合ランキングを開くとPCはあらすじまで表示されるけど、スマホはあらすじが見えない、という点です」


 更に言うと、そこからタイトルをクリックしてもあらすじは表示されずに本編に移動する仕様になっている。《小説情報》をクリックしないかぎり、あらすじがわからない。


「えっと、じゃあスマホから、なうろうを見ている人はあらすじを無視する人が多いってこと?」

「正解です。なので、タイトルである程度内容がわからないと読まれません。『なうろうの長文タイトルってきんもー』とか言うレビュアーの方が結構いらっしゃいますが、そんなもん作者は言われなくてもわかっているのですよ。私だって短くてスッキリしたタイトルの方がカッコイイと思いますよ。でもね、評価してもらうには……まず読んでもらわないとだめなんです。内容もわからないようなタイトルだと、はじめの一歩すら踏み出してもらえません」


 短いタイトルでも読んでもらう方法もあるにはある。まず作者として有名になること。そうすれば好きな作者の新作というだけで、ある程度の読者には読んでもらえる。

 でも、そこから先が伸びるかどうかは……怪しい。嘘だと思うなら、なうろうランキング週間、月間の上位作品を見ればいい。すぐにわかるから。


「それでも、あらすじに手を抜いていい、というわけでもありません。PCで見る方も少なからずいますから。今のように特殊な状況だと在宅中の人はスマホよりもPCで見ているようですよ」


 スマホの方に需要があるのは通勤通学で読めるからだ。家にPCがある場合だとわざわざ小さい画面で見る必要はない。あ、寝転びながら見る人は別だけど。


「えっと、つまりまずは読者に読んでもらえるように、タイトルで内容がわかるようにする。あらすじもちゃんと書く、ってこと?」

「そうですね。タイトルとあらすじの重要性は以前も触れましたが、年単位で時間が経過すると変化が生じるので、前と言っていることが異なっていても大目に見てください」

「許してあげましょう」


 なんで天聖子さんが偉そうにしているのか。そこに触れると脱線しそうだから、無視して話をすすめよう。


「次になうろうで何が流行っているかを考察して把握する。流行に乗りましょう」

「それは前も言ってたわよね」

「はい。例えば今も追放ものが根強い人気があるようなので、そのシステムを学んでみましょうか」

「先生、よろしくお願いします」


 天聖子さんは胸の谷間から取り出した黒縁の眼鏡を掛け、手帳を開いている。

 この姿だけならできる女秘書っぽい。


「では、まず主人公の設定からいきましょう。目立った能力はないけどパーティーのまとめ役。追放されたときに読者から同情してもらえるような人格者が望ましいです」

「ふむふむ」

「能力は次のどれかがあればいいのでは。基本的には目立たないけど強い。器用貧乏の上位互換である万能キャラ。何か一つ秀でた能力がある。といったところですね。そして重要なポイントが一つ、わかりますか?」


 再び質問をすると、黒縁の眼鏡をくいっと人差し指で上げてからビシッと手を伸ばした。


「はい、天聖子さん」

「なんだかんだいってチート!」

「まあ、そういうパターンも多いですが違います。大事なのは……地味であることです」

「地味?」

「おや、納得がいかない顔をしていますね。パーティーのメンバーは派手でわかりやすい強力さが望まれます。そして主人公は能力や性格が地味。縁の下の力持ちを演じてもらうのです」


 能力も性格も地味。というのもありなのだが、どちらか一方でも構わない。

 能力は派手だけど地味を装う。能力が目立たなくて地味っぽい。ようは追放されるまで目立たない立ち位置であればいい。


「主人公の設定はこれで完璧です。では仲間の設定について。四、五人ぐらいのパーティーに所属していて、主人公以外はもてはやされていて有能だと周囲から評価されている。それでいて、見る目がないお間抜けキャラ」

「お間抜けキャラ?」

「そう。主人公の有能さに気づかずに自分に酔いしれている系がベストですね。そして、主人公を疎ましく思って追放するような間抜けさがポイントです。人を見る目がない、という点が何よりも重要です」

