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なうろう作家とメガミ様  作者: 昼熊


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ポイントを上げる方法とパクリ

「いや、ないわー。さすがにこれはないわー」


 原稿が仕上がって少し時間が空いたので小説投稿サイト『なうろう』のランキング上位作品を読んでいた。

 ランキングに入るのも納得な作品もあれば、何故受けたのか俺には理解できない作品もあり、読者の好みの難しさを思い知らされる。

 まあ、そこまではよかったのだが、とある作品を読んで俺は――激怒した。

 他人の作品を読んでここまでの怒りを覚えたのは初めてだ。


「ダメだろ、これは。酷い、酷すぎるぞ!」


 怒りに任せてコタツを叩いた手が痛い……。


「そんなに怒るなんて珍しいわね、どうしたの? 編集さんに無茶振りされた?」


 聞きなれた声が正面から聞こえる。

 ノートパソコンの画面から視線を少し上に向けると、対面に天聖子さんが座っていた。

 今更、指摘する必要もないと思うが、さっきまで部屋には誰もいなかった。


「おー、寒っ寒っ。コタツの威力上げてよ」

「それいいのですが、さらっと危ない発言はやめてください。私は編集さんに不満をもったことなんて…………一度モ、アリマセンヨ」

「冗談めかして目が本気っぽいのがやだ」


 一体何を仰っているのか、皆目見当もつきませんな。


「でさ、怒ってた理由はなんなの?」

「それがですね、なうろうの日間ランキング上位の作品を読んでいたら、あまりにも酷い内容の作品があったのですよ。あっ、この物語はフィクションであり、なんたらかんたらですよ」

「何、その雑な注意書き」


 呆れた顔の天聖子さんは手慣れた手つきで、俺が隠していたお菓子を見つけ出すと、コタツの天板に並べている。


「いやね、本当に酷い作品を見つけてしまったのですよ。前々から噂を耳にはしていたのですが、あそこまで露骨なパクリだとは……。正直、呆れすぎてあんぐりと開いた口が裂けそうになりましたよ」


 以前から悪い噂の絶えないなうろう作家の一人だったが、今までその人の作品を読んだことがなかった。

 今回は自作品が久々にランキングに入ったので、参考にランキング内の作品を読んだのだが、それが失敗だった。


「パクリって言うけどさ、なうろうの作品なんて殆どがどこかで見たような内容じゃないの。死んで異世界に転生してチートもらって大活躍。とかさ」

「それを全て否定したりはしません。私だって異世界転生や転移ばっかりですし、どこかで見たことのある展開が含まれていない、とは断言できませんからね。でもね、異世界ネタはもはやジャンルの一つとして成り立っているのですよ。ラブコメ、異能バトル、学園物とかと同じです」

「前もそんなこと言ってたけど、まあ確かにそうよね。でもさ、それとパクリって何が違うの? ほら、オマージュとかインスパイヤと言ったりもするけど、その差がわかんないのよ」


 なるほど、そこを指摘してきたか。俺も同じようなことを思って調べたことがある。


「そうですね、じゃあパクリとその他の違いを軽く説明してみましょうか。インスパイヤ、オマージュ、リスペクトは他作品に刺激を受けて作られ、元となった作品を尊重しているので自ら参考にした作品を公言できます」


 天聖子さんが何度も頷いているが、本当に分かっているのかは怪しい。


「次にパロディは元作品を知っていてもらわないと成り立ちません。有名作品のネタやシチュエーションを真似ることで笑いを取るのですから、元作品を知ってもらわないと意味不明な内容になってしまいます」

「ふむふむ。パロディって漫画に多いイメージだけど、言われてみればマニアックな漫画ネタって見たことないかも。有名作品の印象的なシーンや台詞を面白おかしくいじってたりするわよね」


 そう、読者の大半がわかるネタじゃないと意味がないので、元ネタがバレないと笑いが成立しない。


「で、パクリですが。これは単純明快で元ネタがバレたら困る作品です。人のアイデアを流用して、さも自分のアイデアのように振る舞っているので指摘されると焦ります。パクるって、そもそも盗むって意味ですし」

「うーん、つまり『なうろう』の異世界作品はインスパイヤとかオマージュで別に悪くないと。んでもって、パクリは盗作だから駄目だってことよね」

「簡単に言えばそうですね」

「で、違いは」


 くそう、理解している振りをして話を全く理解していなかったぞ。


「んー、なんと言えばわかりやすいのでしょうか。例えば私が激怒した作品は、奇抜なアイデアも、話の展開も、設定も、キャラも、元となった作品をズバリ言い当てることができます。それぐらい露骨にそっくりでした」