「あー、そういう展開何度も見たことある!」


 思い当たる節があったようで、激しく頭を上下に振って同意してくれている。


「あとはパーティーメンバー全員を嫌なヤツにするより、何人かは主人公の有能さを理解している、とやった方がいいですよ」


 物語にあとで絡めたり、主人公の有能さを語る役として活用できるから。


「では、次にストーリーですね。まず、主人公がパーティーから追放されるシーンから始めます。その時のやりとりで、主人公の人柄と追放する側の無能さをアピールしましょう。ここで読者から同情してもらえるかどうかが重要なので」

「共感できたら一気にのめり込めるもんね」


 少し喉が渇いたのでペットボトルのお茶で潤す。

 引きこもり生活が続いて人と話す機会が減ったから、天聖子さんとの会話はとてもありがたい。


「追放される主人公。ここからパターンがいくつかあります。自分は無能なんだと落ち込むが誰かと組んで『えっ、もしかして俺って超スゴい?』と実力を自覚する。もしくは『追い出したアイツらのことは忘れて満喫しよう!』と自由な生活を楽しむ。とかですね。重要なのはどんな展開にしろ、主人公が有能だったアピールです」


「実は主人公のおかげで前のパーティーも成り立っていました! っていうあれね。前のパーティーの人たちが主人公がいないことで失敗する話も入れたりなんかして?」

「わかっているじゃないですか。大事なのは実は主人公が有能だった! という展開です。追放まではシリアスで暗いノリでもいいのですが、直ぐに認められる流れを入れましょう。不幸展開を引っ張りすぎるのはアウト」


 これは需要と供給の問題で流行の追放系が読みたい、という読者の多くは主人公がどんどん不幸になっていく展開は求めていない。不幸からの認められて大活躍、という早めの爽快感が必須になってくる。…………と考察している。

 あっと、これはフィクションであり、内容はただの憶測なのであまり信用しないように。


「それで、それからどうするの!」

「あとはまあ、適当に活躍したらいいんじゃないですか?」

「なんで、そっからは投げやりなのよ!」

「いえ、ここから先はあまり重要じゃないからですよ。ここまでの展開で読者を引きつけてポイントを稼いだら任務終了です。うまくいけばランキングに載りますよ。あとは自分の好きな展開に持っていけばいいのでは。それと、当たり前ですが今までの説明に加えて自分のオリジナル要素を最低一つは入れてください。人気の出た追放ものをパクりまくって寄せ集めてもいいですが、私は責任を取りませんので」


 ランキングに入る秘訣の一つにスタートダッシュがある。十話ぐらい投稿してランキングに擦りもしなければ、その後トップ5に入るのは難しい。

 もちろん例外もあるので一概には言えないが、確率の問題だ。


「勘違いしないで欲しいのが、これと似たような展開に見覚えがある、からといってそれがパクりとは限りません。そもそも、流行の元となった作品が存在するわけですから。パクりだと思ったら元祖だった、って洒落にもなりませんよ」

「それは私も気をつけないと」


 似たような書き込みをした覚えがあるのだろうか、うんうんと何度も頷いている。


「他に気をつけるポイントは。文章を詰め込まない。何行かごとに1行開ける。これはスマホで読むと思っているより文字が詰まって見えて目が疲れるからです。あと初めの数日は毎日更新を欠かさない。そんなもんですかね」


 これも何度か触れてきたことなので、今までのおさらいと新たな攻略方法といったところか。

 しかし、追放系がここまで流行るのは予想外だった。流行った作品についてあれこれ考察するのは俺にだってできるが、次に流行りそうなジャンルを先読みするのはかなり難しい。


「追放系かー。あ、そうだ! 先生も書いてみたら追放系の新しいのを」

「だから先生はやめてくださいと。……んー、ここまで考察しておいてなんですが、追放系のネタも出尽くした感があるのですよ」

「大丈夫。そこは私が新しいの考えてあげたから。現代風にしてタイトルは《出版社から追放された作家だけどスキル(コピー)と(アレンジ)で別レーベルに拾われる》ってのはどうよ」

「洒落にならないから、やめてください!」

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最後のオチ [気になる点] 色々な著作の続き
[一言] オチが秀逸www
[一言] オチの洒落になって無い感にストレスの溜まり具合いが察せられました。
感想一覧
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