「でもさ、そういう作品の内容って多くない? ほら累計ランキング上位でアニメ化した作品とかの類似作品って多いでしょ?」


 天聖子さんの言いたいことはわかる。確かに人気作に追従して似たような作品が乱立することは多い。


「あれは設定の一部が似ていたり、外側が同じに見えて中身は別物だったりしますので、そこまで酷くないのですよ。私が問題にしている作品は有名作品のネタをいくつも持ってきて、継ぎ接ぎしているだけなのです。これがポイントの少ない新人さんの作品なら、真似るのも勉強の内だなーで済むのですが、何作も同じ手口で書籍化されている人となると、ね」

「えっ、そんな露骨なパクリとかしている人の作品が出版されるわけないでしょ? 出版社の人って、その道のプロなのよ。そんな怪しい作品を売るわけが」


 小首を傾げている姿はかわいらしいが、それはともかく考えが甘い。


「いいですか。前にも言った気がしますが、商業での小説家は売れた人が偉いんです。怪しいところがあろうが、お金を稼いでくれる作家が出版社の求める作家です。出版社は慈善事業ではなく商売でやっているのですから」


 どんなに内容が評価されようが悪評がなかろうが、売れなかったら商業作家としては失格なのだ。

 これは小説に限ったことじゃない。漫画だって昔は異世界転生、異世界転移作品は年に数えるぐらいしかなかったが、今は『なうろう』が巻き起こした異世界ブームに便乗してオリジナル漫画でも「これ、なうろう原作じゃないの?」と思うような作品がいくつもある。

 ただ、こちらは流行りに乗っただけなのでパクリではない。流行に敏感なのは作家として当たり前のことだから。

 ……ちょっと思考が脱線してしまった。元に戻さないと。


「そのパクリ作家の何が腹立つかと言えば、他人のネタで受けたくせに元ネタに対しての尊敬の念もなく自分の手柄にすることなんですよ! そのアイデアを生み出すのにどれだけ苦心してきたのかも知らずに! パクリ元を知らない人が、その泥棒を褒めているのを見ると、もうイライラしてきて!」

「お、落ち着いて。苛立ちは理解したから、ほら、深呼吸して。吸ってー、吐いてー」

「すーはー、すーはー。……ありがとうございます、少し落ち着きました」


 やっぱりため込むのはダメだな。天聖子さんに話したら、かなりスッキリした。


「……まあ、全部フィクションなんですけどね。実際にそんな作家が存在するわけがありませんし」


 そう断言すると、凍てつくような視線を俺に向けてきた。

 ノートパソコンで視線を遮断しておこう。


「パクリをする人って、なんでそんなことするのかな」

「アイデアを生み出す発想力がないのだと思いますよ。だけど、売れたいし人気者になりたい。『だったらパクればいいじゃないか! 自分でアイデアを考えないでいいから楽だし! よーし、人気作品をパッチワークするぞー』ってノリでは?」


 これだけ辛辣なことを言っておきながら、自分のアイデアが既に先を越されていて、パクリ認定されていたら目も当てられない。


「でもさ、人のネタをパクってつなぎ合わせただけの作品って面白いの? やっぱり元ネタには劣るんじゃないかな。それを分かりやすく、作家らしく例え話で説明して?」


 頬杖をついておねだりしているが、なんという無茶振り。

 だが、それぐらいの要求に軽く答える頭の回転力がなければ作家を名乗る資格など……ないっ!


「人気作は例えるなら一品料理なのですよ」

「ふーん、それで?」


 くそっ、俺の困っている顔を見てニコニコ笑っている。S気味なところがあるとは思っていたが、露骨なぐらい表に出してきたな。


「そして、そのパクリ作家の作品はコース料理と考えてください。素材アイデアや調理法(設定)にこだわった一品料理を真似て、コース料理として提供しているのです。調理人の腕が劣るので一品一品の味は劣化していますが、どれも元が素晴らしいのでそれなりに美味しいんですよ。それが連続して提供されるわけです」


 説明しながら頭の中で文章を組み立てているが、辻褄を合わせるのが難しいぞ。


「元のネタ……を知っている人にしてみれば、人気の料理を真似たものばかりなので不満が溜まります。ですが元の味を知らない人にしてみれば、それなりに美味しいコース料理に思えるのですよ」


 ど、どうだ。ちょっと分かりにくいかもしれないが、結構いい感じの例えじゃないか。

 天聖子さんの反応は、


「七十五点ね!」


 辛口だった。

 頑張ってみたが捻りが足りなかったか。


「パクる人ってさ、そんなことをしないでもポイントを稼げる方法があったら、パクるのやめるのかな」

「どうでしょうか。……あっ、ポイントと言えば最近実験した方法がありますよ。実際にポイントが増えたテクニックですが、聞きたいですか?」

「えっ、そんなのあるの⁉ 教えて、教えて!」


 こっちは今のところ問題がない方法なので教えても大丈夫だよな。


「私が新作を上げたのはご存知ですよね?」

「うん、村づくりなんたらーってやつでしょ」

「それです。それがありがたいことに、総合日間ランキングで三位、四位辺りをうろちょろしていたのですよ。毎日二千ポイントちょい増えるのが三日ほど続き、そこで他の作品はどんなかんじなのかなーってランキング上位を調べてみました」


 その時にあのパクリ作品を見つけたのだが……それはもういい。


「他の作者さんの多くがあとがきに『面白かったらブクマ、評価お願いします』みたいなことを書いていまして」

「あれ? そういうのって規約で違反じゃなかったっけ」

「私もそう思っていたのですが、どうやら大丈夫らしいのですよ」


 初めて見た時はYouTubeで動画見た時の最後に出てくるやつみたいだなー、とか思ったが、そんな感想はどうでもいいか。

 もし違反行為と判断されて運営に怒られたら、またここで取り上げようと思う。


「そこで、私もいっちょお試しでやってみようかと思ったわけです。毎日のポイントが同じぐらいだったので、比べるのにも最適なタイミングでしたからね」

「へえー、それでどうなったの? あとがきに書いたとしてもちょっと増える程度でしょ?」


 普通はそう思うよな。俺も少しでも増えたら嬉しいなー、ぐらいの軽い気持ちで実行した。

 結果は――


「ポイント激増しました。前日と例えるなら二倍以上伸びて、一日で五千ポイント突破です」

「……嘘っ⁉」


 天聖子さんが驚きのあまり口にしていた板チョコがコタツに落ちたので、拾って拭いておいた。


「驚くのも無理はありませんよ。私も少しは伸びるかなーと期待していましたが、まさかここまでいくとは思いもしませんでした」

「でもそれって、更新した話が面白くて受けたとかじゃないの?」

「私も同じことを考えたのですが、アクセス解析してもPVは前日とほとんど変わっていませんでした。読んでいる人の数が増えてないのにポイントは激増した。つまり、多くの人はブクマや評価をしないで読んでいて『ブクマ、評価お願いします』という、あとがきを見て『あっ、そういやブクマも評価もしてないな』と思ってポチっとしてくれるようです」


 だから、あとがきに書くのは有効な手段だと言える。

 うちの母も『なうろう』読者で前に電話で話をすると、


「そういや、私もブクマとかしてないわね。好きな作品のあとがきに、そんなこと書いてあったら入れようって思うかも」


 と言っていた。意外とこういう人が多いようなのだ。

 俺もブクマに入れずに連載を追っている作品はあるので、人のことは言えない。


「じゃあ、あとがきに『面白かったら評価、ブクマお願いします』みたいなことを書いておけば得なのね」

「毎回それがあると鬱陶しいでしょうが、たまに書くと効果的かもしれませんね。……ただ、大きな欠点があるのですよ」


 俺が声を潜めて深刻そうな声を出すと、ごくりと天聖子さんが唾を呑んだ。


「欠点……?」

「作品が面白くないと、そもそものポイントがもらえません!」


 堂々と言い放って天聖子さんの反応をうかがうと、眉根を寄せて渋い顔をしていた。


「オチがいまいちね、十五点」


 こっちのポイントは上がるどころか下がるらしい。



はい、この物語はフィクションであり登場作家とかは架空の存在ですからね!

くれぐれも勘違いしないでください! 昼熊との約束だぞ!

あ、それから新作始めました『村づくりゲームのNPCが生身の人間としか思えない』

https://ncode.syosetu.com/n1119fh/

よかったら読んでみてください。

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